公共交通を支える担い手確保に関する研究
富山大学理工学研究部都市デザイン学系 猪井博登
路線バス,意向調査,雇用条件,介護・保育サービス
(研究目的) (研究手順) 既往の文献を整理し,調査で提示する雇用条件の組み合わせ(プロファイル)につ いて検討した.その結果,「給与」,「拘束時間」,「有給休暇」,「介護・保育サービ ス」を因子として設定した.さらに,水準を検討し 9 種類のプロファイルを作成 し,これらのプロファイルに対して,「好まない」「どちらかといえば好まない」「ど ちらかといえば好む」「好む」「とても好む」の 5 つの選択肢により,好ましさを質 問した.この調査を近畿 2 府 4 県,中部 10 県,関東 1 都 6 県の大型免許保有者お よび大型二種免許保有者にウェブアンケート調査を行い 1,415 票の有効回答を得た. (研究成果) 就業環境について集計を行ったところ,「バス事業」は「主婦・主夫及び無職」「他 の運輸業」よりも給与が高く,「他産業」よりも給与が低いことが分かった.同様に 拘束時間についても,「バス事業」は「他産業」よりも拘束時間が長いことが分かっ た.さらに,有給休暇についても「バス事業」は「主婦・主夫及び無職」「他の運輸 業」「他産業」よりも年間付与有給休暇日数及び年間消化有給休暇日数が長く,有給 休暇制度が充実していることが分かった.しかし,拘束時間が長いことなどから, 有給の消化は十分に行えていないことが推測される. 「好まない」「どちらかといえば好まない」「どちらかといえば好む」「好む」「とて も好む」にそれぞれ「1」「2」「3」「4」「5」を割り当て,回答が得られた 1,415 票に 対してコンジョイント分析を実施した.表にコンジョイント分析の結果を示した. すべての水準が有意水準 5%で有意となっており,モデル全体も分散検定を行ったと ころ,有意水準 0.1%で有意であった.以上から信頼できる分析結果が得られた. 一般的な雇用条件として[給与:450 万円,拘束時間:12 時間,有給休暇:15 日, 介護・保育サービス:なし]を仮定する.この雇用条件下の効用値は-0.232 であり, 低い就業意向をとった.この雇用条件に即して,担い手を確保する際,最低限「年 間給与額を 175 万 1825 円上げる」「拘束時間を毎日 4.86 時間減らす」「付与有給 休暇日数を年間 18.49 日増やし,かつ介護・保育サービスを提供する」などの雇用条件の向上を行う必要 があることが分かっ た.営業環境が厳し く,個人の賃金を向上 させることが困難な事 業所がある中,介護・ 保育サービスを提供す ることは事業所の負担 コストを削減し,担い 手の確保に寄与するこ とを検証できた. バス運転手の担い手の 確保が期待できる支援 内容を明らかにした. これより,給与か拘束時間のどちらかを向上させる必要があり,給与は最低限 450 万円とする必要があること,拘束時間を 8 時間と設定した時,介護・保育サービス が必要であること,給与を 600 万円まで向上させただけでは担い手の確保が期待で きないが,介護・保育サービスを加えることで担い手の確保が期待できること,介 護・保育サービスを提供することは有給休暇を緩和できることの 4 点が明らかにな った. |
表 コンジョイント分析の分析結果