バリアフリー推進事業

バリアフリー推進事業の成果:1998(平成10)年度

講演会「アクセスからみたユニバーサルデザイン」の開催

去る11月30日、当財団と、土木学会「高齢社会における社会基盤整備のあり方に関する研究」小委員会準備委員会、福祉のまちづくり研究会の3団体は、カナダの交通 開発センター(Transportation Development CenterCanada=カナダ運輸省の外郭の研究所)のリン・スウエン(S.Ling Suen)氏を招聘して、高齢者・障害者に関する北米の交通政策・技術開発「アクセスからみたユニバーサルデザイン」について、東京都障害者福祉会館で講演会を行いました。その内容は次の通りです。

障害のある方々など困難な人を見かけたときに「お手伝いしましょうか」とごく自然に一声掛けられるように、障害のある方々とのふれあいや、介助の実体験を通じて、移動の困難さを理解してもらい心のバリアフリーを推進しました。

以下は講演記録の抜粋です。

カナダの交通構造と障害者の移動について

カナダ法での交通の責任は、連邦、州及び海外領土政府の間において権限が分かれて、連邦政府は航空、鉄道、及び海上交通 を含む州 際間交通を管轄しています。

都市間バス管理は、州及び海外領土政府に委託され、都市交通 は地方自治体に責を負っています。

カナダの一般的な移動は、複数の管轄権をまたいで複数の交通手段を用いて移動します。障害者が 容易にかつ尊厳を保って移動するためには、アクセス確保についての複数の管轄権と複数の交通手段の調和が不可欠となっています。

カナダにおける障害者のアクセス確保のあゆみ

1970年 カナダ運輸省が交通開発事業団(後に交通開発センター)を設立し、アクセス確保の研究に着手。
1976年 カナダ人権法が「障害」を「差別の根拠」とすることを禁止。
1979年 カナダ運輸省は障害者交通理事会及び障害者交通諮問委員会を設立。
1983年 障害者のアクセス確保な輸送機関についての政策を発表。
1987年 国家交通法に基づきカナダトランスポート・エイジェンシー(NTA)がカナダ交通委員会に置き換わり、カナダ連邦によって管理される輸送網の障害を取り除き争いを解決する権能が与えらる。
1996年 新カナダ交通法がNTAからカナダ交通エイジェンシー(CTA)に変更し、CTAが交通事業者を規制し、訴えを解決する既存の権能を維持することとなる。
熱心に聞き入る交流ボランティア、バリアフリー研究者等

熱心に聞き入る交通ボランティア、バリアフリー研究者等

障害者のアクセス確保を国家の政策に

交通開発センター(TDC)はカナダ交通省の中心的研究機関です。その目的はカナダの交通システムの安全性の確立、及びアクセス性を 向上させ、かつ環境を保護することにあります。

同センターは1970年 アクセス確保に関するプログラムで、主として交通機関の利用において障害者に利益をもたらしました。消費者団体と交通サービス提供者の意見をカナダ交通省に認識させ、交通実現委員会を創設、アクセス確保の交通に関する諮問委員会を設立させるに至りました。同委員会は消費者団体 と業界の懸案事項について運輸大臣に助言できるようなりました。

1986年カナダ交通省は、障害者交通プログラム(TDPP)に基づいて資金を供与しました。連邦の管轄権下にある交通へのアクセスを改善することによって、高齢者・障害者に利益をもたらすことを意図したイニシアチブに資金を供与することとしました。TDPPの資金供与は障害者の社会参加のための国家戦略定めました。

その内容は「平等なアクセス、経済的参加、及び障害者による国民生活の本流への実効的な参加、交通機関の利用に障害者の我々の全国交通システムへのアクセスのし易さの向上を図る」と言うことです。この国家戦略はカナダの交通全般にわたるアクセス確保の向上をもたらすものでした。

小型航空機及び旅客鉄道への搭乗、乗車システムの広汎な導入の実施、空港における地上交通(タクシー、レンタカー、及び空港シャトル・バス等へのアクセス性)の向上、カナダ都市間バスによる移動について大きなインパクトを与えるための経済的なインセンティブが提供されました。

ユニバーサルデザインの基本概念を交通へ

ユニバーサルの原則は、誰でも使用できる、シンプルであること、問題の処理、物理的な努力が省力であることです。デザインだけでなくオペレーションが重要で、スムーズでシームレスでなければなりません。移動するときの目的を考えて、移動者の立場で考えることが必要です。

一番困難なのは 外見的に分からない障害者の対応の研究が大切です。一方、障害者はニーズを伝える必要があります。

提供者は利用者側に立って考えるべきです。先に「NO」とは言わない。どうやったらできるかを考える必要があります。助言するのではなく一緒に考えていくことが重要なのです。「あなたと私」 ではなく「我々」であります。

供給側は、輸送関係のオペレーションシステムの簡素化、現場スタッフの定期的なトレーニングでリフレッシュする必要があります。

例えば酸素ボンベがどこにあるかなど技術的な情報も大切な役割です。視覚障害者は音声、字を大きく、聴覚障害者はメッセージをプリントアップするとか、いろんな情報伝達が考えらます。担当者のコミュニケーションで対応できるか、緊急な情報を放送とか情報装置で伝えられるか、つまり情報の伝達が一つ以上の方法で伝えることが必要です。

すべての人にアクセス可能なモビリティの確保とは、障害者だけでなく、若い人も年をとった人も、乳母車のお母さんも、大きな荷物を持った旅行者も、それぞれの権限で移動を行えるようにすること。家を出て、家に帰るまで、安全に、便利に、快適に移動できることが大切なのです。