ロービジョンがある人の夜間歩行を支援可能な光の発光条件と照射条件の評価
近畿大学 生物理工学部 人間環境デザイン工学科 福祉工学研究室 豊田 航
ロービジョン,夜間歩行,光誘導,懐中電灯,VR,省エネルギー
(研究目的) (研究手順) 本研究では,視覚情報の制限が著しい重度視野狭窄に焦点を当てた.実験1では,視野狭窄状態の晴眼者が,発光条件(点灯パターン,発光部の長さ,設置間隔)が統制された床面誘導光の設置された暗闇コースを直進歩行した.実験2では,視野狭窄状態の晴眼者が,照射角度とルーメンが統制された懐中電灯を使用しながら,ヴァーチャル・リアリティ(VR)空間内の夜間の歩道を歩行した. (研究成果) 実験1の結果,以下が明らかとなった. ・床面誘導光の点灯パターンに関しては,点滅方式(光の点灯と消灯を周期的に繰り返す発光方法)は,常時点灯方式と比べてモビリティパフォーマンス(歩行速度,歩行中の停止回数など)が顕著に低い.他方,スローフラッシュ方式(光の明るさを徐々に増加及び減少させることを周期的に繰り返す発光方法)は,常時点灯方式と同等のモビリティパフォーマンスを実現できる. ・スローフラッシュ方式の床面誘導光が地面に設置されていると,床面誘導光が設置されていない場合(即ちほぼ完全な暗闇を歩く場合)と比べて,少なくとも平均1.6倍以上の歩行速度で移動できる. ・床面誘導光の発光部の長さに関しては,発光部が長いほどモビリティパフォーマンスが向上する.特に床面誘導光の長さが0.9mあれば,環境全体が明るく照らされた状況とほぼ同等のモビリティパフォーマンスが実現できる. ・床面誘導光の設置間隔(暗闇の区間の長さ)に関しては,少なくとも5m以下の設置間隔ではモビリティパフォーマンスの違いがほとんどない. ・以上より,スローフラッシュ方式の長さ0.9mの床面誘導光を5m間隔で設置することによって,夜間における視野狭窄を伴う直進歩行の支援効果の最大化と費用負担(設置・維持コストなど)の削減を両立できる可能性がある. 実験2の結果,以下が明らかとなった. ・携帯型電灯の照射角度が30°から120°の範囲において,照射する光のルーメン値が増加することによって歩行速度の向上,左右及び前後の観察範囲の拡大,前方から来る歩行者の発見距離の増大が実現できる ・携帯型電灯の照射角度が広いほど,障害物及び歩行者の回避によって身体や視線の向きが変化しても携帯型電灯で照らす範囲と視野を一致させ続けることができ,周囲の安全を視覚的に確認しながら歩行できる.なお照射角度30°は障害物と歩行者の回避行動中に携帯型電灯の照射部から視野が外れる時間が顕著に長かったため,特に避けるべき条件である. ・携帯型電灯を使用すると,使用しない場合と比べて,視野狭窄下における歩行速度が向上する. |