SfMを用いた高精度3次元復元に基づく歩行空間のバリア表示と活用
関西大学大学院 理工学研究科 谷口 皐貴
写真測量,SfM,3次元再構成,DEM,画像フィルタリング,画像認識,GIS,パノラマ可視化
(研究目的) (研究手順) 小型カメラと360度カメラを搭載した計測台車を開発して,適切な地表解像度で路面画像群を収集し,SfMに基づく3次元再構成によって得られる路面データに対して各路面特徴に適応した画像フィルタリング,深層学習による画像認識処理を施して種々のバリアを検出して,効果的に可視化した. (研究成果) 本研究では,交通弱者の躓きや転倒を招く恐れのある路面の起伏や段差等,細かい粒度の路面特徴を捉える計測の方法論を示した.歩行路面を網羅し効率的な計測を安定して実施するために,図1に示す計測台車を試作し,空撮の要領で路面に近接した視点から取得される高分解能の路面画像を収集した. これらの路面画像群から精緻に3次元再構成された3D路面データは非常に細かい路面の起伏を表現しており,GCP(Ground Control Point;地上基準点)の測地座標を反映することで実際の路面形状と整合の取れたデータとなる.この路面データに基づいて,歩行空間一帯の物理的な路面の勾配や段差,物理的な高度差をもたないグレーチング等の各路面特徴に応じたバリア検出手法を実践した. 標高を輝度値で表現したDEM(Digital Elevation Model)には,物理的勾配と高度差を取る画像フィルタを適用して,歩道乗り上げ部の段差プレートや縁石を検出した.図2は3.0cm/pxで表現されたDEMへの画像フィルタリング結果を示している.車椅子利用者が単独で乗り越えられる程度の勾配として1/25以下の勾配を緑,単独 では通行が難しい箇所を桃色で表現した.ここでは地面から切り立っている縁石ブロックも桃色として検出されている.この画像フィルタリングによって,縁石が再現率,適合率ともに0.99以上で検出できており,このことからDEMの解像度とフィルタ設計を変えて同様の処理を施すことで,他の路面特徴についても高精度に検出されることが期待できる. 地面と高低差の無いマンホールとグレーチングについては,画像認識を適用して色情報により抽出した.独自の学習モデルを用いた実験では,こちらも高い再現率と適合率で十分な性能を示し,今後,形状や模様等の地域による多様性を考慮した学習モデルを適用することで検出手法として有用性が高まると考える. バリア可視化手法としては,図3,4に示す2Dマップと3Dパノラマビューワを実装した.既往のバリアフリーマップはアイコンや色分け,バリア箇所の静止画像で抽象的にバリアが示されており,現地の様子を写実的に反映した外観は確認できない.本研究では,図3のように衛星写真を背景として,さらに路面のオルソ画像を投影して,建物や植生による路面の隠蔽がない形で直接路面にバリア情報を重畳表示している.この2Dマップは,図3(a)(b)のように地物の分布から経路判断ができるような情報リソースとなる.3Dパノラマビューワでは,3D路面モデル上にテクスチャマッピングしたバリア情報により,見た目では判断しにくい傾斜や段差を色分けで明確に表示し,さらに実写のパノラマを背景とすることで,バリアの空間的な位置関係をユーザが把握できるようになっている. 本研究では,歩行空間の計測からバリア検出,可視化手法を提案・検証したが,交通弱者の移動計画立案への寄与を目的としているため,今後は可視化環境を既存のマップやナビゲーションシステムの拡張機能として導入し,交通弱者にとって利便性のあるバリア情報システムとすることを展望している.また,高齢者,車椅子利用者に協力を仰ぎ,システムの評価を行って実用に繋げたい. |
図1 計測台車を用いた計測の様子
図2 画像フィルタリング結果
図3 バリア情報を統合した2Dマップ
図4 バリアを強調した3Dパノラマビューワ