聴覚障害者の移動時の快適性に関する当事者研究 〜機内エンターテインメントへの字幕付与に着目して〜
東京大学先端科学技術研究センター 牧野 麻奈絵
バリアフリー字幕、情報バリアフリー、機内エンターテインメント、聴覚障害、アクセシビリティ、飛行経験
(研究目的) (研究手順) アンケート調査、グループフォーカスインタビュー、個別インタビュー、文献調査 (研究成果) 本研究では、国内外のIFE字幕付与の調査、聴覚障害者の機内快適性の測定、ステークスホルダーへのインタビューを通じ、IFEへの字幕付与推進に必要な対策の一端を明らかにした。 また、予想通り、IFEに関する快適性は、聴覚障害者の得点は聴者よりも有意に低く、聴覚障害者は聴者よりもIFEにアクセスできない、また、アクセスできないがゆえに聴者よりもIFEを楽しめない実態があることがわかった。 次に、IFEの利害関係者へのインタビューを通じて、日米の、IFE字幕付与を取り巻く状況を調査した。アメリカでは、2016年の時点でアクセスボードにより、IFEに関する歴史的な合意が形成されたものの、トランプ大統領が連邦行政機関の長に対してコスト低減を命じる行政命令「大統領令13771」により、法的拘束力を持つ段階にはいまだに至っていないことが、関係者へのメールインタビューによって明らかになった。 国内の聴覚障害当事者団体へのインタビューからは、聴覚障害と言っても聞こえの状態やニーズは多様であり、字幕付与という視覚的情報保障だけでなく、聴覚活用によるIFEの情報アクセシビリティ向上も検討しなくてはならないことが示唆された。 航空会社、空港会社へのインタビューからは、日米の法的枠組みの違いが大きな影響を及ぼしていること、コンテンツ制作・配給会社がボトルネックであること等が示唆された。また、航空業界全体のサプライチェーンにおけるIFEの位置づけに関する将来展望を見据えたうえで、技術の進歩に伴うIFEの個別最適化と多言語化というトレンドを踏まえたアクションの重要性が示唆された。この技術革新による個別最適化は、聴覚障害者の聞こえとニーズへの対応を考えたときにも重要になると考えられる。 加えて本研究では副産物として、聴覚障害のある研究者や研究協力者が、アンケートやインタビューを行う際のセットアップも開発した。このことは、研究への聴覚障碍者参画や、研究コミュニティのダイバーシティ&インクルージョン向上に資する成果と言える。 今後は、国内外の動向をさらに調べるとともに、1.法的拘束力を強くする方向性、2.IFEコンテンツ制作・配給過程にアプローチする方向性、3.技術革新によるIFE端末の個別最適化と多言語化の方向性という、3つの方向性に沿って、IFE情報アクセシビリティ向上に向けた検討を進める必要がある。
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