バリアフリー推進事業

2021年度 一般部門 成果報告

研究助成名

f復興事業中における標高の変化を考慮した移動制約者の津波避難に関する研究

研究者名

岩手大学 理工学部 システム創成工学科 社会基盤・環境コース 谷本 真佑

キーワード

復興事業,嵩上げ,標高,現地計測、GIS,津波避難,移動制約者

研究内容

(研究目的)
本研究は,東日本大震災からの復興まちづくりが進む岩手県陸前高田市において,公共測量結果を基に道路網の標高データを計測し,避難環境の検討に要するデータの構築を行う. また,構築されたデータを用い,高齢者や来訪者などの移動制約者を考慮した避難環境の検討を行う.

(研究手順)

1.分析対象経路の選定 浸水想定区域内に立地する高田松原津波復興祈念公園を避難開始地点とし,避難場所までの距離や避難の方角、傾斜等を考慮し,避難場所や経路を複数選定した. 2.避難ルートの現地確認 1.で選定した避難経路について,路面の舗装状況や階段の有無など,移動制約者の通行に支障となり得そうな状況の確認を現地で行った.また,国土地理院の「数値地図」に収録されている道路網データと実際の供用状況を照合した. 3.基準点の標高値確認 分析対象経路の周辺に設置された基準点(三角点,水準点)の緯度・経度・標高について,現地計測結果と照合できる形に整理した. 4.標高等の現地計測 GPS測量による計測により,分析対象経路の標高を詳細に計測した. 5.分析用道路網の作成 4.までで得られた結果を基に,2021年12月現在の供用状況や標高を反映した分析用の道路網を作成した. 6.各経路の分析 分析対象の各経路について,避難場所までの距離や標高の推移等について整理し,各々の特徴について分析した. 7.移動制約者の避難に関する考察 高田松原津波復興祈念公園からの津波避難について,分析した計5経路の特徴を踏まえながら,移動制約者の避難について考察した.

(研究成果)

本研究では,大規模な市街地嵩上げ事業や高台造成事業により市内の標高分布が震災前より大幅に変化した岩手県陸前高田市を例に,海岸付近に立地する高田松原津波復興祈念公園からの避難について,標高増加の程度や舗装状況,階段の有無などを現地で計測・確認した結果より,移動制約者の避難を考慮し分析を行った. 5つの避難経路を選定し分析したところ,最寄りの避難場所である気仙小学校へ最短で到達できる「経路1」が,短距離で標高の高い地点へ到達可能であり,かつ移動距離が最短であることを定量的に明らかにした.しかし「経路1」上には階段を上る区間があること,勾配が比較的緩くない区間があること,避難経路のほとんどが海岸と並行している(移動しても海が近くにある)ことなどの課題も明らかになった.個人の抱える移動への制約は様々であるため,自身の制約を考慮した経路や行動の選択が必要であり,本研究ではその経路選択の支援に繋がる情報を定量的に示した. 本研究で使用した標高は,GPS測量による計測結果を用い,徒歩での移動で1秒おきに計測を行った.このため,標高計測点の間隔が短くなり,階段など短い距離での標高変化も捉えられるため,移動におけるバリアを定量的に示すことができた.また,小型のGPS測量機材を用いたため,従来の測量と比べ作業の省力化および迅速化を図ることができた. 本研究で示した方法は,嵩上げ市街地や高台造成地を有する他の被災地や,日本海溝・千島海溝連動地震など,今後の津波浸水が想定されている地域の津波避難計画立案に有用な定量データを提供できるものと考えられる.

 

図1 経路1のルート※国土地理院・数値地図二一部加筆

図1 「経路1」のルート ※国土地理院・数値地図に一部加筆

図2経路1の標高推移

図2 「経路1」の標高推移