男女共用お手洗 Allgender toilet について

このページは、男女共用お手洗に関する情報公開を通じて、男女共用お手洗の理解を深め、周知啓発を図るために作成、公開しています。

※写真、イラストの無断での転載および転写は堅くお断りいたします

はじめに

エコモ財団では、2020年に開催を予定していました2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、2020東京オリパラ)以降も視野にインクルーシブな社会構築の一助として、標準案内用図記号(以下、ピクトグラム)の検討、作成を進めました。

本ページでは、2020年11月に公開しました「標準案内用図記号ガイドライン2020」に含まれますピクトグラム「男女共用お手洗」について、外国人を含む一般の方々、公的施設事業者(公共施設、商業施設管理者等を含む)、設計者、交通事業者、管理者、行政の方々等より多くの方のご理解を頂くために、解説することを目的にしています。

このページを作成するにあたり、2018年度自主事業「オリンピック、パラリンピック開催に向けた移動と交通に関する調査等」における「2020東京オリンピック・パラリンピックに向けたピクトグラム(図記号)のあり方意見交換会」の主査をお務め頂いた髙橋儀平氏(東洋大学名誉教授)、委員をお務め頂いた秋山哲男氏(中央大学研究開発機構教授)、一般社団法人日本発達障害ネットワークの皆様、社会福祉法人東京都手をつなぐ育成会の皆様、小幡恭弘氏(公益社団法人全国精神保健福祉会連合会事務局長)、原ミナ汰氏(性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会(LGBT法連合会共同代表))、岩本健良氏(オフィストイレのオールジェンダー利用に関する研究会座長)、橋口亜希子氏(橋口亜希子個人事務所代表)、児山啓一氏(株式会社アイ・デザイン代表取締役)、堀口仁美氏(株式会社アイ・デザイン取締役)にご協力を頂きましたことを、心より御礼申し上げます。

言葉の解説

「男女共用お手洗が生まれた背景と経緯」

これまで整備が進められてきた多機能トイレは、トイレが使用できないために外出できなかった重度障害者や、幼児連れ親子や高齢者、成人期に達した異性の子どもの介助を必要とする親子など「誰もが入れる」トイレとして、ユニバーサルトイレの代名詞でした。

しかし一方で、多様な障害や様々な困りごとについて社会の理解とバリアフリー化が進み、多様な障害者が外出しやすくなったことも伴って、新たな課題が見えてきました。それは多機能トイレに「利用を必要とする人たちが集中してしまったこと」です。大型ベッドやオストメイト用汚物流し、さらには幼児用小便器やベビーチェア、フィッティングボードなど、いわゆる全部載せとも言われる機能が集約したために、それらの機能を必要とする利用者が時に集中してしまい、結果、長く待たされる、なかなか使えないなど新たな困りごとが発生しています。

また、残念ながら、車椅子利用など「見た目にわかる障害」と、オストメイトの方や異性・保護者同伴利用を必要とする知的障害・発達障害など「見た目にわからない障害」との間で、見た目にわかる障害の方が有利であるといった周囲の視線や場の雰囲気から、ヒエラルキーが生じてしまうケースも起きています。見た目が普通に見えることから「一般の方は一般トイレを使ってください」と従業員や周囲の方に注意されたり、「いい歳をした大人(息子)がなぜ母親と一緒に入るの?」などと偏見や好奇の目で見られるなど、トイレが利用できないことがネックとなって外出できない人たちが多くいるのです。自閉症のお子さんを持つ親からは、手帳をいつも持ち歩いて、文句を言われた時は手帳を印籠のようにかざして多機能トイレを利用するといった悲しい話も聞いています。

見た目にわからない障害も注目されるようになったこともあり、新たな課題として社会に声が届くようになり課題が顕在化したこと、改正バリアフリー法などの法整備が進められる中で、多機能トイレほど広くなく、設備が整っていなくても男女一緒に使用できるトイレを要望する声が高まっていきました。また、トランスジェンダーの方等からは、性自認に沿わないトイレの利用を余儀なくされている状態に著しいストレスを感じるため、車椅子以外に対応できるほどよい広さの便房をもつ中型の個室トイレを、男女それぞれの専用通路を通ることなく廊下等から直接利用できるトイレを要望する声があがりました。

今日的な男女共用お手洗が具現化した大きなきっかけは、トランスジェンダーの方からのオールジェンダートイレの要望でした。その動きを加速させる形で計画されたのが「世界最高のユニバーサルデザイン」を基本理念として建替えられた新国立競技場です。新国立競技場の建設では、設計から施工段階において、高齢者、障害者団体、子育てグループなどが参画した「新国立競技場UDワークショップ」が開催されました。観客席や移動空間などの議論とともに、使いたい人が気兼ねなく使えるトイレ環境についても議論がなされ、その中で男女共用お手洗いも議論がなされ設置されることになったのです。それまでバリアフリーというとどこか身体の機能障害に重きがおかれていた過去から、見た目にわからない障害も含む多様な利用者に重きがおかれていく共生社会の環境づくり大きな一歩を踏み出すことになりました。

利用者が集中しないように利用者を分散させ、さまざまな利用者に配慮して困りごとに応じたトイレから生まれた男女共用お手洗い。多機能トイレから個の尊厳を意識して設備と便房が選択できるトイレへと変化し始めています。トイレ利用は全ての人にとって人権であり、社会参加の土台です。

男女共用お手洗を利用する人々

○発達障害者

トイレのマークが場所によって異なると、どちらが男性か女性か分からず混乱する場合があるので、判断しなくて良いトイレがあると助かります。また、発達障害児者の中には、性別違和を持つ人の比率が高いという調査が複数あります。学校で男女別のトイレに行かせられ、不登校が生じた例があります。このようなストレスの軽減に役立つ可能性があります。さらに、発達障害児者の中には、トイレの使用時に介護を必要とする場合がありますが、その場合の介護者(保護者、支援者)が異性の場合に、気兼ねなく一緒にトイレに入れるメリットがあるでしょう。

○知的障害者

介助者がトイレに入る時、ご本人がいなくなってしまう心配があり、なかなかトイレを利用することができません。介助をするというだけではないため、異性のご本人から見られないように、便器の周りにカーテン等をつけていただきました。中にカーテンが付くことにより、一番助かったのは支援者かもしれません。目を離せない本人は、外で一人で待てないので(どこかに行ってしまったり、何かトラブルを起こす可能性がある)カーテンの向こうで待ってもらえば、支援者も外出中にトイレを使用することが可能になります。支援、介助する人を大切にできることが、結果的に障害者の社会生活を広げることにつながります。いろいろな家族や支援の形がある中で、母と息子、父と娘、老夫婦、きょうだい、異性の友人、異性の支援者と外出するというごく普通の外出も可能になります。(これまでは同性介助が前提でしたが、障害者だからと言って、必ずしも介助する側とされる側という関係ばかりではありません。)

  • 比較的長時間の外出、遠出も可能になります。(家では使用しなくても済む人が、トイレの心配から、外出時には紙パンツを着用している人はたくさんいます。)

○トランスジェンダー

最近メディアなどで「男女共用トイレ」を一括りに「LGBT用トイレ」とする表現が見受けられますが、LGBの人の大多数は、生涯同じ性別で暮らす「シスジェンダー」であり、男女別トイレを利用することに特に不自由を感じないので、この表現は不正確です。男女別トイレの利用に不自由を感じることが多いのは、LGBTの中でもTにあたる人、つまり出生時に付けられた性別と自認する性別が異なる「トランスジェンダー」の人です。学校で男女別トイレに入れず、健康を害したとの報告もあります。またトランスジェンダーの中には、性別分けしないトイレのほうが使いやすいという人がいる一方、自認する性別に沿っていれば、男女分けトイレでかまわない、という人もいるため、すべてのトランスジェンダーに対して一律に男女共用トイレの利用を勧める、というのは問題です。いずれの場合も、性自認に沿ったトイレが選択的に利用できることが大切です。トランスジェンダーは、それぞれある年齢になって、身体の性別とは別の性別で暮らそうと決意すると、外見も含めて性別移行の必要が生じます。性別移行中は、男女どちらのトイレに入っても「~らしくない」と追い出されるリスクがありますが、男女共用トイレであればそのリスクもなく、性を判別しづらい服装や装いでも気にせず、安心してトイレを利用できます。
男女共用なので、両性的、中性的な外見の人 、Ⅹジェンダー、NB(ノンバイナリ ー/多元的)など、二元的でない性自認の人にとっても利用しやすいし、利用者x異性介助者のいかなる性別の組合わせも排除しません。

図記号(ピクトグラム)の解説

標準案内用図記号(ピクトグラム)とその経緯、使用のための解説

ピクトグラムとは

標準案内用図記号は、「対象物、概念または状態に関する情報を、言語や言語によらず、見て分かる方法で伝える図形」で、具体的には方向を表す矢印や男女を表す人の形、電話を表す図形等文を示し、視覚によるコミュニケーションを図ることができる直接的な情報提供手段といわれており、「ピクトグラム」や「マーク」と呼ばれることもあります。文字情報に較べてひと目でその表現内容を理解できる事から、遠方からの視認性に優れている、言語の知識を要しないといった利点があるため、視力の低下した高齢者や障害のある方、外国人等にも有効とされ、日本国内、あるいは世界各国の公共交通機関、観光施設、公共施設等において広く使用されています。

日本におけるピクトグラムの創生期は1964年の東京オリンピックといわれています。その後2002年の日韓ワールドカップ開催決定を受け、日本で初めてピクトグラムの統一化が進められ、2020年2回目の東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、改めてサイン関係の重要性が注目されています。

ピクトグラムの検討経緯

エコモ財団は、2002年日韓ワールドカップ開催を控えた1999年~2000年にかけて、日本財団からの補助事業として125個の図記号を8つのカテゴリーに体系化した「標準案内用図記号ガイドライン」を作成し、公開しています。その内110個がJIS規格化され「JISZ8210案内用図記号(JIS)」として登録されるに至りました。

2020オリパラ開催に向けて、2015年~2017年6月まで日本財団助成事業として図記号の検討を進めました。はじめの1年間は図記号の事例収集、及び障害者団体や外国人観光客への調査を踏まえ、図材の選定等の作業を行い、続いて図案作成及び見直し作業を進め、ISO及びJISの調査方法に準拠したわかりやすいか(理解度試験)及び見やすいか(視認性試験)により、原案の適性度を評価し、2016年3月に10項目の原案を策定しました。2年目は1年目に選定した図材のうち、残りの図材について図案作成及び見直し作業を進め、1年目同様に理解度及び視認性試験を実施し、2017年3月に5項目の原案を作成し、新規作成した図記号が17個、見直しした図記号が2個の他、カテゴリーが1項目追加(アクセシブル)しました。これらの結果については、標準案内用図記号ガイドライン改訂版」としてとりまとめ、2017年7月に公開しました。

しかし、当時検討項目としてあがっていたものの議論が過渡期であり引き続き検討が必要とされる項目が残されていました。そこで2018年度自主事業として、2020オリパラ以降も視野にインクルーシブな社会構築の一助として残された項目を含め、改めて検討を進めました。

検討すべき項目を整理した上で、学識経験者、サイン関係のデザイナー及び専門家、障害者団体、行政担当者等による意見交換会や、当事者団体等へのヒアリング調査、交通、建築、観光、商業、一般消費者、行政担当者等への説明会を通して図案を作成し、理解度や視認性の試験を経て、新たな図記号8項目を作成するに至りました。

現在「JISZ8210」への追加提案をすすめると共に、「標準案内用図記号ガイドライン改訂版」の改正に向けて準備を進めているところです。

今回作成した図記号については、例年の図記号作成と大きく異なる点が2点ありました。

1点目は2020年オリパラ施設で必要とされる図記号を検討項目に加えて、施設建築に間に合うよう急ピッチで作業を行ったことです。これについては、東京都オリンピック・パラリンピック準備局、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会及び独立行政法人日本スポーツ振興センター新国立競技場設置本部に意見交換会に参画いただき、情報を共有し、公共案内用図記号の最も重要な使命であるデザインの統一を図ることができました。

2点目は、「男女共用お手洗」や「カームダウン・クールダウン」など、急速に変化する社会事情に適合するよう、今までにない概念の図記号作成に挑戦したことです。「男女共用お手洗」は、LGBTの表現で代表される性的マイノリティの中でも、特に性別違和を抱えるトランスジェンダーのニーズと、高齢社会をはじめとした介護の現場で必要とされる異性介助という要求が、内容的には異なるものの実際に必要とされる設備は同じであることから、一つの図記号としてまとめました。「カームダウン・クールダウン」は、公共空間では国内では成田空港で試行されている例があるのみで海外にも事例はなく、関連団体のご協力を得ながら手探りで策定しました。検討する際は、おそらく国内で考えられる限りの当事者の方々のご意見を伺い、最終的な合意形成に至った経緯があります。また、トイレ設備関係のいくつかの図記号は、前年度からの引き継ぎ検討事項である機能分散化の考え方に沿ったトイレ環境の改善に役立つものであり、「おむつ交換台」は2017年のJIS Z8210改定で変更された「ベビーケアルーム(図4参照)」の機能を補完する意味で策定されました。このように、今までは街中にあふれたバラバラの図記号を統一することを主眼としてきた活動が、未知のニーズを先取りする活動に変わってきたことは、図記号作成の大きなターニングポイントであると考えられます。

そのために、回答者の知見を問う従来の自由記述による理解度試験の評価が期待できず、正答を含む4項目から一つを選ぶ四者択一方式で正答率を評価する方法をとりました。このことは、今後の新しい評価方法を示唆すると共に、過去のデータと比較した評価を行うことができなくなった点が課題点として残されました。

「男女共用お手洗」のピクトグラムの検討経緯

「男女共用お手洗」のピクトグラムを検討する中では、意見交換会、作業部会、説明会、ヒアリング、試験等を重ね最終形を決定しました。ここでは、その流れをご紹介します。

キックオフで、オリパラに向けて必要な一連の施設に対応するため、新規の検討項目にいれることになった。

図記号の表示例、使用例

男女共用お手洗を設置される際には、以下の表示例、使用例をご参照ください。

「男女共用お手洗を利用する人々と整備の方法」

まずトイレを利用する人は多様であることを理解しましょう。男女別トイレでも共用トイレでもどちらでもいい人、男女別でないとダメな人、共用でないとダメな人がいます。トイレ整備の基本はストレスなく利用できるトイレづくりのために、広さ、設備、便房をどのように整備するかです。多くの利用者が整備されたトイレや便房を自由に選択できることが必要です。

その中で共用トイレを必要とする人は次のように捉えられます。属性では高齢者や障害者の中で異性介助あるいは異性同伴を伴う人、乳幼児連れのさまざまな人、トランスジェンダーで性別不問のトイレを利用したい人、などです。このような人の場合共用トイレがあることで利用時のストレスが大幅に減少するとされています。同伴者ありの場合では同伴者の性別によって状況が変わる場合もありますし、発達障害者のように大きなトイレで沢山の人が同時に利用するシーンを見てストレスを感じてしまう場合もあります。後者の場合では、個室型のトイレが利用に適しているといえるでしょう。
しかしながら整備をする上での一番の問題は、これらの人々がどの程度いるのかが明確にわからないことです。そのため男女別トイレを整備した上で、個室型の共用トイレをどの程度整備すればよいかその判断が難しいのです。

また、トイレ整備は施設用途や規模によっても異なります。飲食店やコンビニなど小さな規模の施設ではすべて個室型共用トイレという場合もあるでしょう。 トイレ面積を十分に確保できない場合は、男女共用お手洗いを多く設けることで男女別で整備するトイレ設置数を少なくすることも考えられます(参考図)。 一般的に考えると、男女別トイレゾーンと共用トイレゾーンを計画し、共用トイレゾーンに車いす使用者用便房、オストメイト設備付き便房、乳幼児用便房、一般的な共用便房等を適宜分散して設けます(図1、図2)。基本は機能に応じた便房整備ですが、用途や規模、便房数により広さや付置する設備を選択します。

共用トイレの適正な利用を促進するためには、共用トイレに整備した設備を分かりやすく示すピクトグラムを表示します。一番シンプルな表示は、便房内にどのような設備があっても男女共用ピクトのみを掲示する方法です。共用トイレですから基本的には誰もが利用できることになります。

さらに、共用トイレの利用しやすさには便房配置がとても重要です。男女別トイレに接して設けられる場合、共用トイレが独立して設けられる場合など様々ですが、これがベストという配置はなく、 施設用途や各フロアの使い方に合った最適な配置を検討しましょう。 テナントビルやオフィスビルなどでは複数の階のトイレゾーンの一フロアに集中して共用トイレ(ゾーン)を設けることも考えられます。
時代は画一的な男女別のトイレからその人にとって必要な設備が自由に選べる多様なトイレ時代に確実に変化しつつあります。

図1 機能分散の考え方で男女共用トイレが整備された例1
図2 機能分散の考え方で男女共用トイレが整備された例2
参考図 既存の女性用、男性用トイレを男女共用トイレに改造した例

国内、海外の事例紹介

国内:

 

成田空港第1ターミナルビル

2020東京オリパラの開催に伴い、2017年2月に政府が決定した「ユニバーサルデザイン2020行動計画」において、成田空港はTokyo2020アクセシビリティ・ガイドライン等を踏まえて、世界トップレベルのUD水準を目指すことが示されました。それを受けて成田空港は、2017年5月に障害者、有識者、空港関係者で構成する「成田空港ユニバーサルデザイン委員会」を設立し、ハード・ソフト両面から世界トップレベルのUDを実現するため、当事者参加における多様な視点で議論を行いました。その議論の一つがトイレの機能分散、異性介助への対応でした。知的・発達障害の方と付添者が異性介助をするためには男女共用トイレが必要ですが、当事者参加で視察を行ったところ、成田空港では一部の多機能トイレが男女別となっているため、使いづらいことがわかりました。また議論の中で、トランスジェンダーの方が性別で分けられたトイレに行くことに強くストレスを感じていること、そしてその大きな要因の一つが偏見や好奇の目で見られるなど周囲の視線にあることが挙げられました。そこで成田空港は「異性介助」と「性別を問わない」利用を想定した『オールジェンダートイレ』を第1ターミナルに試行的に整備しました。 一般的に公共機関のトイレは左右に男女それぞれが分かれて設置されていますが、偏見や好奇の目といった周囲の視線が性別分けされた配置と動線にあることから、周囲も利用者も違和感や視線を感じにくい中央にオールジェンダートイレを配置しました。介助者の利用時に、知的・発達障害のある人が不意に外に出てしまうことを防ぐため、扉側に大便器、奥側にベンチ、待機者の視線を遮るためのカーテンがベンチを取り囲むように設置されています。防犯・安全上の観点から、待機者が座って待てる椅子は固定式のベンチとし、カーテンを閉めた際に扉からベンチが見えるように隙間が設けられています。

出典:アイ・デザイン 児山啓一
出典:アイ・デザイン 児山啓一
出典:アイ・デザイン 児山啓一
出典:アイ・デザイン 児山啓一
出典:アイ・デザイン 児山啓一
出典:アイ・デザイン 児山啓一
出典:TOTO「成田国際空港 第1ターミナルビル 1F到着ロビー」
 

国立競技場

「世界最高のユニバーサルデザイン」を基本理念として新たに建設された国立競技場には、14箇所(1階に8箇所、2階に2箇所、4階に4箇所)男女共用トイレ(付添トイレ)が設置されています。男女共用トイレには、従来の多機能トイレに設置されているカーテンレールとは異なる配置でカーテンレールが設置されています。それは、新国立競技場UDワークショップにおいて「付添者がトイレ利用できない」という切実な声が挙がったためです。知的障害や発達障害のある子どもを持つ保護者の中には、自身のトイレ利用のために子どもを待たせておくことができない、もしくは待たせている間に子どもが逃げ出してしまったり迷子になってしまうなどの困りごとがあります。保護者の中には子どもとの外出時にはトイレに行かないモードになると言ってトイレを我慢し、膀胱炎になる方も多くいます。また、同伴でトイレに入れたとしても自身のトイレ利用の姿を子どもには見せたくない、たとえ親子や親しい間柄であってもプライバシーは守りたいとの切なる思いもあります。そこで、付添者がトイレを利用する際のプライバシーに配慮するため、待機者の視線を遮ることを目的としてカーテンが設置されました。また、カーテンは、付添者が便器に座った位置からでも扉の開閉が分かる位置にあり、開閉スイッチはカーテンの外側に設置されているので、付添者のトイレ利用中に待機者が不意に出てしまうことを防ぐ仕組みとなっています。そしてさらには、待機者が『待てる仕組み』として、数や棒を数えて待機できる「アイキャッチ」と呼ばれるサインと、待つという動作が落ち着いてできるように「折畳み椅子」が設置されています。国立競技場では他の施設内整備と整合性を図ることから、名称を『男女共用トイレ』としています。

出典:JSC「新国立競技場整備におけるユニバーサルデザインワークショップについて」
出典:橋口亜希子個人事務所
出典:橋口亜希子個人事務所
 

都立競技場

複数の多様な共用トイレを並べた例(有明アリーナ)
複数の多様な共用トイレを並べた例(有明アリーナ)
出典:髙橋儀平
同伴者のためのベンチやカーテンを設けた共用トイレ(大井ホッケー場)
同伴者のためのベンチやカーテンを設けた共用トイレ
(大井ホッケー場) 出典:髙橋儀平
 

TOTO宮島おもてなしトイレ

宮島に誰もが使いやすい清潔なトイレ空間を創出し、世界中から訪れる多くの方々に安心して観光・滞在していただきたいという思いから、「世界遺産・宮島に“快適なおもてなしトイレ”を創出し、“日本のきれいなトイレ文化”を世界へ」をコンセプトに、廿日市市とTOTO株式会社が官民協働で整備したトイレです。車椅子優先、ファミリートイレ、キッズトイレなど機能分散されたレイアウトの中に、性別の異なる高齢者や知的・発達障害者への介助、性的マイノリティーの方などへ配慮した男女共用個室トイレが「だれでもトイレ」として設置されています。曲線的な空間となっていて利用者の動線が分散されていることから、偏見や好奇の目といった周囲の視線を感じることなく利用することができます。また、大きなピクトグラムにより視認性が高く、より機能分散がわかりやすい空間となっています。

出典:TOTO株式会社
出典:TOTO株式会社
出典:TOTO株式会社
出典:橋口亜希子個人事務所
 

LIXILオルタナティブ・トイレ

LIXILの新社屋(東京都江東区大島)に完成した「オルタナティブ・トイレ」は、自分にあった個室を選択できる新発想のトイレです。トランスジェンダーの方がトイレに困っているという声が多く寄せられ、特にオフィスのトイレが課題になっていましたが、一方で、男女共用トイレに対して否定的な意見も見られました。そこで、施設側が利用方法を限定するのではなく色々なトイレの選択肢を用意して、使う人に選んでもらおうという発想が生まれ、それを具体化したのが「オルタナティブ・トイレ」です。オルタナティブ・トイレは、トイレの選択肢として、男女共用3室(うち多機能トイレ1室)、女性用2室、男性用2室、男性用小便器2室を設置しています。まっすぐ進むと左右に男女共用トイレがあり、突き当り右が女性ゾーン、左が男性ゾーンとなっていて、トイレ選択が目立たない、スムーズな動線が確保されています。また、オフィスのトイレ利用時によくある社員同士の雑談など性別を問わず交流を図る場所として、オルタナティブ・トイレ手前はソファを置いたレストスペースとなっています。

出典:LIXIL
出典:LIXIL
出典:LIXIL
出典:LIXIL
出典:LIXIL
 

お茶の水女子大 記念館内

出典:原ミナ汰
出典:原ミナ汰

海外:

 

ロンドンデザインミュージアム

全便房が共用ゾーンの個室内部

全便房が共用ゾーンの個室内部(ロンドンデザインミュージアム)
出典:髙橋儀平
 

Centre for Gender Studies, University of Karlstad, Sweden

カールスタード大学(スウエーデン)ジェンダー研究センター

出典:原ミナ汰
 

ニューヨーク大学

国によって大きな違いがあります。(男女別トイレがなく)男女共用の個室トイレが以前から基本となっている国(例:スウェーデン)もあれば、男女別トイレから男女共用トイレを基本としたトイレが増えつつある国・地域(例:アメリカ、台湾:ただし、国内でも地域や州や施設による)もあります。

オールジェンダートイレが、誰もが使える形で、特別の表示なく設置されている。

メッセージ

髙橋儀平氏(東洋大学名誉教授)

男女共用トイレのメリットは様々です。このHPで強調されているように障害のある人との同伴利用、高齢者との同伴利用、乳幼児連れ利用、トランスジェンダーの方々には極めて重要な整備となりますが、施設用途別にみると、劇場やスポーツ施設、大規模集会施設で共用トイレの効果が発揮されるシーンが少なくありません。こうした施設で良く目にする光景は一般の男女別トイレで発生するトイレ待ちの行列です。劇場などでは圧倒的に女性トイレの待ち列が長くなるのですが、計算上便房数を算出して整備されたトイレでも、幕間などの短い時間帯にはどうしても混雑してしまいます。そうした際に利用者の状況に合わせて男女別トイレの便房(特に個室便房)を柔軟に変更できる設計も行われているのですが、予め一定数を個室型男女共用トイレにしておけば、変更が容易となりますし、或いは変更しないまま運用することも可能です。この場合の共用トイレゾーンの個室内設備ですが、障害者等の同伴利用に供する共用トイレ以外では、出来る限り設備を少なくして便房数を確保することがポイントです。個室内の設備は便器と手洗い器のみとすることでもいいでしょう。 こうした整備により一般トイレが不足して障害者用トイレが利用されてしてしまう「不適正」利用を少なくすことができるかもしれません。あとトイレ整備全般に言えることですが、公共的空間のトイレの外部にベンチが少し設けられていると「外で待つ」ときにとても便利ですね。 男女共用トイレを増やしていくためにはこうした運用方法を考慮することも効果的です。誰もが困らずに、また差別や偏見をなくすためには自然に共用トイレを利用する仕組みづくりが不可欠ですが、共用トイレの利用を幅広く捉えて整備していきたいものです。

秋山哲男氏(中央大学研究開発機構)

私が小学校に通っているころ、学校のトイレは男女共用でした。高度成長を経て今では男女別々が当たり前の時代になって来ました。そして最近の男女共用トイレと聞くと、再び昔に戻ったのかと思います。しかし、最近のトイレは昔の男女共用トイレとは意味も形も異なる新しい形のトイレです。人類の進歩と発展の結果として男性トイレ、女性トイレだけでは対応できない人々(トランスジェンダー、知的障害児・発達障害児とその親など)の対応をどうしたら良いか、人々が悩み考え進化の過程で生まれたトイレなのです。

多くの人が街を歩きいろいろな場所に迷わずに行くことを支援するツールとして図記号はその役割を果たしています。
東京メトロの大手町駅など地下の複雑な通路を経て他の地下鉄に乗り換える、この時程図記号のありがたみが身に沁みます。もし案内の図記号がなければ私には乗り換えることが不可能になります。
反対にロンドンのヒースロー空港の第5ターミナルはサインがほとんどありません。それは、5階のカーブサイドの道路から空港のチェックインカウンターがみえるからです。
わが国のサインは見えるところも見えないところも同じようにサインが整備されているのが気になります。

市川宏伸氏、三澤一登氏、内山登紀夫氏(一般社団法人日本発達障害ネットワーク)

普段通りに、何事もないように振舞うのが良いと思います。

公園や列車,コンビニ以外には、まだ男女共用(障害者用トイレを含む)が少ないため、当事者や保護者は、初めて行く場所については、予め設置箇所を確認する必要があります。このようなトイレは、現在は使用がためらわれるような場面もあるため、日常的に使いやすいものとして普及が進むことが望まれます。並行して、発達障害児者が他者の存在に敏感な場合もあることから、男性トイレも個室中心にしていくのが良いと思います。

佐々木桃子氏、永田直子氏(社会福祉法人東京都手をつなぐ育成会)

男女共用トイレは、数は多くはありません。必要な人が利用できるよう、他のトイレが利用できる人は、利用しないで欲しいと思います。共用トイレを利用している人に対しては、偏見ではなく、そのトイレが必要な人と認識していただけると嬉しく思います。

存在の意味を知っていただき、利用者に対しては共用トイレが必要であるということをご理解いただきたいです。社会生活を送るうえで、トランスジェンダーも、障害者も、高齢者も、それぞれ、いろいろな困り感があることへの気付きのチャンスになればと願います。その場では、当たり前に、普通にしていていただけるとありがたいです。男女共用トイレでなければ使用できない人達のためのものですから、他のトイレを利用できる方は使用しないでいただきたいです。それは多目的トイレも同様です。

東京2020を契機にようやく動き始めましたので、数少ない現在のものをモデルとし、少しずつ整備が広がってほしいです。新築のものに男女共用トイレを勧めるような手段があるといいですね。まずは知っていただくことが大切と思います。

小幡恭弘氏(公益社団法人全国精神保健福祉会連合会)

何か特別にすることがあるのでしょうか。先の芸能人のような下世話なことでも思考しない限り特にないと思われます。

排泄ということに男も女も関係はない、みんなできれいに気持ちよく使用できることで、男女差によって分断することによる嫌悪感なども軽減するのではないかと思う。労働安全衛生法なども見直しが図られるようになるとより現実味が増す。

橋口亜希子氏(橋口亜希子個人事務所)

まずはじめに、トイレ機能の集約から分散へと様々なニーズに応じて選択できるようになった日本のトイレが、共生社会の環境づくりへ大きな一歩を踏み出す歴史的瞬間に立ち会えたことに、そして私たちの切実な声を、真摯に誠実に聴いて設置を実現してくださっている関係者のみなさまに、深く、深く、感謝いたします。

「お母さ〜ん!紙はどうやったらいいの?どうやって流せばいいの?」息子が小さかった頃、まるで銭湯の壁を通り越して聞こえてくる声のように、こんな叫び声が男性トイレから響いてきました。男性トイレに入ることができない私は、困っている息子になんとか教えてあげたいと思う一方で、親として情けないですが恥ずかしさもありどうしていいかわからず、見ず知らずの男性にすがる思いで対応をお願いしたこともあります。またある時は、慣れないトイレに不安を感じる息子が一人ではトイレに行けない、でもお腹が痛いと急を要していたため、男性用個室トイレのドアを全開にして、応援をせがむ息子に「がんばれ!がんばれ!」と声をかけていたら、周囲にいる人が失笑したり、冷たい視線で私たち親子を見ていました。応援をせがむ息子の愛おしさと、そんな息子を理解してくれない社会の冷たい視線に涙が溢れ、それでも母親として負けないと泣きながら応援しつづけたこともありました。

当たり前にトイレが利用できる人たちにとっては、たかがトイレと思われるかもしれません。でもトイレ利用が当たり前ではない人たちにとって、そしてかつての私たち親子のように一緒に入れないことで困っている人たちにとって、この男女共用お手洗いができたことは大きな希望です。そしてその希望はトイレ利用だけでなく、行けるトイレが増えることは行ける場所が増え、行ける場所が増えると見える世界も、体験も、可能性も拡がっていく。

10年後、20年後の未来に、日本のトイレがどんなトイレになっているのか、私は期待でいっぱいです。ユニバーサルデザイン社会の実現に向かって、分離と統合を繰り返し、進化し続けていくトイレが、人々の物理的な世界だけでなく、その人の内面的な世界と可能性が拡がっていく機会の一つになってほしいなと、切に願います。

原ミナ汰氏(LGBT法連合会)

通常のトイレ利用の一環として利用してもいい、と感じたすべての方に、オールジェンダートイレを利用いただくことで、需要を高め実質数を増やし、スタンダードにしていければと思います。

空けておく、という選択肢より、使って個数を増やすほうが、皆が入りやすいトイレに近づくと思います。

今後の配置としては、性別分けトイレをそれぞれ最低1個は設置することにして、残りを男女共用の「ただのトイレ」とする方向が未来の姿かもしれません。

トイレは、一律に「男女」二分すればこと足りるわけではなく、利用者の状況に応じていくつかのタイプが必要、との認識が広がってほしいですね。

岩本健良氏(オフィストイレのオールジェンダー利用に関する研究会)

特に男女共用お手洗に限ったことはなく、どのような公共トイレでも、利用マナーとして、(不審な行動をしていなければ)他の利用者をじろじろ見ない、他の利用者が待たされないよう目的外の利用や長居を避ける、もしも手助けを求める人がいたらできる範囲で協力する、場合によっては管理者に連絡する、など、だれもが安心してトイレを利用できるよう、配慮をもって利用しましょう。どの種類のトイレを利用しているかは個人のプライバシーです(男性トイレの大/小も同様)。障害を持っている、トランスジェンダーであるなどの理由で、他人に知られたくない人もいます。それを知られることで、学校や職場に通いづらくなったり、陰口やいじめの被害を受けたりすることもあります。プライバシーを尊重し、他の人に話すことは固く慎みましょう。

設備(ハード面)として、多機能トイレや男女共用トイレを学校や職場含め全ての施設に。特に、災害時には避難所ともなる学校や公共施設には、多機能トイレ・男女共用トイレをフロアごとに設置することを目指す。教育(ソフト面)として、トイレ利用はすべての人にとって人権であり社会参加の土台であること、トイレ利用で困っている人の存在と必要な対応、案内用図記号についてなど、学校や職場等で教育・啓発を進めること。「男女共用お手洗」などの標準案内用図記号は、国際的にも普及することを期待しています。これらを通じて、いつでもだれでも、安心してトイレを利用でき、生き生きと社会で暮らせるようになることを願っています。

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