バリアフリー推進事業

2021年度 一般部門 成果報告

研究助成名

パーソナル・モビリティ・ビークルを用いた高齢買い物弱者の移動支援に関する研究

研究者名

東洋大学 ライフデザイン学部 人間環境デザイン学科 高橋 良至

キーワード

高齢者,買い物弱者,移動支援,パーソナル・モビリティ・ビークル

研究内容

(研究目的)
パーソナル・モビリティ・ビークルを使用することで買い物に出かけやすくなり,食料品アクセス困難改善にどのように寄与することができるか,提案を行い,妥当性を検証することを目的とする.

(研究手順)

対象者に対してアンケートを実施して,属性や買い物のための移動などについて調査を行った.また,電動カートを用いて近隣の店舗に買い物に行く走行実験を行い,走行する様子を観察し,ヒアリングとともに分析・評価した.

(研究成果)

1.対象者 都市型団地における買い物弱者支援を目的としていることから,東京都世田谷区にあるUR希望ヶ丘団地に居住する高齢者を対象とした. 2.アンケート調査 アンケートは(1)対象者の属性:性別,年齢,既往症,居住棟,居住階,(2)日常生活における買い物のための移動:買い物に行く頻度,利用店舗,移動手段,移動時間,滞在時間,(3)買い物以外の移動:買い物以外の外出目的,移動手段,移動時間,頻度,(4)電動カートについて:使用希望の有無,シェア可能な場合の使用希望の有無,(5)その他:移動全般について,を質問として設定した.  アンケート回答者は15名で全て女性であった.全員移動に支援を必要としていない.買い物に行く頻度は週1回から毎日まで様々であった.利用店舗は最も近い団地内にあるスーパーマーケット(8人)で,次に団地に隣接する新しい大型のスーパーマーケット(5人),隣接するコンビニ等であり,概ね徒歩5分圏であった.移動手段は徒歩(8人),自転車(2人)が多く, バスで少し離れたスーパーマーケットや駅前に出向く人もいた.買物以外の用件は,通院,趣味の順であり,仕事やボランティア,デイサービスもあった.徒歩,自転車による移動もあるが,バスと鉄道を乗り継いで出かける人が多かった(5人).  電動カートを使ってみたいと思う人は,3人,思わない人は9人であった.使ってみたい理由は,「重い荷物を運ぶときに便利」,「形がスマート」などで,思わない理由は,「歩けるから」であった.将来使うかもしれないと思う人は2人であった.シェアできる場合に使ってみたいと思う人,思わない人も同じ人数であった. 3.走行実験  団地から近隣の店舗まで電動カートを使用して移動し,日常の買い物をするという設定で,団地集会所から団地に隣接する新しい大型スーパーマーケットまで電動カートで往復する走行実験を実施した.店内で移動し実際に買物も行った.実験参加者は3名で,うち2名は80代女性,比較対象として20代男性1名であった.体力測定,生活のひろがり,認知機能に関するテストを行った結果,一人は軽度の認知症の可能性があり,下肢機能は要支援1に近かった.もう一人は,認知機能正常で下肢機能は一般高齢者レベルであったが,小児麻痺で左手に障害があった.この被験者は電動カートに試乗した経験があった.  実験走行から,電動カートに試乗した経験がある被験者の方が,先を見越したハンドル操作操作を行うことができていたが,もう一方の被験者は,運転に慣れていないことに加えてハンドルを一杯に切る力がないため,小さく旋回することができず止まってしまうことが多かった.使用にあたっては,運転操作の練習を十分行い,車両感覚を身に着けること,身体能力にあった車両を選定する必要があると考えられる.下肢機能が弱っている被験者から,電動カートより歩いた方が早いとのコメントがあったが,感覚的なもので,歩行速度は電動カートと同程度で,途中で休憩が必要なため,移動時間は電動カートより長くなると推察される.   4.まとめ   電動カート走行実験の観察から,電動カートを用いて買物に出かけることは,歩行機能が弱っている人に有効であると考えられる.団地でのシェアを実現するためには,電動カートの管理が必要となる.駐車スペースの確保(実験を行った団地では,電動カートの駐車を許可していない),予約・貸し出しの受付,充電や整備,保険などの事故対応など,団地管理者や自治会などとの調整を行い運用体制を確立する必要があることが確認できた.

 

電動カート走行実験の様子電動カート走行実験の様子

電動カート走行実験の様子