公共交通機関における、健常者による配慮が必要な人のニーズへの「気づき」と「気づかい」を促進するメッセージの表示方法に関する予備的研究
帝京大学医療技術学部 スポーツ医療学科 内山 由美子
公共交通機関 メッセージ表示 コミュニケーション 気づかい
(研究目的) (研究手順) 【調査1】公共交通機関の車内や駅構内に掲示されているポスターの内容分析 【調査2】公共交通機関利用時に配慮が必要な人へのインタビュー (配慮を求める側の調査/研究5のプレ調査) 【調査3】 配慮が必要な学生へのインタビュー(通学時の困難等) 【調査4】 公共交通機関を利用する健常者の、配慮の必要な人への配慮意向とその時の気持ちについてのアンケート(配慮を行う側の調査) 【調査5】車いすユーザーの保護者の公共交通機関利用時の困難とニーズに関するアンケート (研究成果) 本研究では、公共交通機関利用時に、健常者による配慮が必要な人のニーズへの「気づき」と「気づかい」を促進するメッセージの表示方法を検討した。 次に、健常者がどのようにしたら、配慮の必要な人のニーズに気づき、行動を起こすことができるのかを探るため、@配慮を必要とする側の公共交通機関利用時の困難とニーズについて把握し、A健常者側が感じている配慮意向と配慮時の心情について明らかにした。配慮を必要とする側の公共交通機関利用時の所感からは、駅員やバス乗務員によるサービスが向上により、乗客による配慮の認識が低下していることが示された。配慮への気づきを促すには、配慮が必要な「理由」や、それにより何が助かるかという「結果」を表示することが方法の一つとして考えられた。しかし、これらを伝達するにはメッセージに表示する文字数が多くなるため、乗客の目につき、じっくりと読むことができる駅構内の掲示板や動画モニターなどを活用して情報提供する必要があると考えられた。また、聴覚障害者は、視覚的情報を頼りに公共交通機関を利用しており、乗車や乗換時の慌ただしい時間の中で、言葉のやり取りなしに伝わる方法として文字や図が頼りになっていることがわかった。見た目では聴覚障害者であることがわかりにくいため、配慮が必要な時に配慮を受けにくい状況であることが示された。これらのことから、もし、配慮が必要な人が他の乗客から配慮を受けられない場合、駅員や乗務員に繋がる方法を駅構内や電車内に表示することが、駅員による配慮に繋げることができる方法の一つになると考えられた。 他方、健常者は、公共交通機関利用時、配慮の必要な乗客へ席を譲る意向があるが、それを躊躇する経験を有していた。その要因として、席を譲って断られた経験がある者の中で断られた理由を考えることができなかったとの回答が24%あり、その時の心情もネガティブな言葉が表出されていた。断られた理由を考えることができない場合、次回の配慮意向や配慮行動に影響を及ぼす可能性がある。これらのコミュニケーションを円滑にするため、配慮が必要な人が具体的にどんな配慮が必要なのかを乗客が予め知っておくことが大切であり、駅構内の啓発ポスターの内容を「配慮が必要な理由、具体的配慮例」を添えたものにする、「動画を用いて配慮方法例」について表示することが活用例の一つとして考えられた。 さらに、障害のある車いすユーザーの子どもの母親の公共交通機関利用時の困難・ニーズに関する研究からは、エレベーターや車いすスペースの適正利用への課題が示され、エレベーターが優先席ほど優先性を認識されていないことにより配慮を受けにくい状況にあることがうかがえた。エレベーター以外に駅構内の移動手段がない車いすユーザーにとって、エレベーターを譲ってもらえない経験は困難度が高い。メッセージの表示方法として、エレベーターを譲ることや車いすスペースを空けることにより、他の乗客の移動の妨げにならないという「利点」についても、健常の乗客が認識できるよう伝達する必要があると考えられた。 健常者に対する配慮の必要な人の具体的なメッセージ表示方法として、研究対象者より提供いただいたような実例を含めたポスターや動画の活用が有効であると考えられ、今後その有効性についても検討していく必要がある。 |
電車や駅構内に掲示されているマナー啓発ポスター