バリアフリー推進事業

2020年度 一般部門 成果報告

研究助成名

利用者視点による交通バリアフリー接遇の簡易評価尺度の開発

研究者名

日本女子大学人間社会学部社会福祉学科 大部 令絵

キーワード

バリアフリー接遇、尺度開発、公共交通

研究内容

(研究目的)
 特別なニーズを有する公共交通利用者(以下、利用者)の視点によるバリアフリー接遇の評価尺度を開発することを目的とした。利用者が回答しやすく、公共交通事業者が導入しやすい簡易な評価ツールを提供することにより、交通バリアフリー接遇の質向上に寄与することを目指した。

(研究手順)

研究1(質問項目に関して利用者に意見を求める面接調査)と、研究2(試作版質問紙を用いた質問紙調査)からなる混合研究を実施した。

なお、COVID-19拡大に伴い外出・接触等を避けるため、研究1の面接は対象者の希望に応じ、対面面接は1名、22名はWEB会議システム(Zoom、Skype等)および電話を利用した。また、研究2は郵送に加えてWEBアンケートを実施した。

(研究成果)

住まいの
地域

東北:1名、関東:18名
東海:1名、近畿:1名
中国・四国:1名
九州:1名

研究1:公共交通におけるバリアフリー接遇向上に対する利用者のニーズ調査
利用者に該当する成人23名から協力を得た。対象者の属性をTableに示した。
1)対象者の属性について
COVID-19拡大前(2020年3月以前)において、都市圏居住者は電車、周辺地域居住者はタクシー・自家用車を利用する傾向がみられた。また、自治体から補助に応じた交通手段を利用する傾向がみられた。

2)対象者の生活上の移動について
(1)COVID-19が利用者の生活上の移動に与えた影響:回答者の生活上、外出機会の減少および移動手段の変更がみられた。他方、従来から在宅勤務、または主な移動手段が公共交通でない回答者には生活に変化がない場合もあった。 (2)公共交通利用時における問題点と工夫の関連性:利用者は生活において公共交通を利用する際、サービス利用手続き上の問題や、既存の情報提供サービスとニーズのミスマッチの状態を認識していた。

また、公共交通バリアフリー接遇を必要としない乗客のマナー・理解不足も認識していた。すなわち、公共交通バリアフリー接遇の評価には利用者と従業員の認識・行動に加え、バリアフリー接遇を必要としない乗客の認識・行動も影響を与えていた。加えて、利用者は公共交通のハード面と関連し、乗車困難や設備の不足も認識していた。これらの問題に対し、利用者は公共交通利用時に事前の情報収集を行い、公共交通を選択的に利用するとともに、自らの乗客としての態度に留意するなどの工夫をしていた。以上の事柄を図式とした、公共交通バリアフリー接遇の説明モデルが作成された。
3)質問項目案の検討
質問案は(1)対象者の属性、(2)対象者の生活における移動の実態、(3)公共交通バリアフリー接遇評価尺度の原案により構成された。面接結果をふまえた修正の概要は以下の通りである。
(1)対象者の属性:性別、年齢、職業、バリアフリー接遇の利用者種別、生活上の移動手段に関する項目を作成した。修正点として、@職業の選択肢を移動の有無による分類に変更し、A上肢・下肢障害の選択肢を分けた。また、B補装具等(白杖、車いす等)に関する質問を追加した。また、C移動手段にバイク、路面電車を加えた。
(2)対象者の生活における移動の実態:各項目が示す状態をより具体的に記した。また、授乳室、ベビーカーに関する項目を追加した。
(3)公共交通バリアフリー接遇評価尺度:元となったサービス評価尺度servqual(22項目、5因子構造)のうち、有形性(4項目)に対象者全員が回答困難を示した。また、質問内容が類似している、生活上使用する公共交通に適さない、またはバリアフリー接遇として過剰要求と判断された項目を修正・削除し、最終的には13項目を試作版尺度の項目として採用した。

研究2:利用者視点による交通バリアフリー接遇評価尺度の妥当性・信頼性の検証
研究1により作成した試作版質問項目を用いて、郵送およびWEBアンケートにより調査を行った。利用者に該当する当事者団体等複数に対し、調査協力を呼び掛け、返信用封筒を添えた質問紙またはアンケートURLを送付した。結果として、83名(平均年齢47.15歳)から回答を得た。
1)対象者の属性:回答者の障害・疾患等としては上肢障害 (18名、24.7%)、下肢障害 (26名、35.6%)、難病・慢性疾患(26名、35.6%)が多く、介助者など外出時の同行者の状況、車いす (22名、27.5%)、杖 (11名、13.8%)などをはじめとする補装具については、対象者の障害・疾患等に対応した結果であった
2)対象者の生活における移動の実態19項目のうち、回答が多かったのは、「エレベーターを他の乗客が多く乗っているため、利用することができない・待たされる」(28名、35.0%)、「発着所(駅、停留所、タクシー乗り場等)の構造が分かりづらい(改札・トイレ等の位置、乗車待ちの列など)」(26名、32.5%)、「多機能トイレの利用ルール・マナーが一部の乗客に守られず、多機能トイレを利用することができない」(25名、31.3%)、であった。

3)公共交通バリアフリー接遇評価尺度試作版:尺度への回答に欠損値のない75名の回答から因子数決定の指標を算出し、2因子構造と判断した。探索的因子分析(最小二乗法・プロマックス回転)から、尺度は「利用者に信頼される接遇の行動」「利用者への配慮」の2因子構造と解釈された。α係数(因子1=.944、因子2=.790)、ω係数(因子1=.949、因子2=.819)から、本尺度は十分な構造的妥当性および内部一貫性を有することが示された。

 

Table 研究1の対象者の属性

Table 研究1の対象者の属性