バリアフリー推進事業

2023年度 一般部門 成果報告

研究助成名

駅ホームにおける視覚障害者の行動に影響する個人要因の研究

研究者名

公益財団法人鉄道総合技術研究所 大野 央人

キーワード

視覚障害者、駅ホーム、転落、個人要因、安全意識

研究内容

(研究目的)
視覚障害者の駅ホームからの転落防止を目指して、駅ホームにおける視覚障害者の行動特性と安全意識について検討し、行動に影響する個人要因を明らかすることを目的とした。

(研究手順)

リモート形式のヒアリング調査を実施した。ヒアリングは3つのパートから成り、パート1では個人プロフィール、パート2では転落等の経験や駅ホームでの安全意識について聞き取りを行った。また、パート3では、事前に用意した「リスクをもともなう行動」リストを用いて、安全意識の構造を検証するための質問を行った。なお、パート3については、比較対象として、晴眼者のデータも収集した。

(研究成果)

全国から235名の全盲者およびロービジョン者の皆様にご参加いただいた。調査で得られた成果を以下に箇条書きで述べる。 (1)転落に結びつきやすい行動 収集したホーム転落の事例を分析したところ、複数の事例に共通する行動が存在した(表1)。これらは「転落に結びつきやすい行動」と考えられた。

(2)「転落に結びつきやすい行動」が起こる理由
「転落に結びつきやすい行動」が起こる理由を分析したところ、視覚障害者は基本的には安全に留意して行動しているが、人混みや時間的切迫など、その時々の状況によっては「転落に結びつきやすい行動」をしてしまう場合があると考えられた。
その一方、晴眼者でも個人差が見られるのと同様、駅ホームでの視覚障害者の安全意識には個人差がみられ、慎重に行動している者が多くいる反面、必ずしもそうとは言えない者も一定数存在することが明らかになった。

(3)安全意識の個人差 事前に用意した「リスクをともなう行動」リストを用いて、各行動に対する敢行確率と危険度評定を分析して、リスク認知の個人差を検討した。敢行確率に基づいて抽出したリスキー群と慎重群の特性を比較したところ、リスキー群は慎重群より危険度評定が相対的に低いために敢行率が高くなると考えられた(図1)。

(4)リスキー傾向の自己判定方法 4つの質問項目に該当する項目数を数えることで個人のリスキー傾向を簡便に自己判定する方法を提案した。この方法をリスキー群と慎重群にフィードバックして試したところ、概ね正しい判定結果が得られることを確認した(図2)。

(5)リスキー群と慎重群における転落回数  リスキー群と慎重群の駅ホームからの転落回数を比較したところ、リスキー群の方が有意に多かった(図3)。このことから、上記の方法で判定した結果は、ホームからの転落リスクを低減させる対策に活用できる可能性が示唆された。

今後、本研究で得た知見を啓発活動や教育などの場面において、転落防止に結びつける具体的な方法の検討が必要である。

 

表1 「転落に結びつきやすい行動」の例 表1 「転落に結びつきやすい行動」の例

図1 リスキー群と慎重群における危険度評定と敢行確率の関係

図1 リスキー群と慎重群における危険度評定と敢行確率の関係

図2 リスキー群と慎重群における該当項目数

図2 リスキー群と慎重群における該当項目数

図3 リスキー群と慎重群における転落回数

図3 リスキー群と慎重群における転落回数