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2024年版
すぐわかる!改正障害者差別解消法 社会の障壁をトリ除こう

(キャラクターのセリフ)
交通事業者&利用者の皆さま!

《誰もが円滑に利用できる公共交通機関を目指して》
この冊子は、改正障害者差別解消法を解説したものです。
電車、バスなどの公共交通機関は、通勤、通学、通院、旅行、買い物などの日常生活において必要不可欠であり、特に障害のある人の社会参加を促進するために非常に重要な役割を果たします。
利用者、交通に関係する人が「障害者差別解消法」について
「不当な差別的取扱いの禁止」「合理的配慮の提供」をキーワードとして理解し、行動することが重要です。

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○利用者のみなさんへ
公共交通機関の利用で困ったことはありませんか?

≪バスやタクシーで乗車を拒否されたことがある≫
介助犬は、ペットとは違い利用者と一緒にバスに乗ることができるのに、そのことを知らない人がたくさんいます。電車、タクシー、飛行機など同様に利用できます。

(キャラクターのセリフ)
盲導犬、聴導犬を加えて「補助犬」といいます。

≪適切に情報提供がされなかったために公共交通機関を円滑に利用できなかったことがある≫
視覚障害者や聴覚障害者などの場合、必要な情報が得られず困ることがあります。それぞれの状況に合わせて情報提供の方法を工夫したり必要な時は駅員さんの支援があると助かります。

≪バスの利用時に障害者手帳を提示したが「ちゃんと見せてくれる!」と大声で言われたことがある≫
知的障害のある人などは、運転士さんが強い口調で何か言ったりすると、怒られていると思ってパニックになってしまったり、次からは怖くて乗れなくなってしまうことがあります。

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○交通事業者のみなさんへ
公共交通機関のバリアフリー化は施設の整備だけではありません

≪聴覚障害のあるお客様への情報提供には専用の設備を準備することが必要だろうか≫
電光掲示板、モニター付きインターホンなどの設備を準備することが困難な場合には、コミュニケーション支援ボード等を活用した人による対応なども考えられます。なお、無人駅などについては、利用者が困った時のために、障害の状況に配慮した連絡手段を準備しておくことが重要です。

≪認知症、知的障害や発達障害のあるお客様がパニックになった場合の対応に不安がある≫
それぞれの障害について理解を深めるとともに、同じ障害でも、その人ごとに対応が異なることを理解することが重要です。その場ではご本人に寄り添い不安を取り除くことが基本です。

≪車いすのお客様に対して、適切な支援や介助ができるか心配だ≫
適切な支援や車いす等の機器に関する知識が十分でないために、お客様に円滑にサービスを利用いただけなくなってしまうことは避けなくてはいけません。研修などを通して正確な知識を身につけることが重要です。

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2024年4月に改正障害者差別解消法が施行
事業者による「合理的配慮の提供」が義務化されました

■障害を理由とする「差別の禁止」と「合理的配慮」の提供がポイントです
障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)では、国の行政機関や地方公共団体等及び民間事業者において、正当な理由なく、障害を理由として、サービスの提供を拒否したり、制限するような『障害を理由とする差別』を禁止しています。
 障害のある方から何らかの配慮を求められた場合、負担になり過ぎない範囲で、日常生活や社会生活を送る上で障壁になると考えられるものについては、『合理的な配慮』により障壁を取り除くことが求められます。

【合理的配慮とは】
障害のある人から申し出があった時に(家族や支援者からの申し出も含む)、状況に合わせて適切な配慮を行うことです。

【不当な差別的取り扱いの禁止】
国・地方公共団体等/事業者→法的義務
【合理的配慮の提供】
国・地方公共団体等→法的義務
事業者→2024年4月1日に改正、努力義務→法的義務
※ これまでの障害者差別解消法では、事業者に課せられていた義務は不当な差別的取り扱いの禁止のみであり、合理的配慮については努力義務でした。2024年4月1日に施行された改正障害者差別解消法では事業者による合理的配慮も義務化されました。

■障害者手帳所持者だけがこの法律の対象ではありません
【対象となる「事業者」は?】
交通事業者はもちろん全ての会社やお店などです。
また、ボランティア活動をするグループも含みます。
【対象となる「障害者」は?】
障害者手帳を持っている人だけではなく、
日常生活に相当な制限を受けている人すべてが対象です。
(内閣府「障害者差別解消法リーフレット」を基に作成)

■障害者権利条約から障害者差別解消法の施行まで
2006年12月:国連で「障害者権利条約」が採択。
障害者権利条約は障害者への差別禁止や障害者の尊厳と権利を保障することを義務づけた国際人権法に基づく人権条約。
2007年:日本は、障害者権利条約に署名し、その後、2009年に条約の締結に必要な国内法の整備や障害者制度の集中的な改革を行うために「障がい者制度改革推進本部」を設置。
2011年:障害者基本法が改正され、社会的障壁※や合理的配慮の考え方等が示される。
2013年:障害者権利条約の締結に必要な国内法『障害者差別解消法』が成立。
2014年:日本は障害者権利条約を批准。
2016年4月:障害者差別解消法が施行。
2021年5月:障害者差別解消法が改正。
2024年4月:改正障害者差別解消法が施行。
※障害者基本法が2011 年に改正された際に「社会的障壁」という言葉が追加されました。また、障害者を「障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある者をいう。」と定義しています。

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○社会的障壁をなくすために

■変わるべきは社会(社会モデル)
 障害は「社会的差別や抑圧、不平等」によってもたらされるものであり、「社会や周囲の環境の問題」として捉えます。障害の有無にかかわらず誰もが安心して生活ができるように社会的障壁を除去するというものであり、これからは「変わるべきは社会の側」という考え方を持つことが重要です。
【これまでは…(個人モデル)】
 障害を「個人の側の機能障害の問題」として捉え、日常生活を送るために障害者個人が社会に合わせるという考え方です。

■交通分野の環境整備の取組み
①段差を解消する
②文字情報を提供する

【合理的配慮の提供を確実に行うには】
施設等のバリアフリー化整備が重要であり、差別解消法ではこうした取組みを「事前的改善措置」と位置付けています。配慮を必要とする障害者が多数見込まれる場合や利用が長期にわたる場合などは、その都度、配慮を提供するのではなく、バリアフリー設備の新設などの事前的改善措置を行うほうが、コスト削減や効率化につながります。

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○障害を理由とする差別とは

■差別と思われる事例
・補助犬と一緒に電車、バス、タクシー、飛行機などに乗ることを拒否した。(タクシーについては、道路運送法でも盲導犬等の乗車拒否が禁じられています。)
・バス乗降時に障害者手帳が良く見えなかったという理由で運転手が怒鳴ったり、「もう乗らないで!」と暴言を吐いたりした。
・飛行機を利用する際に車いす使用者ということで、他の利用者と比べて、かなり早い時間(離陸の3時間前)に空港に来るように言われた。
・鉄道において、混んでいる時間であるという理由で車いす使用者の案内を拒否した。
・タクシーにおいて、車いす使用者や白杖使用者など外見で障害のある人と認識して止まることなく乗車を拒否した。または、障害のある人と認識した時点で乗車を拒否した。
・旅客船において、盲導犬と一緒に乗船をした際に、甲板にいるように言われ、客室、売店などに入ることができなかった。

障害者差別解消法では障害を理由とする不当な差別的扱いの基本的な考え方として障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否すること、場所・時間等を制限すること、障害者でない者に対しては付さない条件を付けることなどにより、障害者の権利利益を侵害することを禁止しています。

【差別とは】
障害者権利条約では「障害に基づく差別」について次の4点をあげています。
・障害に基づくあらゆる「区別」「排除」「制限」
・「合理的配慮の否定」

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■差別を受けたことがある障害者が約半数
2014年度に実施した「交通における差別事例と配慮事例に関するアンケート」の調査結果です。(対象:障害者/回収数:242件)

(キャラクターのセリフ)
差別の内容の第1位は「職員の対応が不適切だった」です。職員研修の実施などで、大きく改善できそうですね!

【交通機関利用時の差別経験】
・自分が経験したことがある(52.1%)
・見たり聞いたりしたことがある(25.6%)
・ない(21.9%)
・無回答(0.4%)
【差別的な経験の内容】
・職員の対応が不適切だった(62.2%)
・利用時に制約や条件があった(30.3%)
・利用を拒否された(23.9%)
・その他(26.5%)
・無回答(10.1%)

合理的配慮等具体例はこちら→(QRコード)
内閣府合理的配慮等具体例データ集https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/index.html

■正当な理由なく利用を制限してはいけません
「安全上の理由」や「内規によるものだから」というものは正当な理由とはなりません。

(キャラクターのセリフ)
「正当な理由」には第三者の立場から見ても納得できるような「具体性」「客観性」が必要です!

【参考】
「国土交通省所管事業における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」では以下のようなものが正当な理由の事例としてあげられています。
①バス車内が混雑しており、車いすのスペースが確保できない場合、車いす使用者に説明したうえで次の便への乗車を依頼すること。
②タクシーにおいて駐停車が禁止されている場所での乗り降りや、車を離れての介助等道路交通法などに違反となるサービスの提供を断ること。
③円滑に利用するためのサービスを提供等するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者に障害の状況などを確認すること。

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○社会的障壁を取り除く合理的配慮
施設などのバリアフリー化に加え、人による支援をうまく組み合わせて社会的な障壁を取り除くことで、障害のある方の社会参加が促進できます!
差別解消法では、障害のある人から事業者に対して社会的障壁の除去を必要としているという申し出があった時に、過度な負担でない場合、障害のある人の権利利益を侵害することにならないように社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮を行うことを求めています。

(キャラクターのセリフ)
自分で意志を伝えることが苦手な利用者もいます。利用者の家族や支援者からの申し出がある場合もあります。

■合理的配慮を提供するための検討フロー
普段は円滑な対応を心がけていても、利用者からすぐに対応することが難しい申し出があるかもしれません。「できない」と判断する前に、どうすれば対応できるかを考えることが重要であり、利用者との協力により解決策を考える姿勢が求められてます。「過度な負担だから対応しなくてよい」と安易に考えることは問題の解決につながりません。

(合理的配慮を提供するための検討フローの図)
1.障害のある人と他の人の平等が確保できているか様々な角度から検証
2.物理的、費用面など何らかの理由で対応が困難な場合は代替案を検討
3.状況変化により対応が可能になる場合があるため定期的に見直し、確認を行う

過度な負担については交通事業者の状況等によって異なるため、一概に決めることはできません。今後、事例等の蓄積により明らかになる部分があると考えられます。

「合理的配慮」には対話が重要です!
合理的配慮の提供に当たっては、社会的障壁を取り除くために必要な対応について、障害のある人と、事業者が対話を重ね、共に解決策を検討していくことが重要です。このような双方のやり取りを「建設的対話」と言います。障害のある人と事業者の双方が持っている情報や意見を出し合い、建設的な対話に努めることで、目的に応じて代わりの手段を見つけることができます。

環境の整備
バリアフリー法に則った施設、車両等の
整備や役務提供による事前的改善措置
利用者の申し出
↓
建設的対話 合意に至らない場合、建設的対話のプロセスを繰り返す
・過度な負担は伴うか
・代替え案の提示   
↓
合理的配慮の提供

(キャラクターのセリフ)
一緒に解決策を考えることが大事ですね!

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○こんな「困ったこと」が身近にありませんか

≪鉄道編≫
【CASE1】乗車拒否
利用者:ホームまで行きたいのですが、エレベーターはどこですか?
駅員:この駅にはエレベーターがないのでご利用できません。
利用者:どうしても乗りたいのですが。
駅員:忙しい時間帯で人員を確保するのが難しいので…。
「!」利用できるようにするための配慮を初めから何もしようとしない姿勢が問題です。
→解消のためには
①利用者の気持ちを受け止め、どうすれば人による対応が可能か組織として検討する。
②段差昇降機などの設置を検討する。

【CASE2】不適切な対応
利用者:大阪駅までの料金が分からないのですが。
駅員:あちらに表示していますので確認して下さい。
利用者:表示も小さいし、見えにくいので教えて下さい。
駅員:(忙しいんだけどな・・・)大阪駅までは220円です。
「!」基本的な接客について問題があります。また、視覚に障害がある人がいることを想定して情報提供の方法を考えていないことが問題です。
→解消のためには
①様々な利用者がいることを想定して適切な接客を行うため、障害について理解する研修等の機会を設ける。
②情報提供の工夫を検討する。

【CASE3】長時間の待機
利用者:新宿駅まで行きたいのですが。
駅員:新宿駅に連絡がとれるまでお待ちください。
利用者:(しばらく待つ)いつも何十分も待つことになるんですが…。
駅員:まだ連絡がとれないのでもう少しお待ちください。
「!」利用者が円滑に利用できるように情報伝達の仕組みなどが整備されていないことが問題です。
→解消のためには
①	駅間での連絡、連携体制を整備する。
②タブレットの導入など乗降支援を円滑にサポートするようなシステムを提供する。

【CASE4】緊急時における車内での情報提供
駅員:(アナウンス)ただいま、事故の影響で運転を見合わせています。
利用者:なんで止まっているんだろう?
駅員:(アナウンス)運転再開までもう少々お待ちください。
利用者:まだ動かない。一体どうしたんだろう?心配だ。
「!」聴覚に障害がある人がいることを想定して情報提供の方法を考えていないことが問題です。
→解消のためには
①車内アナウンスで乗客に聴覚障害者へ筆談などによる情報伝達を依頼する。
②車内にLED等の可変式表示装置を設置する。

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≪バス編≫
【CASE1】乗車拒否
利用者:この車いすは固定できますか?
運転手:(車いす大きいし、時間がかかるな~。)このバスは混んでいるので、乗せられません。次のバスに乗ってください。
「!」車いすの乗車の可否について事業者が車いすの固定可否を確認せず、乗車を断ったことが問題です。
→解消のためには
①	車いすの形状に関わらず、固定することができるか実際に試して乗車の可否を判断するよう職員に指導する。
②	バス運行に関わる全ての事業者と案件について情報共有をする。
③	乗降支援と固定方法を学ぶ機会を設ける

【CASE2】横柄な態度
利用者:(降車時に手帳を提示する)
運転手:ちゃんと見せて下さい!!
利用者:えっ・・・。(戸惑う)
運転手:ちゃんと見せろって言ってんの!!
「!」基本的な接客について問題があります。また、精神障害者の特徴を理解していないことが問題です。
→解消のためには
①様々な利用者がいることを想定して適切な接客を徹底する。
②さまざまな障害について研修する機会を設ける。

≪飛行機編≫
【CASE1】飛行機の搭乗拒否
利用者:バッテリーを外して下さい。
係員:こちらでは扱い方が分からないので無理です。
利用者:1人では外すことができないのですが・・・。
係員:それではご搭乗できませんね。
「!」利用者が円滑に利用できるように福祉機器の扱い方などの知識を身につけていないことが問題です。
→解消のためには
①障害の状況や車いす等の福祉機器の扱い方を学ぶ機会を設ける。
②障害のある利用者の機器等の使用状況を事前に確認できる仕組みを整備する。

【CASE2】機内での説明
乗務員:緊急時にはライフジャケットを・・・。
利用者:どうやってつけるのかな?
乗務員:こちらとこちらの紐を引っ張って・・・。
利用者:どうやってつけるのか分からない。
「!」視覚的な動作説明しか想定していないこと、「あちら」「こちら」などの指示語を使うことで視覚障害者に適切な情報を提供できていないことが問題です。
→解消のためには
①安全に関する案内は個別に行う。
②点字によるパンフレット等相手に伝わりやすい手段を用意する。

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≪タクシー編≫
【CASE1】不適切な接客
利用者:(手を挙げてタクシーを呼ぶ)
車いすを降りて、座席に座りたいのですが、手伝ってもらっても良いですか?
運転手:はぁ~(ため息)、車いすから移動してもらうの大変なんだよね。乗り降りに時間がかかるしなぁ。(しぶしぶ対応)
「!」基本的な接客について問題があります。また、車いす等の対応について理解ができていないことも問題です。
→解消のためには
①	相手が必要とすることを確認し、適切な対応が可能か判断する。
②	障害の特性や車いす等の福祉機器の扱い方を学ぶ機会を設ける。

【CASE2】乗車拒否
利用者:(手をあげてタクシーを止める)
運転手:どちらまでですか?
利用者:(用紙に行先を書いて渡す)
運転手:(コミュニケーションの取り方分からないし・・・)すみません。他のタクシーに乗ってもらえます?
「!」障害を理由とした乗車拒否が問題です。また、聴覚に障害がある人がいることを想定してコミュニケーションの手段を用意していないことが問題です。
→解消のためには
①	障害があることで乗車拒否をしないことを組織として徹底する。
②	筆談で対応できるよう紙とペンを用意しておく。

《旅客船編》
【CASE1】盲導犬の同行による利用制限
利用者:客室はこっちかな?
乗務員:客室は犬と一緒では入れません。
利用者:なぜ入れないのですか?どこにいればいいのですか?
乗務員:動物は入れない決まりですから。甲板にもベンチがありますからそちらのほうに行って下さい。
「!」盲導犬を伴って公共交通機関等を利用できることを理解していないことが問題です。
→解消のためには
①	盲導犬をはじめ補助犬は一緒に乗船させなければならないことを組織として教育し共有する。
②各障害別の最低限の支援ができるよう組織として教育の機会を設ける。

【CASE2】船内放送
船長:(音声放送)天候不良のため揺れが予想されます。
利用者:何か言っているのかな?あれ?急に船が揺れ始めて不安だ・・・。
「!」聴覚に障害がある人がいることを想定して情報提供の方法を考えていないことが問題です。
→解消のためには
①船内アナウンスで乗客に、周囲に聴こえないと思われる方がいる場合に筆談などによる情報伝達を依頼する。
②	車内にLED等の可変式表示装置を設置する。

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■合理的配慮は難しくない
 ~お互いのコミュニケーションや情報共有により公共交通が利用しやすくなります~
(キャラクターのセリフ)
交通事業者とお客様がお互いにコミュニケーションをとったり、情報を共有することで、公共交通が利用しやすくなるんですね。

≪鉄道での事例 ~職員が情報共有~≫
知的障害者のお客様が、工事のため目的地に近い駅の出口が使用できなくなっており迷っていた。このお客様が毎日の通学で駅を利用していることを知っていた駅員がおり、工事期間中の経路変更により普段と異なる状況で困る場合があることについて他の駅員とも情報を共有していたため円滑に対応をすることができた。
(利用者のセリフ)
出口が分からずに困ってしまうこともありますが、駅員さんが声をかけて誘導してくれるので助かります。
(駅員のセリフ)
職員間で情報を共有したことで、すぐに対応できるようになり、お客様の不安感を取り除けるようになったと思います。

≪バスでの事例 ~お客様の工夫をとり入れて~≫
車いす使用者のお客様がバスに乗る際に、バスの運転手に車いすの固定の仕方を説明するがなかなかうまく伝わらなかった。そこで、車いす使用者が車いすにベルトのフックを固定する場所をシールなどで明示するようにしたところ、車いすの固定までの時間を短縮することができた。
(利用者のセリフ)
毎回、固定の仕方がなかなか伝わらずに困っていましたが、シールを貼ることで、こちらとしても説明が楽になりました。
(運転手のセリフ)
車いすは色々な種類があって、固定の仕方も難しいと思いますが、シールなどで明示していただけると分かりやすくて助かります。

≪飛行機での事例 ~情報を次のサービスに活かす~≫
航空事業者が、飛行機を利用する際に支援が必要なお客様にその情報などを確認し、データとして管理するようにした。支援が必要なお客様が一度情報を登録することで、次回からは、そのデータを基にして円滑なサービスの提供につなげることができた。
(利用者のセリフ)
最初は必要な情報を聞かれるのは面倒だと思いましたが、情報登録後はスムーズに利用できるようになりました。
(係員のセリフ)
お聞きした情報を有効に活用することで、お客様の満足度の向上や短い時間でご案内できるようになったと思います。


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■すでに実践しています~交通事業者の好事例~

≪鉄道での配慮≫
・肢体不自由者や視覚障害者への対応として、他社交通事業者に連絡し、乗換口まで案内誘導している。
・肢体不自由者への対応として、エレベーター、エスカレーター、階段、出入口位置等が乗車位置に対応して分かる一覧表を作成し駅員で共有している。
・聴覚障害者や知的障害者への対応として案内のため各駅にタブレットやコミュニケーション支援ボードを配備している。
(写真:コミュニケーション支援ボード)

≪バスでの配慮≫
・肢体不自由者への対応として、同行する支援者がいない場合は乗務員を一名添乗させて乗車を支援するよう要望に対応している。
・インターネットを活用してノンステップバスの運行時刻の情報提供サービスを実施している。
・聴覚障害者への対応として、筆談具を車内に常備していることを案内している。
・盲導犬の訓練センターと連携して、盲導犬が円滑にバスを利用できるようバス車両を貸し出して訓練を支援している。
(写真:盲導犬の訓練)

≪タクシーでの配慮≫
・(事前に連絡があった場合)鉄道の改札口まで出向いて視覚障害者の付添介助を行っている。
・聴覚障害がある乗客に対し、ショートメールで対応する方法にした。なお、運転手が予約アプリ上で聴覚障害があることが分かるシステムにした。
・助手席のヘッドレストに「耳マーク」を提示し、聴覚障害者が運転手に提示できるようにした。
(写真:耳マーク)

≪飛行機での配慮≫
・肢体不自由者や視覚障害者への対応として、チェックインカウンターから搭乗口への移動、機内座席への着席まで援助を行っている。
・専用相談窓口を設けて、メール、遠隔手話通訳サービス、チャットなどでも受付を行っている。
・写真付きの多言語表示ドリンクメニュー表を作成し、聴覚障害者や外国人でも無料ドリンクのオーダーがしやすくなった。
(写真:メニュー表)

≪旅客船での配慮≫
・予約時の申告により、例えば肢体不自由者等の場合であれば、出入口の近くなど利用しやすい船室を確保している。
・レストランで食事をする際、要望のあった方に対して配膳の支援をしている。
・優先乗船を行っている。(お手伝いが必要な方、2 歳以下の子供連れの方、妊娠中の方、ペット連れの方)

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○教育の拡充と情報共有が重要です!

■障害当事者が加わった研修
障害当事者等を講師にした研修を実施することで、相互の理解を深めることができ、適切な接遇につながります。

・新人職員を対象として、障害者を講師として招き、障害理解に関する研修を実施している。
・障害者団体や自治体等と意見交換の場を設けている。
・定期的に障害者・高齢者への接遇研修等を重点的に実施している。
(写真:障害当事者との意見交換会)

・アイマスクや車いすを使用して障害者の疑似体験を踏まえ意見交換している。
・接遇向上のための委員会を設置し、バリアフリーの推進を多角的に検討している。
・接遇コンテストの開催や優れた接客技術を取得した職員に対して表彰制度を実施している。
(写真:視覚障害者の介助研修)
(写真:車いす使用者の介助研修)
参考 障害当事者が講師を行う研修の例 https://www.ecomo.or.jp/barrierfree/best/
(QRコード)
■対応方法などの情報共有に関する取組
・お客さまからの要望、申し入れの内容、対応状況を記入できるフォーマットを作成し、その内容を報告書としてまとめ定期的に職員で情報共有会議を行っている。
・利用者からの意見を集約する窓口を設けており、窓口から担当部署に状況を伝える。対応が必要なものについては、窓口を通じてお客さまなどへ丁寧な説明を行う仕組みを構築している。
・よい対応例、お客さまからほめられた事例も共有して職員の教育に活用する。

■お客さまへの情報開示に関する取組
・お客さまからの要望や申入れについて、その対応状況をホームページで公開している。

【地方自治体への相談により問題が解決した事例(熊本県の事例)】
車いすで路線バスを利用しようとしたところ、スロープ付きバスではなく乗せてもらえなかったという相談があった。
今後のバス利用のため、相談者、広域専門相談員、バス会社等がバス営業所に集まり、スロープ付きバスやステップのあるバスに相談者が乗降できるか検証した。
相談者は自力でノンステップバスに乗りたいという思いが強かったが、当面はバスの利用が事前にわかるときには営業所に連絡し、スロープ付きバスを配車することになった。
※熊本県では障害者差別に解消に関する地方自治体の条例を制定し、相談対応の仕組を構築している。

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〇差別を受けたと感じたらまず相談

■差別の解消は申し出がないと始まりません
・公共交通機関を利用して差別をされた時、差別した方は、それが差別であるということを自覚していないことが少なくありません。
・周囲の人も障害があることで利用できないことに対して、「しかたのないこと」と簡単に差別を認めてしまうことがあります。
・時には差別を受けた本人でさえも、「申し出ても無駄かな?」と考えてしまうこともあります。
・本人が意思表示をすることが苦手な場合があるため、家族や支援者などが申し出たり、自治体などへ相談することが重要です。
(キャラクターのセリフ)
無駄と思わないでまずは思いを伝えてみましょう!

思いを伝えることが改善の第一歩になります。また、ひとりでは解決できないことでも、第三者を入れて話をすることでお互いの「気づき」を生み、改善につながります。

■相談先は一つではありません
その場で申し出ることや、自治体、障害者団体、家族・支援者も相談先です。なお、障害者団体は普段から自治体や交通事業者と連携を図り、差別の防止に努めることが求められます。

【差別を受けた場合の相談先と解決への流れ】
(差別を受けた場合の相談先と解決への流れの図)

「利用者」→申し出→「交通事業者」
「利用者」→解決しない場合は自治体等に相談する。→相談→「自治体」「障害者団体」「家族・支援者」

交通事業者
現場で対応が困難な場合は組織で調整を図り対応をする。それでも対応が困難な場合は必要に応じて国土交通省「障害を理由とする差別の解消に関する相談窓口」に相談をする。
交通事業者は、相談窓口を拡充するとともに相談専任担当者の配置などによる対応も求められます。
「交通事業者」→相談・連携→「自治体」「障害者団体」

自治体
相談を受け、必要に応じて事業者へ助言や自治体職員を交えた事業者との話合いの機会を設ける。〈自治体には「障害者差別支援地域協議会」※の体制整備が求められる。〉
自治体は、障害者差別に関する窓口を設け、相談を受けた後の対応に関する仕組みを整備することが求められます。
「自治体」→助言・申し出→「交通事業者」

障害者団体
本人から状況を確認したうえで、自治体等に相談もしくは事業者へ申し出る。
「障害者団体」→相談→「自治体」
「障害者団体」→申し出→「交通事業者」

家族・支援者
本人が相談をすることが、困難な場合もあるため差別の現場に居合わせたり、差別に関する話を聞いた場合には必要に応じて家族や支援者が自治体等に相談をする。もしくは交通事業者へ申し出る。
「家族・支援者」→相談→「自治体」「障害者団体」
「家族・支援者」→申し出→「交通事業者」

どうしても解決できない時には弁護士会などへの相談も考えられます。

※2023年4月1日時点において、全ての都道府県及び指定都市が「地域協議会」を設置しているほか、中核市等(中核市、特別区及び県庁所在地の(指定都市を除く。))においては88%、一般市(指定都市及び中核市等のいずれにも該当しない市)においては74%、町村においては51%が「地域協議会」を設置しており、一般市や町村における設置割合についても増加傾向にある。(出典:令和6年版 障害者白書)

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〇障害者差別解消法に関する情報
・国土交通省所管事業における障害を理由とする差別の
解消の推進に関する対応指針
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/ barrierfree/sosei_barrierfree_tk_000063.html (QRコード)
・障害を理由とする差別の解消の推進(内閣府)
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html(QRコード)

〇おでかけサポートカード
おでかけサポートカードは支援のお願いをお手伝いするためのものです。どなたでも使っていただけるカードですが、特に話しづらいことを伝える、または、話すことがむずかしい方にとって強い味方となってくれます。
https://www.ecomo.or.jp/barrierfree/ninchi/ninchii_top.html(QRコード)
(写真:おでかけサポートカード)

〇失語症の方向けおでかけサポートカード
失語症の方向けおでかけサポートカードは、失語症の方等が電車やバスをご利用になる際の、コミュニケーションをサポートするためのカードです。どなたでも使って頂けるカードです。
https://www.ecomo.or.jp/barrierfree/shitsugo/shitsugo_top.html (QRコード)
(写真:失語症の方向けおでかけサポートカード)

○本冊子は「公共交通機関における障害者差別解消法の推進に関するワーキング」で作成しました(2016年当時)
【ワーキングメンバー】
委員長 髙橋儀平:東洋大学ライフデザイン学部 教授
今西正義:特定非営利活動法人DPI日本会議 バリアフリー担当顧問
北川博巳:社会福祉法人兵庫県社会福祉事業団 福祉のまちづくり研究所 主任研究員兼課長
黒嵜 隆:フロンティア法律事務所 弁護士
永田直子:社会福祉法人東京都知的障害者育成会 副理事長
野村忠良:公益社団法人全国精神保健福祉会連合会 理事・事務局長
東 俊裕:熊本学園大学 教授/弁護士
藤井克徳:日本障害者協議会(JD) 代表
松本正志:一般財団法人全日本ろうあ連盟 理事
※2024年版は法改正の内容に合わせて事務局が修正・追記を行いました。(委員長以外は五十音順)

公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団
〒112-0004 東京都文京区後楽1丁目4番14号 後楽森ビル10階
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※本冊子では障害を「しょうがい」「障がい」「障碍」ではなく、法の標記に従って「障害」と表記しました。2025年3月発行