バリアフリー推進事業

2020年度 一般部門 成果報告

研究助成名

視覚障害者の道路横断時の方向定位を支援するツールに関する実証研究

研究者名

東京都市大学 建築都市デザイン学部 都市工学科 稲垣 具志

キーワード

交差点横断歩道口,視覚障害者,方向定位,駅前広場,歩行実験,ヒアリング

研究内容

(研究目的)
視覚障害者の屋外での単独歩行において交通安全上重要な課題である道路横断に関して,近年はエスコートゾーンや音響式信号機の普及によって安全性が確保されてきている.一方でこれらのツールの導入が限定的であることや,歩車道境界の段差・視覚障害者誘導用ブロックを活用すると誤った横断行動が誘発されてしまうといった問題点も指摘されている. 本研究では,申請者が先行研究において開発を進めている,横断方向の定位の支援に特化した信頼度の高い「方向定位ブロック」について,恒常的に敷設される駅前広場において,様々な道路条件の横断歩道を対象に実証的な評価を行うとともに,当事者ならびに歩行訓練士等の生活支援者の各視点から課題を抽出し,普及に向けた実際的な知見を見出すことを目的とした

(研究手順)

視覚障害者が参加する歩行実験を実施し,当事者による方向定位ブロックのユーザビリティや道路横断環境の質評価を行うとともに,横断状況の動画撮影による歩行パフォーマンスの客観的な分析評価を実施した.なお実験に先立ち歩行訓練士ならびに道路管理者へのヒアリングにより得られた知見を整理し,ブロックの詳細仕様の改善や,実験の具体の実施要領や評価対象内容の見直しを図りつつ,社会実装に向けた課題の整理も行った.最後に発光機能の検証実験に向けた評価視点を現地の照度環境調査に基づいて明確化した.

(研究成果)

1.視覚障害当事者による主観評価 方向定位ブロックが敷設されたことにより,「方向定位のしやすさ」「方向定位の自信度」「横断中の安心度」「歩行の自信度」のいずれの評価項目においても,各横断箇所で評価が有意に高くなったことから,道路横断時における方向定位ブロックの有用性を明確に確認することができた.また,横断前の評価項目である「方向定位のしやすさ」と「方向定位の自信度」の評価において,各横断箇所の評価の差が小さくなったことから,方向定位ブロックによって周囲の環境によらず,安定した方向定位が可能になったと考えられる.横断後の評価項目である「横断中の安心度」と「歩行の自信度の評価」についても,方向定位ブロック敷設後に各横断箇所の評価の差が小さくなった.視覚障害当事者個々の方向定位ブロックの活用方法の確立や方向定位ブロックから垂直に歩行する実践を繰り返すことで,周囲の環境によらず,より安定した正しい方向への横断が可能になることが期待できる. 「方向定位ブロックの見つけやすさ」について,道路環境が極端に悪い環境では見つけにくさがやや生じるものの,見つけた後は道路環境や進入角度によらず,有用性が高いことが示された.当該箇所については,歩行実験後のヒアリングから,事前に 周囲の環境の情報を知らされていれば問題ないとの意見が多く確認されたため,方向定位ブロックを敷設する場合は当事者への敷設状況の周知徹底が重要であると考えられる. 2.歩行パフォーマンスの分析による客観評価 歩行軌跡の状況を比較すると,まず横断難易度が高くない箇所において,方向定位ブロックを活用することで,歩行がより安定しており高い有用性が示された.また縁石の配列が湾曲しており道路横断時に配列の法線方向へ誘導されやすい横断箇所においても,方向定位ブロックを利用することでより安定した歩行が可能となることが示された.したがって,方向定位ブロックは横断環境に制約を受けずにより安定した歩行を支援できるといえる. 横断距離1〜5m地点,横断終了位置において,横断開始位置からの横方向変位を分析したところ,いずれの横断箇所においても方向定位ブロックを利用することで変位が小さくなった.特に横断終了位置の横方向変位は,有意差が確認された箇所において80cmほど小さくなっており方向定位ブロックが大きな逸脱を防ぐことで,より安全性の高い道路横断を支援することが確認できた. 単位横断距離あたりの偏軌度は,いずれの横断箇所においても方向定位ブロックを利用することで抑制されることが示された.特に有意差が認められた箇所において40cmほど低くなっており,方向定位ブロックのより安定した歩行を支援する効果が確認できた. いずれの横断箇所においても敷設後に横断速度が高くなる傾向があり,平均横断速度1.1m/s以上で安定している傾向がみられた.有意差が認められた箇所においては0.1m/sほど上昇しており方向定位ブロックを利用することで,より円滑に横断することができ軌跡も安定しやすくなることが期待できる. 3.関係者へのヒアリング  歩行実験の具体内容の計画に先立ち,歩行訓練士を対象に実施したヒアリングでは,実証評価の内容や実験参加者の歩行タスクに関する有益な知見が得られ,計画に反映させることができた.また社会実装における課題が明確化され,新たなツールの導入と併せて活用方法に関する情報提供の必要性が示された.道路管理者へのヒアリングではすべり抵抗の改善に関する指摘がなされ,表面加工による改良によりアスファルト路面と同等のすべり抵抗値を実現することができた. 4.発光機能評価の検討 ロービジョン者を対象とした発光機能による横断支援の評価について,現地における照度や外乱状況に関する調査を実施することにより,評価対象となる横断箇所について,グレアや外乱の存在(照明条件の影響),横断手がかりの不十分さ(道路条件の影響)といった,実験因子を明確にして対象箇所を特定することができた.また実験実施に向けた応募要件や実施手順の見直しといった諸課題の整理を行った.