バリアフリー推進事業

2021年度 一般部門 成果報告

研究助成名

地域公共交通サービスにおける健康に関するクロスセクター効果の算出

研究者名

近畿大学理工学部 柳原崇男

キーワード

交通行動、健康、フレイル、歩数、医療費抑制効果

研究内容

(研究目的)
本研究では、コンパクトシティの形成に取組む目的の一つとしての「歩く」ことを基本とした日常生活が送れる都市構造への転換を図るため、コンパクト・プラス・ネットワークという施策の中に位置づけられている公共交通政策を歩行量増加による医療費抑制効果という視点から評価する。

(研究手順)

本研究では、歩数調査、フレイル計測、アンケート調査の3つを実施した。被験者の1日の交通行動および歩数調査より、公共交通利用時の歩行量を算出する。その歩数量から、1人当たりの地域公共交通を利用することによる年間の医療費抑制費用を算出し、アンケート結果から全体効果を推計する方法である。また、被験者の客観的な虚弱状態を把握し、縦断的(継続的)な研究により、虚弱状態を把握した。

(研究成果)

ここでは、3つの調査のうち歩数調査による医療費抑制効果の算出のみ記述する。 【調査概要】 本研究の被験者居住地域は、大阪府河内長野市楠ヶ丘地区である。楠ヶ丘地区は南海電気鉄道三日市町駅から 西北西に約1kmの丘陵地に位置する郊外型のニュータウンである。2019年、997世帯2345人が生活しており、65歳以上の高齢者は806人、高齢化率は34.4%である。楠ヶ丘地区内を運行する公共交通はタクシーを除き、公共交通不便地域であった同地区では、2013年度から地域主体の乗り合いタクシー「くすまる」が運行している。本研究では、この乗り合いタクシーを対象に、利用による医療費抑制効果を算出した。 調査としては、地域に居住している方を対象に、約4週間、毎日、外出時の歩行量を調査した。またそれに伴い、外出時の外出場所、外出目的、交通手段、外出時間について記述してもらった。今回の実験被験者募集では男性7名、女性13名の計20名、そのうち65歳以上の高齢者は男性4名、女性5名の計9名となった。 【調査結果】 図は、外出時における散歩時の歩行量を除外した交通手段別の平均歩行量である。公共交通利用日、自動車・バイク利用日、公共交通及び自動車・バイク利用日、徒歩・自転車利用日、徒歩のみを利用した日に分類した。図中のN数は、被験者における調査期間中の交通行動のうち、各交通手段での交通行動が出現した日数を示している。また、家族・知人による自動車での送迎とタクシー利用も自動車利 用に含めた。 公共交通利用日の平均歩行量は6968歩/日、自動車・バイク利用日は4901歩/日、公共交通及び自動車・バイク利用日は6981歩/日、自転車・徒歩を利用した日は5491歩/日、徒歩のみを利用した日は4427歩/日となった。公共交通利用日は自動車・バイク利用日と比べて、有意に歩数が増加しており、約2000歩増加していることがわかる。また、公共交通及び自動車・バイク利用日と自動車・バイク利用日を比較すると、有意に歩数が増加しており、約2000歩増加していることがわかる。 前述の分析で公共交通利用日には、他の交通手段で外出した日よりも歩行量が増加していることが分かった。そこで、被験者が様々な公共交通機関を利用した中で、乗り合いタクシー利用が医療費抑制にどの程度影響を与えたかを検討した。乗り合いタクシーを利用した各被験者の医療費抑制効果を算出すると、表のようになる。 乗り合いタクシー利用者は6名のみであったが、6名の乗り合いタクシー利用による1年間の利用者1人当たりの医療費抑制効果の平均は、5334円となった。 利用者数が少ないため、信頼性には欠けるが、アンケート調査より、乗合タクシーの利用率は、34.9%(回答者607名)であった。サンプル数607に対する母比率95%の信頼区間をとると、31.1%〜38.8%となり、これらを今回のアンケート対象者(高校生以上)の全楠ケ丘人口2076人(令和2年)に対し、利用者数を換算すると、645.8〜806.3人の利用者数となる。それに1年間の利用者1人当たりの医療費抑制効果の平均は、5334円をかけると、医療費抑制効果は3,444,612円〜4,300,969円となる。これに、平成30年度財源別国民医療費割合の国庫負担割合25.3%、地方負担割合12.9%の合計38.1%を適用すると、1,312,397円〜1,638,669円が、乗り合いタクシーくすまるによる医療費削減のクロスセクター効果であると考えられる。つまり、乗り合いタクシーくすまるを廃止すると、この費用分が、行政の医療費負担増分になる。 【まとめ】 ? 公共交通利用日は、他の外出手段と比べ、歩行量が増加おり、そのうち、乗り合いタクシー利用による1年間の利用者1人当たりの医療費抑制効果の平均は、5334円となった。 ? 乗り合いタクシー利用により、アンケート調査の乗り合いタクシー利用率から、行政が負担する医療費は1,312,397円〜1,638,669円分抑制していることがわかった。

 

図 交通手段別の平均歩行量

図 交通手段別の平均歩行量

 

表 各被験者の医療費抑制効果

表 各被験者の医療費抑制効果