バリアフリー推進勉強会

当財団では、移動円滑化に関する新しいテーマや課題について、関心のある方々と情報共有し改善の方向性を考えることを目的とした交通バリアフリーに関するワークショップを月に1回開催しています。

第72回バリアフリー推進勉強会 開催結果概要

船旅・島旅とバリアフリーを考えるセミナー@竹芝

開催日時
令和6年3月11日(月)17:00〜19:00
開催場所
東京ポートシティ竹芝 3階 まちづくりプラザ&オンライン
参加者数
90人
講演
橋口 亜希子氏(橋口亜希子個人事務所)
動画等紹介
橋 徹(公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団)
講演者@
鈴木 俊明氏(東海汽船株式会社)
講演者A
犬島 朋子氏
講演者B
千葉 努氏(一般社団法人大島観光協会)
パネリスト
橋口 亜希子氏
鈴木 俊明氏(東海汽船株式会社)
犬島 朋子氏
千葉 努氏(一般社団法人大島観光協会)
コーディネーター
澤田 大輔(公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団)

講演概要

■パネルディスカッション

【橋口氏】

 発達障害のある人の公共施設利用の困りごとは、@人混みや大勢の人、ABGM、騒音、デジタルサイネージなど情報が入りすぎること、B知らない人や周囲の視線が怖いこと、C順路や利用方法など暗黙のルールがわからないこと、D自分のペースで利用ができないこと、E大きな声が出てしまうこと、F周囲の人に迷惑をかける心配があること、G不安になったとき、気持ちを落ち着けられる場所がないことなどである。
 加えて、船旅では、乗り慣れていないこと、途中で降りられないこと、落ち着ける場所があるかわからないこと、方向がわからないこと。島旅では、非日常な場所、初めての場所、慣れない場所では不安があること。特にトイレが大きなネックとなる。そのため、行きたくてもいけないと諦めている人が多い。
 一方で、発達障害のある人にはソフト面が重要。発達障害は、別名、情報処理障害といわれ、例えば、事前に場所や案内などの情報保障を行うことが大事。2024年4月1日から民間事業者に対し、合理的配慮の提供が義務化される。障害者手帳の保持者に限らず、情報保障していくことが合理的配慮の提供になる。ハード面においては、発達障害者が利用できるようにするため、船にもカームダウン・クールダウンを設置することが望ましい。カームダウン・クールダウンとは、パニックになったときに落ち着くことができ、未然に防ぐことができる場所のこと。国土交通省では、『知的障害、発達障害、精神障害のある方とのコミュニケーションハンドブック』を公開しているので、参考にしてほしい。
 発達障害を手がかりとして考えるユニバーサルデザインで大切なことは3つ。1つ目はプロセス。現場を見て、話を聞いて、関係者で作り上げることに価値がある。つまり、プロセスエコノミーにしていくこと。2つ目は、常に発展途上であるという考え方。ユニバーサルデザインに答えはない。1つ改善しても、それが完成ではなく、さらに改善していく、PDCAサイクルで回していくこと。3つ目は、発達障害の特徴は幅が広く、相反する相対的な特徴のある人たちもいるので正解はないという考え方。
 ユニバーサルデザインにおけるハード面の課題として、規模や財政的課題を抱えている地方等では、必ずしもモデル展開できるわけではない。加えて、障害者等が使用できる施設や設備があったとしても、それはあくまで「点」であり、移動や困りごとの解決に必要な設備と周辺の設備との関係性を考慮した「面」が重要であり、部分ではなく全体最適となる考え方の「空間デザイン」が必要不可欠。
 一方で、ユニバーサルデザインにおけるソフト面の課題として、見えにくい障害への支援はブームやトレンドではなく、情報発信することが重要。例えば、カームダウン・クールダウンがあっても、その言葉の意味や背景、目的を知らなければ意味がない。さらに、障害者権利条約などに基づき、企画の段階から当事者等に意見を聞きながらソフト面の運用を進めていくことが重要。
 まとめに、自身の当たり前や価値観は他者とはちがうことに気付くということ。そして、ユニバーサルデザインは万能なものではないことを前提にすること。さらに、発達障害において、新たな偏見や差別、障壁をつくらないこと、取りこぼれる人たちがいないように一人ひとりに向き合い、画一的な対応をしないこと。1つの解決策だけを見出さず、選択肢を作ることが大事。一方で、すでにあるもののいいところを発見し、見える化し、情報提供していくことが情報保障の一つにもなるということ。製品開発や取組は、地域やユーザーを上流から巻き込んでいく、インクルーシブデザインの考え方で進めることが大事。そして、そのなかで、地域やユーザーのなかに潜在化している困りごとに耳を傾ける。その困りごとを手がかりとして、多様な方法・手段を実現していくことが大事。日本国内だけの狭い視点ではなく、世界的な広い視点でインクルージョンを考えていくことが今後の課題。

【橋】

 冊子や動画作成の発端は、身体障害以外の困りごとがある人にも旅客船に乗って離島を楽しんでもらいたいと考えたこと。そこで、身体以外の困りごとがある子どもの親に船の印象や困りごとを聞いた結果、見通しが立てられるように事前に手引書や動画や見学ツアーなどの学習機会を得る必要があることがわかった。そのため、困りごとのある10歳の女の子に船旅・島旅のモデルとなってもらい事前学習の「旅のしおり」を作成。作成のポイントは、文字やキャラクターなど使い年齢層に合わせたデザインにしたこと。また、行程をわかりやすくするため、シーンに順番をつけること。シーンを矢印でつなぐことによって、次の行動の見通しがわかること。写真を多用し、トイレ、部屋の様子、備品を紹介すること。などの工夫を行った。

【鈴木氏】

 昨年、エコモ財団とバリアフリー研修を実施し、障害当事者講師から声掛けの重要性や介助・誘導の方法など実践的な内容を学んだ。その後、当社として問題がないと思っていた設備やサービス、情報提供もまだまだ足りていない点を認識し、今後、改善に取り組む予定としている。一方で、新たな設備等として、スターリンクによる通信環境の向上や船内3Dマップによる情報提供を実装する。従来のホームページに掲載されている船の紹介ページは、写真や文字のみだが、3Dマップで船内を自由に見学できる。乗船前に知りたい情報などを事前に見て、知ることができ、船旅・島旅に行こうと思ってもらう大事な第1歩になると期待している。

【犬島氏】

 難病の中途障害者で、車いすユーザー。短距離なら、歩くことも階段の上り下りもできる。旅行が好きであちこち出かけているが、伊豆大島には行ったことがなかった。行くという選択肢にそもそも入っておらず、考えたこともなかった。東海汽船のバリアフリー研修に協力することを機に乗船したみたところ、良い意味での驚きがあった。なぜかといえば、船に乗り、寝て起きたら島という非日常の体験。さるびあ丸は、車いすユーザーも安心して乗れるバリアフリー化船であり、船員の応対が素晴らしかった。通常良いと言われる航空機の接遇は、マニュアルありきの応対であるが、船は、マニュアルというよりも、船に乗ってくるお客様を守るという真心の接遇があり、そこに感銘を受けた。
 また、島のバスは、当初、ノンステップバスの車両ではなかったが、車椅子ユーザーが乗車するということで、すぐにノンステップバスの車両に変更し、そのやり方が、気負わずナチュラルに臨機応変な対応ができていて、感動した。
 さらに、島全体として混んでいないことがよかった。車いすユーザーに限らず、障害者は、混んでいるところが苦手なので、安心して旅行できた。
 伊豆大島ジオパークは、火口までトレッキングルートが舗装され、道幅が広く、車いすでも健常者と同じルートで行ける。裏砂漠という、日本唯一の砂漠にも車いすのままで行ける。もともとトレッキングが好きだったが、車いすで行ける場所はほとんどないので、今は完全に諦めていたが、伊豆大島ではまとまった距離を健常者と同じルートで、同行者と一緒に目的地まで行けることに深く感動した。高齢者も、車いすのような補助具があれば行けるが、このようなルートが知られていないため、諦めている人は、たくさんいると思う。誰もが楽しめる場所なので、もっともっとたくさんの人に知ってもらいたい。
 最後に船の課題として、障害者対応がシームレスになっていないこと。ウェブサイトではバリアフリー情報が分散し、車いすユーザーが本当に乗れるかどうかわからないため、すごく不安がある。また、電話問い合わせの時や、乗船時など、ポイントごとで情報が共有されていないので、トラブルが発生しがちであり、その都度動揺する。この原因は、オペレーションの中で、障害者がイレギュラー対応になっていること。これは、個々の職員の接遇で解決できる問題ではなく、しくみの問題。改善の余地はあるが、本当にポテンシャルが高いので、今後に大いに期待。ぜひ、いろいろな人が楽しめるということを宣伝してほしい。

【千葉氏】

 伊豆大島は、伊豆諸島最大の活火山の島。椿の島としても有名。「日本ジオパーク」に2010年に認定された国立公園の島。特徴的なのは、日本で唯一の砂漠がある。伊豆大島は、島の中央に三原山があり、島の人からは、御神火様として崇められている。川が一切ないので、水の苦労が絶えない暮らしとなっている。近年、島内でも宿泊施設やお店で補助金等を活用し、バリアフリー化が進められている。
 私が、バリアフリーツーリズムを考えた際に意識しているのは、“ゆらぎ”、“ゆだね”、“ゆとり”というキーワード。「ゆらぎ」とは、人間は多種多様なので、その方の意思や状態は常に変化している。そういったところをお互いコミュニケーションを通じて感じ取りあう関係性の構築。「ゆだね」とは、自分でここはやりたい、ここはサポート受けたい、というところは常に変化している。そういった関係性をお互いに意識しながらコミュニケーション取れるようなバランス感覚。「ゆとり」とは、段差がない、◯◯がない、◯◯があるという決まりきったものではなく、プロセスエコノミーの話もあったが、そういった過程を楽しむこと。
 旅から“ゆらぎ”、“ゆだね”、“ゆとり”を考えると、「ゆらぎ」では、非日常の環境に身を置くことで、自分の置かれている固有性に気づくとか、相対性に気づくことができる意味で、旅は誰にとっても、可能性を広げる貴重な時間だと思う。「ゆだね」では、知らなかったことに出会ったり、新たな環境を知る、発見する体験に心から楽しめると思う。「ゆとり」では、移動の快楽や好奇心といったポジティブな要素以外にも、心細さや不安な状況が常にある。そのような感情の危機も、それをプロセスとして楽しむ、そういったことに価値を見いだすということが大事であると思う。

【コーディネーター】

 船旅・島旅以外に行きにくいものが行けるようになった取り組みの例を、日本でも、世界でもいいので、ご紹介してほしい。

【橋口氏】

 イギリスのプレミアリーグで先進的に取り組まれているセンサリールーム。センサリールームとは、諦めを行けるに変えた希望の施設。サッカースタジアムというものは、たくさんの人がいて、日常的に行く場所ではない、人混み、大きな音、光などさまざまな困りごとがある。そういった中で、音や光が配慮され、センサリールームがあることで、サッカー観戦できないと思っていたお子さんとご家族が一緒に楽しめる。海外、特にイギリスでは、センサリールームがあることが当たり前。日本でも最近、広島の新サッカースタジアムで、日本初、基本設計の段階からセンサリールームが新設された。

【コーディネーター】

 イギリスでは歴史的に長い取り組みをしてきたのでしょうか。それともここ最近、急速に取り組みが強まったのでしょうか。

【橋口氏】

 日本が障害者差別解消法を施行する3年前の2010年に、イギリスでは障害者差別禁止法を廃止している。廃止したことによって、平等法というのを打ちだしている。ただ、視察してわかったことは、狭義の社会モデルを実現しているからこそ、スタジアムというのは、誰もが来られる場所でなければならない、なぜなら、スタジアムというのは、地域による、地域のための、地域に愛されるものでなければ、持続可能なものにならない。誰もが来られる場所でなければならないとして、実現している。そういう意味では、関係者に聞くと、平等法は「個人モデル」であり、センサリールームは「社会モデル」と考えて作っている。

【コーディネーター】

 今回、バリアフリー研修を行うことで、人的対応の拡充にも取り組みを始めたと思うが、そのなかで、客層の広がり、より多くの人に利用してもらい、船を使って島に行ってもらう流れについて、マーケティングの視点から、船会社として期待していることがあれば、教えてほしい。

【鈴木氏】

 船のお客様が、年々、多様化していると感じる。しかし、お客様の変化にわれわれがまだ追いついていないという課題がある。バリアフリー研修を通して、まずは何に対してお客様が困っているのかということに気付き、いかに不安を事前に取り除くことができるか、そのためにもわかりやすい情報発信にかかっている。より多くのお客様に、マーケティングの面も含め、必ず必要な情報を誰でも届けられる仕組みをつくる必要がある。情報のバリアフリー化とか、対応がまだまだ局所でつながっていないとか、課題はあるが、今、当社で心がけているのが、そういういろいろな情報を1つにまとめて、そこを見れば、誰でも情報が伝わるようなホームページ作りから着手している。すぐに改善はできないが、少しずつでも、皆様に船に乗ってみようかなと思ってもらえる情報発信を心がけたい。

【コーディネーター】

 さきほど、お客さんの多様化に企業としては追いついていない部分があると、正直にお話しいただいたが、それを正直に受け止めたからこそ、今いろいろな改善の取り組みをされていることだと思う。次の犬島さんへの質問にもつながるが、船旅・島旅の情報集めをどうしているのか。加えて、情報に行き着けないと行けないとなってしまうが、行けないというイメージの払拭に必要なこと、最低限取り組んだほうがいいということを教えてほしい。

【犬島氏】

 私は、わりと自立しており、自力でなんとかできることが多いので、あまり調べないタイプ。ただ、船だと、「さんふらわあ」さんのウェブサイトはとてもよくできていて、「お手伝いを必要とされるお客さまへ」というページがあり、そこにアクセスすれば必要な情報がまとまっている。情報が分散し、いくつもページが分かれていたりすると、その時点で旅行へのハードルは上がってしまう。そこに行けば、すぐ情報が見てわかる。そして必要な情報がまとまっているのがいい。公共交通の中で最も進んでいるのが、航空会社のページ。世界水準に合わせているので、それを目指してつくることができるといい。

【コーディネーター】

 まさにトップランナー基準ではないですが、優れたところをまねて全体が進化していくのは、大事。そういう意味では、個々の船会社の問題でもありますが、今日、旅客船協会の皆さんにも来て頂いているので協会として、一つのテーマとして取り組んでいただけたらと思う。次に千葉さんへの質問ですが、島のバリアフリーの取り組みは少しずつ進んできたということ。同時に、観光資源はたくさんあり、あれもこれも見てもらいたい。だけどアクセスができないところもあるという現状があると思う。これまでバリアフリー化整備に関するリクエスト、来島者の意見とか、または島側からの意見とか、そういった要望は、観光協会として、把握して取り組んできた経緯はあるのかをお聞きしたい。

【千葉氏】

 お客様も多種多様な方がいて、誰にでも満足してもらう体制をつくっていかないといけない。まずは、情報をしっかり整備して、求めている情報に対して答えが出るような環境整備を進めないといけないと感じる。大島は、伊豆大島ジオパークに認定されている。ジオパークの考え方は、観光はもちろんだが、教育や産業、防災という観点からまちづくりを進めていくのが1つポイント。そういう意味で、大島町と一丸となって、伊豆大島ジオパークという観点から、環境整備を進めるということで、お客様のいろいろなニーズに対する答えやハード・ソフト面含めて、いろいろ進んでいくと思うので、今後の取り組み次第で、よい環境の島にしていきたい。

【コーディネーター】

 最後に、一言ずつ。

【千葉氏】

 観光は、今まで観光スポットや島の魅力を伝えるのが、メインだった。伊豆大島ジオパークの理念に基づいて、大島らしさというところをお客様に届けていくことで、唯一無二の観光地として認知されていくと思うので、オリジナリティを磨いて、より広くのお客様に楽しんでいただける島を目指したい。

【犬島氏】

 「伊豆大島 車いす」で検索しても、まったく情報がヒットしない。こんなにもいいところなのに、車いすユーザーはほとんど行ったことがない。ポテンシャルはものすごくあるので、いろいろな方が様々なことに取り組んで、少しでも多くの多様な方々が伊豆大島を楽しめるようになるといいと思う。

【鈴木氏】

 当社のスローガンは、「安全運航」。安全運航は、ただ船がA点からB点まで着くということではなく、お客様に楽しんでもらえるところまで含め、ちゃんと目的地に到着する、船旅を届けられるというところまでセット。皆さんと連携して、いろいろサービス向上に務めたい。

【橋口氏】

 障害とか福祉分野に足りないものは、マーケティングの視点。イギリスでの狭義の社会モデルを実現するためには、障害者側の社会課題を解決する責務を果たす意味で、事業主と一緒にビジネスモデルをつくっていくことが大事。

配布資料