暑熱環境下での移動中に道路から受ける輻射熱の身体的影響低減策の開発
武蔵野美術大学 北 徹朗
暑熱環境、突発的猛暑、輻射熱、アスファルト、都内の観光地(浅草、巣鴨)、地表温度低下
実施者が所有する、サーモグラフィカメラ、風速計、WBGT計を持参し、下記のスケジュールで東京の代表的観光地である「巣鴨・地蔵通り商店街周辺」および「浅草・浅草寺周辺」の観察実験を行った。 ・2022年7月23日(土)巣鴨・地蔵通り商店街周辺 ・2022年7月30日(土)浅草・浅草寺周辺 <巣鴨・地蔵通り商店街での実地踏査(2022.7.23)> 午前8時30分の段階で、WBGT28.2℃、気温28.7℃、風速0.12m/s、地表温度45.0℃であった。最高気温は11:30に観測した43.9℃であり、最も地表からの輻射熱が高温となったのは12:45の66.8℃であった(表1)。この日、熱中症アラートは発令されていない日であったが、猛暑日であった。写真に示したように、土曜日と言うこともあり、買い物客で賑わっていた。人物タイプ別に、約50メートル程度の区間(門からそば店までの約50メートル)の走行スピードを比較したところ、下記の様であった。 @自転車の男性 7秒 A4人ファミリー 30秒 Bベビーカーを押す女性 32秒 C松葉杖の男性 44秒 D中年女性 25秒 E高齢女性 1分15秒 巣鴨には実際に高齢の買い物客が多いが、この層の方は移動に時間を要するため、地表からの輻射熱の影響を特に受けていた。翌24日(実験2日目)には、定点観測ではなく、同時刻において、場所による温度の差がないかの検証を試みた。これについては、特徴は見られなかった(どこで計測してもWBGT値等に大きな差は無い)。 また、下記の写真のように、この商店街の道路は、新しいところと古いところが混在している上に、黒アスファルトで補強されている部分が多いため、地表に蓄熱しやすい状況が生じていた。後述する浅草寺の参道商店街と比べてみても、道路の色による影響が示唆された。 <浅草・浅草寺参道での実地踏査(2022.7.30)> 午前8時30分の段階で、WBGT30.8℃、気温34.8℃、風速0.15m/s、地表温度45.1℃であった。最高気温は12:15に観測した42.7℃であり、最も地表からの輻射熱が高温となったのは12:00の55.4℃であった(表1)。 この日も熱中症アラートは発令されていない日だったが、計測開始時点のデータを見ると、巣鴨実験に比べて浅草での気温データの方が高いが、地表温度は巣鴨の方が概ね10度以上高い。 この原因としては、やはり「道路の色」が考えられる。浅草寺参道は白色系で整備されているため、熱吸収が少なく、輻射熱が低減されているものと思われる。参道での定点観測地点を離れて、黒系道路あるいはアスファルトの計測を試みたところ、60℃を超える高温となっていたことからもそう考えられる。 巣鴨実験の際と同様に、一定距離(約20メートル)の移動時間を観察したところ、下記のようであった。 @杖を突く高齢男性 45秒 A幼児を連れた家族 18秒 B中年の夫婦 16秒 C若い男性 11秒 翌31日(実験2日目)には、定点観測ではなく、同時刻において、場所による温度の差がないかの検証を試みた。これについては、特徴は見られなかった(どこで計測してもWBGT値等に大きな差は無い)。 <暑熱環境下において輻射熱を低減できる散策路(道路表面温度低減)開発のための検証> @様々なタイプの路面素材を用いた検証(2022年8月7日) 申請者の所属先である武蔵野美術大学の駐車場(東京都小平市)において、21種類の路面素材(石)を用いて、8:30〜16:00までの間、30分おきに計測した。写真9は検証に用いた素材で、表3は測定期間の環境データである。 この結果を見ると、白や黄色など薄い色が極めて低い温度に抑えられていることがわかる。グレーなど、アスファルトよりも薄い色でも、黒系や赤系は短時間で高温となっていた。 A様々なシート素材を用いた検証(2022年9月6日) 巣鴨および浅草での検証、ならびに様々なタイプの路面素材での検証を踏まえると、散策路は白系にすることが猛暑時には望ましい。大規模工事による整備をしなくても、夏期の猛暑下において輻射熱を低減できるシートを開発するために、幾つかの素材を用いた検証を試みた。PVC素材、ポリプロピレン素材(網タイプ、タイルカーペットタイプ)、人工芝マット、遮熱目隠しシート、などである。 まとめ 白系の路面は直射日光による熱吸収の影響受け難い。シート状のものを覆うだけでも効果があり、打ち水などすることで、輻射熱を格段に低減させる可能性が期待できる。素材の薄さ厚さに関係なく、色が重要である。アスファルトの上から白の塗装をすることでも大いに効果が期待される。近年みられる突発的な猛暑から健康を守るためにも、「色」に着目した道路整備や街づくりが重要ではないか。 |
表1.巣鴨・地蔵通り商店街入口における定点観測(2022.7.23)
写真1.巣鴨商店街@ 写真2.巣鴨商店街A
写真3.申請者による計測の様子 写真4.巣鴨商店街B
表2.浅草・浅草寺参道での定点観測(2022.7.30)
写真5.浅草寺周辺@ 写真6.浅草寺周辺A
写真7.浅草寺周辺B 写真8.浅草寺周辺C
写真9.検証に用いた素材
表3.アスファルト表面温度(2022年8月7日)
写真10.検証開始時の表面温度は一定
写真11.開始後30分(9:00) 写真12.開始歩2時間(10:30) 写真13.開始後3時間(11:30)