バリアフリー推進事業

2024年度 研究活動部門 成果報告

研究助成名

障害者や高齢者の移動のラストワンマイル(徒歩圏)をICTで支援をするためのスマホ教室の開催

研究者名

地縁ー中央 江口裕子

キーワード

スマホ教室 地域コミュニティの醸成 ICT 高齢者・障害者の移動

研究内容

(研究・活動成果)

■高齢者向けスマホ教室
スマホを活用して自由に目的地を選択し、目的地に到着するまでの道案内アプリを容易に使えるようになり、地域の仲間と交流を図れるようになるためのスマホ教室を実施した。
<日時>
1回目:2024年 11月15日(金)14時〜15時半
2回目:2024年 12月20日(金)14時〜15時半
3回目:2025年  1月17日(金)14時〜15時半
<対象>
LINEを使っている初心者、今後LINEを使うことを検討している高齢者
<講師>
(一社)シニアライフの相談窓口 田和 真由美様
<内容> 
1回目:基本操作の習得を図る
@基本操作
ALINEアプリの起動から終了までの一連の操作
B友だち追加の方法、参加者のグループライン作成
2回目:中央区の公式LINE登録の仕方
3回目:緊急連絡先の登録の仕方(Android、iPhone)
【視覚障害者向けスマホ教室】
スマホを活用して自由に目的地を選択し、目的地に到着するまでの道案内アプリを容易に使えるようになり、地域の仲間と交流を図れるようになるため、スマホの基本操作を習得するためのスマホ教室を実施した。
 
<日時> 全5回(開催予定も含む)
  第1回目:2024年10月15日(火)14時〜16時
  第2回目:2024年11月19日(火)14時〜16時
  第3回目:2024年12月17日(火)14時〜16時
  第4回目:2025年 1 月21日(火)14時〜16時 
<対象>
・ スマホを持っているが、使い方に自信がない、上手く使いこなせない視覚障害の方
・ 視覚障碍者を支援している方(ガイドヘルパー等)
・ 本講座にご興味のある方
<講師>
・中央区視覚障害者福祉協会会長、(株)ふくろうアシスト:代表取締役 河和 亘様
 ※講師は視覚障害と肢体不自由の重複障害者
・NPO法人言葉の道案内理事:市川 浩明様
 ※講師は、視覚障害当事者
<アシスタント>
  (一社)シニアライフの相談窓口:田和 真由美様/石川 雅己様
<会場> 
 はるみらい 2階会議室 (住所:東京都中央区晴海5-2-3)
<主催及び共催、協力>
主催:地縁-中央(中央区協働ステーション中央の任意団体)
共催:中央区視覚障害者福祉協会
協力:(公財)交通エコロジー・モビリティ財団
中央区協働ステーション中央
(一社)日本福祉のまちづくり学会関東甲信越支部
(一社)日本福祉のまちづくり学会DX共生特別研究委員会
<内容> 
第1回: iPhoneの概要説明、基本操作・便利機能を知る
- iPhoneの基本的な特徴とその概要の説明
- 操作の基本:ホームボタン、音量調整、電源ボタンなどの物理的なボタンの位置と機能
- タッチスクリーンの操作:スワイプ、ピンチ、タップなどの基本的なジェスチャー
- 便利機能:アクセシビリティ設定、ズーム、拡大鏡など
 配布資料1-1、1-2

第2回: Voice Overの基本操作、視覚障害者に便利なアプリを体験する
- VoiceOverの概要説明と有効化する方法
- VoiceOverのジェスチャーと操作方法の実演と体験
- 視覚障害者に便利なアプリの操作体験
配布資料2-1、2-2

第3回: 文字入力を体験する(1)
- キーボードの概説と基本的な文字入力方法の紹介
- VoiceOverを使用しての文字入力方法の実演と体験
- 音声入力の使用方法の紹介
配布資料3

第4回: 文字入力を体験する(2)
- 前回の復習と質問の時間
- 特殊文字や絵文字の入力方法の紹介
- メールやメッセージアプリでの文字入力の実演
- 視覚障害者対象のスマホ講習を実施している団体紹介
配布資料4

第5回:実践編「実際に街に出てアプリを活用し目的のお店に行こう」(実施できず)
‐東京都実証実験「スマートインクルーシブシティ」への参加

【所感】
<高齢者向けスマホ教室>
今回のスマホ講座は、昨年度中に本事業で実施したスマホ講座に参加していた方々と一緒に立ち上げた、地域交流サロン(ぽかぽかサロン)で実施した。
ぽかぽかサロンは、都営住宅の集会室を借りて月1回(第3金曜日14時〜16時)開催しており、毎回平均15人ほどが参加している。
初回のスマホ講座では、個々にライン交換をした後にサロン全体のグループラインを作り、サロンの写真や動画、地域のイベント情報等をグループ内で共有した。2回目の講座では中央区の公式LINEを登録し、高齢者にとってお得な情報などを検索した。3回目の講座ではスマホ内に緊急連絡先を入力できる画面があることを説明し、実際に入力した。さらにそれを見るための操作方法も習得した。
高齢者がスマホを日常的に使えるようになるには、操作方法だけをピンポイントで教えるのではなく、スマホの苦手意識を共有できる仲間がいて、その仲間同士でわからない部分を教え合うことが重要である。小さな疑問を少しずつ解消できるようになると自信につながり、スマホに対する漠然とした恐怖感が軽減される。いつでも相談できる人や場所があり、継続的に使い続けることが大切であることを学んだ。
スマホの悩みはぽかぽかサロンに行けば解決できる」という安心感が生まれている。仲間同士の距離は非常に近くなっており、自然に会話が弾み、和気あいあいと良い雰囲気になっている。

<視覚障害者向けスマホ教室>
視覚障害者向けのスマホ教室は、全4回を企画していたが、これでは実践にまでたどり着くことが難しいことがわかった。また、参加者からは、継続することが重要であり、まだ学び足りないとの声があがった。そこで、実践を行うための第5回スマホ教室を開催することとした。
講師は、自身が全盲のこともあり、視覚障害者のスマホ利用の課題も熟知していたため、基本画面の位置の確認、タップの仕方など基本となる操作を重点的に教授していた。講師ご自身が全盲ということもあり、参加者のボイスオーバーの音を聞き分けて、参加者各自に的確な指導を行っていたのが大変印象的であった。
晴眼の支援者は、参加者のスマホ操作が正しく行われているかどうかを毎回確認し、ガイドヘルパーにも覚えてもらえるように丁寧に説明した。視覚障害のあるパワーユーザーの指導は、当事者の困りごとにも熟知しているため最適であると痛感した。
第1回目は、基本的な技術習得が目的であったため、参加者は2名と少なかったが、第2回以降は、毎回6〜7名の方が参加された。また、第2回、第3回では、この活動に興味を持たれた、協力団体の方の見学もあった。その効果として、中央区協働ステーション中央様のご配慮で、地域のコミュニティFM局(中央FM)への出演の機会をいただき、このスマホ教室の活動の良いアピールとなった。その後、中央FMからは、視覚障害者向けの情報番組のご提案もいただいている。地域コミュニティとのつながりの醸成のよい機会となると期待している。
第5回目は、東京都の実証実験に参加することでこれまで習得した技術を実践する良い機会ととらえ、追加のスマホ教室を企画した。しかし、この実証実験に用いているアプリのアクセシビリティに課題があり、これまでの4回のスマホ教室程度の技術力では単独でアクセスすることが難しいことがわかった。参加者一人一人にアプリのインストールやログインをサポートするアシスタントが必要なことと、アシスタントがいてもかなり時間がかかることがわかってきた。そのため、短時間での開催が難しいと判断し、断腸の思いではあったが中止を決断した。
これまで様々な場面で視覚障害のある方のスマホ利用の大きな課題は『テキスト入力』であることがわかっていたが、今回のスマホ教室を開催し、このことこそが視覚に障害がある方のバリアであることを再確認した。また、様々な支援技術のアプリが雨後のタケノコのように乱立してきているが、それらのアクセシビリティの向上が喫緊の課題である。そのうえでユーザービリティについても考えていくことの重要性が示唆された。
今回のスマホ教室の会場が鉄道駅から離れていたため、タクシーの配車アプリを利用できることを最終目的としたいと当初は考えていたが、現在のタクシーの配車アプリは視覚に障害がある方にはスマホ利用のかなり高い技術がない限り利用できないこともわかった。

<まとめ>
デジタル化に取り残されやすい視覚障害者や高齢者に対して、スマホの基本操作方法の説明、日常的によく使う機能を学ぶためのスマホ教室を継続的に実施することにより、QOLの向上とフレイル予防を実現することが示唆されたと考える。さらに、ICTを活用して人と人がつながり、地域コミュニティを醸成できる可能性が期待できると考える。

【今後の課題】
今後MAASなど交通のデジタル化に伴い、スマホの利用は必須になっていくのではないかと想像できる。
そこで以下が今後の課題となる。

  1. 視覚に障害がある方へのスマホ利用の大きな課題は、『テキスト入力』である。これを克服するためにも、視覚に障害がある当事者による指導が有益であり、このような当事者の指導者を育成していくことが課題である。
  2. スマホを利用できるようになるためには、かなりの時間がかかることがわかってきた。そのためにも、このようなスマホ教室を継続すること、そしてその仕組みを公的機関が提供することが課題である。
  3. 国土交通省でも検討が始まってきたがwebにとどまらず、先の配車アプリや鉄道の予約、チケット購入サービスアプリなども視覚に障害がある方には使えにくい状況である(または全く使えない。)。そのため、アプリのアクセシビリティやユーザビリティに関するガイドラインの必要性も課題として浮かび上がってきた。

近年では、都心部でも無人駅が増えてきている。今後これらの課題が解消され、視覚に障害がある方の『移動権』
が保証されることを期待してやまない。

【謝辞】
この度は、本助成をいただきました、公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団様、協力をいただきました、中央区協働ステーション中央様、日本福祉のまちづくり学会様。そして、講師の河和様、市川様、田和様、アシスタントを務めていただきました石川様、ご参加いただきました皆さま、また開催にあたってご尽力をいただきました多くの方に紙面を借りてではありますが、御礼申し上げます。ありがとうございました。

 

高齢者向けスマホ教室配布資料

高齢者向けスマホ教室配布資料

高齢者向けスマホ教室配布資料

高齢者向けスマホ教室配布資料

高齢者向けスマホ教室配布資料

図 高齢者向けスマホ教室 配布資料

写真高齢者向けスマホ教室参加者の様子

写真高齢者向けスマホ教室参加者の様子

写真 高齢者向けスマホ教室 参加者の様子

写真視覚障害者向けスマホ教室参加者の様子

 

写真視覚障害者向けスマホ教室参加者の様子

写真視覚障害者向けスマホ教室参加者の様子

写真 視覚障害者向けスマホ教室 参加者の様子