バリアフリー推進事業

2020年度 研究・活動部門 成果報告

研究助成名

四肢まひ者の公共交通機関利用を支援するための調査研究

研究者名

岩手大学 清水 将

キーワード

四肢まひ 車いす ロフストランドクラッチ バス

研究内容

(はじめに)
 わが国では、障がいの有無にかかわらず、国民のだれもが相互に人格と個性を尊重し支え合う共生社会を目指した施策が推進され(障害者基本法)、障がい者本人の自己選択と自己決定の下に、社会のあらゆる活動への参加を一層促す施策(障害者基本計画)が進められるようになった。WHO(1968)においても、「リハビリテーションとは能力低下の場合に機能的能力が可能な限り最高の水準に達するように個人を訓練あるいは再訓練するため、医学的・社会的・職業的手段を併せ、かつ調整して用いること」とあるように、リハビリテーションは、単なる機能訓練ではなく、ADLのみならず、QOLの獲得を図ることも重要な視点である。したがって、リハビリテーションの最終的な目標は、社会における自立活動を援助することととらえることができる。 リハビリテーションでは、近年のとらえ方の違いはあるが、器質的障がい、機能的障がい、社会的障がいに対してそれぞれ自立することができるように訓練がめざされてきた。現在では、機能障がい、活動の制限、参加の制約としてとらえられるようになっている。しかし、医療機関の訓練によって機能障がいや活動の制限を克服しても、社会的制約が取り払わなければ、社会参加は叶わない。社会への参加が果たされるためには、環境的な援助も重要と考えられる。例えば、近年では障がい者への社会への対応のためにバリアフリー法やハートビル法などの法令が整備され、車いす対応などが環境的に整備されるようになっている。トイレなどにおいても、単に車いす対応ということではなく、多機能トイレが設置されるようになり、多様な障がい種に対して配慮がなされるようになっている。 しかしながら障がいは、個人によって異なり、その不自由さを全て環境で対応することはできない。可能な限りユニバーサルデザイン化されることは必要であるが、健常者を中心とした現行のデザインには、機能的に洗練された理由があり、その全てに変更を加える必要はない。例えば、トイレの全てが多機能トイレとして設計される必要はないが、最低でも1つは確保される必要はあり、程度の問題なのである。生活に必須の環境では、このような観点から可能な限りの対応がなされることが、障がい者の自立生活を支えることになる。このような環境的な整備ができないときには、人の援助によってこれらの障壁が克服されればよいのである。できないことがあって困っている場合には、そのことを援助する人がいれば、多くのことは克服できるのであって、障がい者の社会参加を考える際には、障がい者当人が制約を感じずに積極的に参加できることが重要である。障がい者当人の積極的な姿勢の育成と環境的・人為的な支援をしていくことが具体的な課題といえよう。 今日では重度の障がいによって移動に制限があっても、社会で活躍する人が増えており、ICT機器の活用によりその機能的・社会的なハンディキャップは克服されてきた。しかし、家から外出しないことは、社会へのコミットとは異なるサルコペニアやロコモティブシンドロームのリスクを向上させていることになる。家から外出しないことは、精神的・認知的な障がいの発生も危惧されることになり、フレイルの回避にはならない。活動の減少による社会的交流の機会の減少によって生じる孤独は、筋量や認知機能の低下を招き、生活習慣病の機序となることにもなりかねない。運動量の低下は、基礎代謝にも影響し、低栄養による体重低下をまねく。疲れやすく元気がなくなることにもつながり、QOLの獲得の観点からも容易な移動の獲得は、重要な課題である。本稿では、社会参加へ向けて困難が大きい四肢まひ者に焦点をあて、積極的な自立行動に対する環境的な援助の方法を検討することによって、障がい者の社会参加を促進するための知見を得ることを目的とする。

(四肢まひ者の社会参加援助の課題)

人間の生活において上肢や手指の障がいは、極度の困難をきたす。脚や腕の大きな動作に対して、手や指の細かな動作は、社会適応の能力に重要な働きをなしている。下肢に比べれば、上肢の障がいがADL、QOLの獲得により多くの差し障りが生じるのはいうまでもない。上肢の障がいの代表的なものには、脳疾患による片まひがあるが、この場合でも反対の上肢、手や手指には障がいがないことが多い。また下半身不随という言葉はあるが、上半身不随という言葉があまり用いられないように、両上肢、手・手指に障がいがあることによる日常生活の困難は、健常者の想像を絶する。四肢まひ者においては、行動のみならず作業も含めた多くのADLに対する困難が、自立活動を妨げるのである。このような四肢まひ者のリハビリテーションの目標は、最終的には自立を目指したとしても、まずは移動・行動レベルの基本動作獲得であり、生活行動、作業レベルの獲得には、さらに多くの課題を要する。例えば、車いすや杖を使った下肢の運動能力の獲得がなされたとしても、料金の支払いや乗車時のつかまり、降車時のボタン操作等、社会生活において自立活動をおこなうためには、より多くの課題をクリアしなければならない。自立した生活や社会参加を目指すのは遠い目標であるので、近い目標により獲得した機能は、すぐに使ってみることが重要であり、全てができるようになるまで制限する必要はない。日常的な動作が上手ではないからといって、排除されるような社会では、well-beingの実現はできないのである。 近年パラリンピック等の啓発により、障がい者の社会参加の進展や理解がなされるようになってきた。一方で、パラリンピックは、ストークマンデビル病院における戦争で負傷した者に対するリハビリテーションのための大会である。これらのスポーツへの参加者は、下肢の障がい者のための大会が起源の1つになっているように、多くが部分的に高度な能力が残存する障がい者である。パラリンピックは、身体障害者のほか、知的障害者、視覚障害者が主な対象とされる競技大会であり、障害のあるアスリートのための大会としての側面が強い。換言すれば、アスリートとして活躍できないレベルの障がい者にとっては開かれた大会とはいいきれない。全ての障がい者に能力的、社会的に開かれているわけではないのである。車いすアスリートの人々の活躍は、車いす使用者のイメージを形成するひとつの契機にもなっている。ところが、車いす使用者の状態は様々であって、上肢の健常な者ばかりではないのである。 一般における障がい者に対する認知は、知人に障がい者がいるような場合を除けば、決して適切な理解が進んでいるとはいえない。そのイメージは、自分の経験した範囲を越えることがないのは当然であろう。その点では、健常者にとって形成されるイメージは、自らのけがなどの経験であり、部分的・時限的な負傷である。車いすや杖を使う人のイメージは、足が不自由な人が使う、つまり上肢は健常であるというものであり、四肢まひという病状のイメージも健常者にとっては想像ができないに違いない。例えば、健常である人が車いすに乗り、下肢の不自由を疑似体験できたとしても、四肢まひ者の状況を再現することは不可能に近い。したがって、四肢まひ者の社会参加に対する制約は、四肢まひ者の病状の理解が少ないことが1つの要因と考えられる。四肢まひ者の車いす利用を考えたとき、車いすの動線に対する物理的な対応いわゆるバリアフリーは進んでいる。しかし、車いす使用者が、下肢の障がいを抱えているというイメージが先行しているため、四肢まひ者の車いす使用者にとっては、その設計が十分とはいえない場合が多い。車いすを使用している者のすべてが動線内で自在に移動ができるとは限らない。例えば、設計される多くのスロープは、昇り下りいずれの観点においても、急勾配かつ自走できないものが多い。車いすに対するデザインは、手が不自由な者でも自走できるデザインがなされる必要性があり、手すりやスロープなどは、あればいいわけではなく、体格や機能に応じたものでなければ利用はできないのである。手すりは、当たり前であるが高さがあわなければ手すりの機能は果たせず、つかめない場合にもその役割を果たすことはできない。形状も含めて可能な限りの障がいに対応できるデザインを考えていかなければならないのである。

(補装具使用者のイメージ調査)

サンプル数の少ないデータではあるが、補装具使用者のイメージについて一般成人47名を対象として複数回答可で調査した。片側(1本)の杖利用者は、基本的に自立歩行が可能な場合に使用するが、片足(脚)が不自由なときに使用すると考えている回答は100%であった。両側(2本)の杖利用者は、片側もしくは両側の足(脚)が不自由な際に利用するが、片足(脚)が93.6%、両足(脚)が55.3%の回答であり、両足(脚)が不自由な際に使用するというイメージは約50%に過ぎない。車いす利用者は、片足(脚)が72.3%、両足(脚)が100%であり、一般の約半数は、両杖を使用している場合に両足(脚)に不自由があるとは考えず、両足(脚)が不自由である場合には、車いすを利用すると考えている。憶測の域をでないが、けがをしている人の松葉杖のイメージが強く、片側足部であれば両杖、片側脚部(膝関節等)であれば車いすを利用するイメージと考えられる。身体の障がい、まひの分類についても、選択肢となる言葉からのイメージと考えられるが、四肢まひが80%、片まひが48.9%、対まひが13.3%、単まひが13.3%の認知であった。これらは漢字からの意味理解と考えられ、必ずしも障がいの状況を正しく理解しているかどうかはわからないが、どのようなまひや身体の障がいがあるのかを教育することも重要と考えられる。また、車いす利用者の上肢の障がいについては、不自由がある部位について、片手(腕)が10.6%、両手(腕)が17%の回答であり、一般の多くが、車いす利用者はいずれかの手(腕)が使えると考えていること明らかになった。自走式の車いすを四肢まひ者のような両上肢の障がいを持つ者が使用するという理解は、ほとんどないのである。したがって、四肢まひ者の公共交通機関利用の際には、これら多くの認識のズレと立ち向かうことになる。車いす利用している者であれば、上肢が使えるはずという思い込みがなされる。ロフストランド杖使用時であれば、車いす利用者よりもできる機能が多いという思い込みがなされるが、上肢の機能障がいがある場合には、片まひや対まひよりもはるかに多くの困難を抱え、できないことがあるということは理解されていないのである。

(公共交通機関利用における具体的課題)

上肢に不自由がある場合は、支払いにおいても様々な問題が発生する。公共交通機関では、障害者手帳保持者に対しては、割引が設定されている。しかし、この制度を利用するためには、障害者手帳を提示する必要があり、四肢まひ者は、動作として提示することが困難な場合がある。手帳提示後には、現金やプリペイドカードにて支払いがなされるが、手帳の提示と支払いという2回の動作となり、健常者よりも手続きが煩雑になる。また、手帳の提示に関してもプライバシー保護の観点では、他の乗客への個人情報が見えないように配慮することも必要であろう。また、乗務員による1種と2種の違いの判別は、一瞬の手帳の提示だけでは困難であり、介助者が同乗する場合でも、申告がないと1種の介助者が割り引かれないこともある。このような現状から考えれば、手帳のカバーを含めて文字の色を分けるなどの判別しやすいデザインの採用が必要となろう。視覚障害者に対する白杖のように、四肢まひ者や両上肢の障がい者に対する理解が進むデザインが採用される必要がある。 近年大都市ではICカードによる非接触型の支払いシステムの採用が進んでいる。このようなシステムにおいては、障がい者の利用に対して事前のICカード設定し、あらかじめ子ども料金と同様に半額料金計算がなされるものを利用することが考えられる。1種の介助者の場合には、申し出により、割引料金で引き落としするか、1種の介助者用のカードを交付することも考えられる。手帳の提示にかかわる困難と支払いの手順を減少させ、プライバシーの保護の観点からもICカードによる支払いの導入は有効であり、バス業者の方針に任せるのではなく、必要なインフラ投資と考えて行政による補助を期待したい。また、障害者手帳のICカード化も一つの方策であり、手帳をカード化し、そのFelicaに必要な情報を搭載し、各種サービスを集約することも重要であり、発展的にはスマートフォンなどと連携し、電子的に運用できることがSociety5.0のスマート社会で求められることになろう。

(ロフストランド杖使用時のバス乗降の課題)

ロフストランド杖(クラッチ)使用者は、上肢に何らかの不自由があり、加えて歩行や立位保持に支障がある場合に使用することが多い。手関節の固定や支持・把握が困難だが、前腕や上肢が使える場合に、姿勢や歩行安定のために使用する。いわば、障がいがあっても残存する機能を最大限に利用し、主体的、積極的に社会参加を試みる際に使用する補装具ととらえることもできる。特に両杖で利用しているときには、四肢に障がいがあることが推測される。一般的に認知される杖としては、松葉杖がある。しかしながら、松葉杖は、片足のけがなどに使われるが、健側の足で立位保持ができる場合に使用されることが多く、両杖であっても、健常な部位を利用すれば、移動は可能であることが多い。松葉杖の使用は、立位保持が可能であることを意味し、自ら歩いて移動するための杖である。視点を変えれば、両下肢が全く接地や荷重できない、もしくは杖を把持できなければ、使用することはできない。松葉杖は、上半身・体幹が健常であって、腋下での保持によって体勢を維持できることが前提となる補装具なのである。ロフストランド杖の使用本数に関しては、1本(片杖)であれば、健常な下肢が存在し、機能が残存する場合であり、両杖であれば、いずれの片足でも支持、立位保持が困難な場合に使用する場合が多い。したがって、杖の使用本数によって機能の障がいの程度を把握する目安と考えることもできる。 上肢の機能障がいがある際にも対応可能なロフストランド杖であるが、一方で装着によって上肢の機能が制限されるため、使い勝手が万能なわけではない。特に2本のロフストランド杖使用時には、両手の機能はほとんど使えなくなり、手を機能させるためには、ロフストランド杖を一旦取り外す必要がある。ロフストランド杖は、構造上カフのついた部分があり、重心が高く、杖自体の安定性は、著しく欠けるため、簡単に立て掛けておけない。また、2本を片手で扱うことも困難である。立位保持の困難者が使用するという前提に立てば、手の機能を確保するための着脱時の困難が十分には理解されていないことがある。四肢まひ者がロフストランド杖を使用する際には、立位の姿勢保持に加えて不安定な杖を保持しながら、手を使うことになる。つまり、杖が床に倒れた際には、その拾い上げが困難をともない、その一方で手を使った操作を行うことになる。具体的には、バス乗降時の整理券取得やバスカード処理がステップ乗降と同時に求められ、困難の度合いが高まることになる。特に低床式のバスではない場合には、ステップの途中に整理券やバスカードの読み取り機があり、ステップ途中にロフストランド杖の脱着と整理券の受け取り、バスカードの挿入をおこなわなければならない。それらの処理をロフストランド杖を保持しながらおこなわなくてはならず、整理券やバスカードが落下した際の対応だけでなく、ステップから転落の恐れもあり、これらの危険を避けるための手だてがなされる必要がある。一般的なバスの車高、つまりステップまでの高さは、低床ではない通常のバスの場合30cmから40cm程度ある。通常の住宅における階段高(けあげ)は、15cmから20cm程度であり、30cm以上のステップ高は、健常者であっても高齢者などは、困難を極める構造であり、バス乗降時の車高は、日常生活への対応へ向けて重要な課題である。また、降車合図ボタンも手の不自由に備えて、凸型、大型のものが準備される必要がある。

(バス乗降に係る社会的課題の解決へ向けた方策について)

社会参加の制約は、本人の障がいによる機能低下よりも、むしろ社会の受け入れによるところが大きい。通常のリハビリテーションで設定されるADL、QOLの範囲では、社会における自立した生活を意識できていないからである。限られた回復期の入院期間では、退院後の家の中での生活が当面の目標となり、その先の社会参加までは目標設定がなされることは少ない。家の中での生活が最終的なゴールではないので、ゴール設定に課題があると考えられ、短期・中期・長期の目標設定がソーシャルワーカーを中心にチーム医療として作成される必要がある。短期的目標では自宅の中の生活、中期的目標としては社会参加、長期的目標として、完全な回復を設定することが望まれるのである。回復期リハビリテーションでは、重度の障がい者の社会参加は、外来において設定、対応されることになるが、自らが外来に通院できなければ、社会参加や自立した社会復帰も遠のくことになるので、退院時の目標には、中期的な公共交通機関のバスや鉄道の乗降を設定し、その訓練をおこなうことが重要と考えられた。これらの課題解決のためには、リハビリテーションにおける外出に係る料金の支払いや障害者手帳の提示等、四肢まひ者本人の困難への対応はもちろん必要であるが、支援する側となる交通機関であるバス、鉄道への啓発とOJTによる現場教育が重要である。これら公共交通機関への周知と研修プログラムの開発も今後の課題である。 バスのステップについては、障がい者本人の機能向上と物理的な環境からの両面のアプローチが必要となる。バスの構造においては、近年低床式のバスの製造が義務づけられ、運行されるようになった。ワンステップバスよりもノーステップバスの方が容易であるのはいうまでもない。しかし、積雪寒冷地の場合には、車高を下げることには限界があるため、リーニングや補助ステップやスロープ等、都市部とは異なるタイプのバス開発が求められることになる。バスのステップ高は、車種によって大きく異なる。バリアフリー法の施行以降は、ツーステップバスは製造されていない。ところが、各都道府県によって、低床バスの導入の程度は大きな差があり、経営体力に余裕のない地方のバス会社においては低床の新車バスの導入には未だ多くの困難があることが明らかになっている。地方においては、従来のツーステップバスだけでなく、観光バスを一般乗り合いに改造したものも使用されている。観光バスを一般乗り合いに利用した場合は、乗降に際して約40cmのステップ高となるため、25cm以上の段差に対する訓練の必要が生じる。また、安定した立位保持が獲得されていない場合には、混雑時の乗降への対応が必要となるが、その状況を再現する訓練方法の開発も課題となる。また、これまでの優先席は、横向きのベンチシートが多かったが、体幹機能が低下している場合には、発車や停止時の加速を支えきれない場合がある。両杖使用者がリュックを背負った際には、シートに浅く掛けることになり、安定性に欠けるため、前向きでクリアランスのある優先席の設置も重要である。見守りが必要な四肢まひ者の場合には、前乗りにより運転席に近い位置に着席し、そのまま降車する動線を提案することも重要であり、対応できる料金支払いシステムが導入されることも検討が必要である。 リハビリテーションでは、できそうだという感覚を大切にすることが求められる。障がいがあってもできることはたくさんある。何ができるのか、何ができないのかは回復状況によって変化し、他者からの評価だけでなく、自己評価も重要である。自己評価とは自己有能感でもある。現状ではできなくても、環境が整えられれば、自分でできることもたくさんあり、できることを知るための支援の充実が望まれる。手伝ってもらえばできることもあるので、障がい者当人だけでなく、支援者が「できない」を問いなおすことによって、障がい者に自ら行動しようとする意志を持たせ、その実現を支援することが必要なのである。また、支援者は、環境が整えばできることをアピールする活動の必要性も示唆された。すなわち、四肢まひ者のバス乗降に際するステップ高の解消に向けた低床バスや補助ステップ開発の提言、混雑時のバス降車に係る優先席からの動線の確保、揺れに対応する体幹保持装具や車内設備、スペースの開発などが具体的な課題である。

(総括)

障がいがあってもできることはあり、できるのにやれていない人をどのように社会で支援するかということが本研究の枠組みであった。四肢まひ者の回復期のリハビリテーションでは、入院時に公共交通機関を利用できない状況においてバスや電車に乗る訓練まではしないことが多い。しかしながら、家の外に出る、すなわち社会にかかわるということは、QOLの観点から考えれば、非常に重要なことである。一般的には、福祉サービスを利用し、自分から動こうとしないことも多いが、それは、サービスや介助がなければ何もしないことに陥ることを意味する。日常の生活行動は、特定の動作ではない。バスに乗降することは、目的ではなく、移動の手段である。例えば、買い物をするためにバスに乗るとすれば、荷物の持ち運びが生じる。両杖の場合にはリュックを使用しても、相当の負荷が生じるので、そのような状況を想定した訓練が必要であり、同時にそれらの状況を受け入れる人的な支援と環境的な支援がなされるように交通機関への啓発や教育研修プログラムが開発されることが重要と考えられた。  以上の研究成果をまとめ、四肢まひ者のバス乗降介助のためのリーフレットを作成し、県内のバス運営会社に送付した。そのねらいは、四肢まひ者の社会参加を支える身近な交通機関としてのバス利用を拡大するためであり、障がい者の移動を容易にするところにある。今後は、リーフレットの完成度を高め、電子データによって公開する方法を模索し、広域に情報発信することを課題として考えたい。