多様なニーズに応える先進型障害者用駐車場の開発に向けた調査研究
九州大学キャンパスライフ・健康支援センター 羽野 暁
ドライブスルー型、障害者用駐車場、肢体不自由、脊髄損傷者、インクルージョン、社会包摂デザイン
(研究目的) (研究手順) 本研究は、ドライブスルー型障害者用駐車場プロトタイプの設計思想を整理し、期待する機能に対して、同駐車施設の日常利用者ヒアリングと脊髄損傷者ドライバーの駐車行動モニタリングを実施し、有用性を検証する (研究成果) 1.ドライブスルー型障害者用駐車場の設計思想 2.脊髄損傷者ドライバーを対象とした検証 脊髄損傷者ドライバーの協力を得て、ドライブスルー型障害者用駐車場を対象に運転操作負荷に関する検証を実施した。検証は、比較分析のためドライブスルー型と標準型の2つにおいて実施した。両タイプともに九州大学伊都キャンパスに実装されているものである。駐車マスのサイズは幅5m、奥行き5mで等しく、ともに全面青色塗装である。対象施設の構造上の相違点は、通り抜けられるか否かである。検証実験は、停止した車両が走行を開始し、駐車マスに停車するまでの駐車行動を対象とした。両タイプともに、同じ被験者による駐車行動を検証した。被験者の車両にレーシングレコーダーとビデオカメラを設置し、走行開始から駐車完了までの行動を記録して運転操作負荷の差異を測定した。 検証の結果、ドライブスルー型は、標準型と比較して、運転操作負荷が軽減されることが確認できた。駐車行動の所用時間、アクセス操作回数、および、ブレーキ操作回数が半分以下に減少し、ハンドル操作量は4割程度減少することが確認できた。具体的には、駐車行動の所用時間は平均値で58.7%減少し、アクセス操作回数は平均値で60%減少し、ブレーキ操作回数は平均値で63.6%減少し、ハンドル操作量は平均値で43.9%減少した(図2)。 本研究で得られた知見は、次の通りである。 1) ドライブスルー型障害者用駐車場のプロトタイプの実装を通して、整備対象地がアイランド形状であれば、標準型の障害者用駐車場とドライブスルー型障害者用駐車場の整備コストは同等であることが分かった。 2) ドライブスルー型障害者用駐車場プロトタイプの日常利用者を対象にモニタリングとヒアリングを実施した結果、車椅子使用者の乗降に際して車両側方および車両後方のスペースは十分に余裕があることが分かった。また、入庫経路が明快なため駐車時の切り返しが無く、運転容易性が示唆された。 3) 脊髄損傷者ドライバーを対象に運転操作負荷を計測した結果、ドライブスルー型障害者用駐車場プロトタイプは標準型と比べて、駐車行動の所用時間、アクセス操作回数、ブレーキ操作回数が半分以下に減少し、ハンドル操作量は4割程度減少することが分かり、運転操作負荷の軽減が確認できた。 今回、プロトタイプにおける検証数はわずかであるが、ドライブスルー型障害者用駐車場は十分に高い利用容易性を有していることが確認できた。本プロトタイプは、アイランド形状の対象地に整備したものであるが、今後は一般化に向けて、大きなスペースを必要としない汎用レイアウトの検討を進めたい。 ドライブスルー型の障害者用駐車場の最終目標は、肢体不自由の方が使いやすく、かつ健常者も使いやすい駐車場の実現により、インクルーシブな公共空間を達成することである。本駐車施設の普及は、肢体不自由の人の外出行動の容易性を高め、社会参加の機会増加に資すると期待できる。この駐車施設は、肢体不自由の人に留まらず、高齢者や健常者に対しても駐車行動の容易性を高めるものである。後進を必要としない見通しの良い構造は、高齢者や健常者の利用容易性を高める構造であり、多くの利用者を包摂するインクルーシブな駐車場空間となることが期待できる。 |
図1 ドライブスルー型障害者用駐車場
図2 脊髄損傷者ドライバーの運転操作負荷の比較