バリアフリー推進事業

2024年度 若手研究者部門 成果報告

研究助成名

交通バリアフリーに関する法的研究

研究者名

駒沢大学法学部  田実宗

キーワード

道路交通法、公物法理論、公道空間の再配分、路上駐車、電動アシスト自転車、移動用小型車、身体障害者用の車、歩行補助車等

研究内容

(研究目的)
本研究は、交通バリアフリーの進展を念頭に、交通バリアフリーの主役となる乗り物の法的課題を抽出するとともに、公道空間の再配分を法的に提言することを目的とし、公物法理論の再構成という行政法学における学術的な意義を備えた。

(研究手順)

文献の渉猟、わが国の交通バリアフリーに関する法制度の分析、欧州における先進事例の調査、ドイツ人研究者へのヒアリングを行った。

(研究成果)

1.はじめに ある調査によれば、近距離の移動に際し、約6割の高齢者が、駐車の手間を理由に、自動車での移動を面倒に感じており、自動車の代替交通手段として、電動車いす等の普及が注目されている。電動でも、免許不要かつ歩道を通行し得る乗り物は、交通バリアフリーの進展に不可欠な存在である。もっとも、その公道空間における利用の方法は、とりわけ駐車の問題について、法令上に十分な規律がなく、かつ、それは公物法理論の再構成に深く関わる。本研究では、以上のような交通バリアフリー上の法的課題について検討を加えてきた。 2. 交通バリアフリーの主役と道路交通法 交通バリアフリーの主役としては、電動でも、免許不要かつ歩道を通行し得る乗り物が想定される。道路交通法上、特例特定小型原動機付自転車、軽車両(普通自転車等)、移動用小型車、身体障害者用の車、遠隔操作型小型車、歩行補助車等が、そうした交通バリアフリーの主役となる乗り物に該当する。特例特定小型原動機付自転車および軽車両(普通自転車等)は、道路交通法上、車両に該当するため、普通自転車等も通行可能とされている場合に限り、その歩道を通行できる。他方、移動用小型車、身体障害者用の車、遠隔操作型小型車、歩行補助車等は、道路交通法上、歩行者とみなされているため、歩道の通行が可能である。 電動アシスト自転車は、電動ではあるが、免許不要かつ特定の歩道を通行し得る乗り物であり、二輪のみならず三輪や四輪以上も存在するから、交通バリアフリーの主役の一つである。電動アシスト自転車は、人の力を補うために原動機が用いられており、そのモーターでアシストされる力の程度が道路交通法施行規則において定められている。本研究では、交通バリアフリーの観点から、電動アシスト自転車について、道路交通法施行規則を更に改正し、足腰が弱った高齢者の利用を念頭に、モーターで補助できる力の程度を引き上げることを提言した。 令和4年の道路交通法改正で、移動用小型車および遠隔操作型小型車が新たに規定されたが、それらは歩行者としてみなされている。もっとも、このように道路交通法は改正された一方、道路運送車両法上の車両区分は改正されていない。そし  て、移動用小型車および遠隔操作型小型車については、道路運送車両法が改正されていないにもかかわらず、国土交通省内部の見解に沿って、道路運送車両として扱わない運用が実務上なされている。つまり、従来、道路運送車両法上、原動機付自転車であった乗り物は、自賠責保険への加入が義務付けられ、かつ軽自動車税が賦課されていたが、道路交通法上の移動用小型車および遠隔操作型小型車に該当することとなった乗り物の場合、こうした法改正によらない実務上の解釈が原因で、自賠責保険等への加入義務が消滅し、かつ軽自動車税の課税対象から外れたこととなる。本研究では、自賠責保険等への加入義務および軽自動車税の課税という重要事項が、法令改正でなく行政内部の解釈のみで変更されたという行政法学上の問題点を取り上げた。 3.交通バリアフリーの主役と駐車問題 路上駐車の許容は、ある形態の車両や特定の交通利用者に限る等、一定条件の下ならば、交通バリアフリーの進展に資すると思われる。ただし、現行法上、あくまで都道府県公安委員会または道路管理者の判断により、そのような公道上の駐車空間は創設され得る。本研究では、どのような駐車空間を公道上に用意するのかは、まちづくりと密接に絡む事柄であるため、本来は、住民の意見を反映した計画を基礎自治体が策定し、それに基づいて、都道府県公安委員会および道路管理者の権限が行使されるべきであることを提言した。 警察官等または警察署長は、道路交通法51条3項・5項に基づき、違法に駐車された車両を移動させることができる一方、地方公共団体の長は、自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律を踏まえて制定された自転車条例に基づき、放置された自転車等を撤去することができる。本研究では、こうした権限の重複に伴う曖昧な役割分担が、法執行の欠缺を招きかねないという問題を提起した。 道路交通法に基づく駐車規制は車両を対象とするものであるため、道路交通法上、歩行者とみなされる移動用小型車、身体障害者用の車、遠隔操作型小型車、小児用の車又は歩行補助車等は、駐車規制の対象には入っていない。しかし、交通バリアフリーの進展に伴い、移動用小型車、身体障害者用の車、遠隔操作型小型車、小児用の車又は歩行補助車等といった道路交通法上は歩行者としてみなされている乗り物も、今後は増加し、それらの放置が問題となることがよそうされなくはなかろう。本研究では、そうした道路交通法上の車両ではない乗り物についても、駐車に関する法的基盤を整備していかなければならないことを提言した。