バリアフリー推進事業

2020年度 一般部門 成果報告

研究助成名

過疎地域における高齢者のモビリティ施策としてのタクシー補助制度のありかた

研究者名

徳島大学社会産業理工学研究部 山中 英生

キーワード

高齢者モビリティ、タクシー補助、過疎地域

研究内容

(研究目的)
 過疎地域のモビリティ確保においては、デマンド型乗合タクシーやコミュニティバスといった乗り合い型移動支援システムの導入が進められているが、過疎地域の分散居住と人口減少に加えて、ドア・ツー・ドアのサービスを提供できないことが利用者減少をもたらし、運営効率を確保できない状況が多く見られる。一方、高齢者等に対してタクシー料金の一部を補助するタクシー補助は、自治体負担や導入上の障壁の少なさから過疎地域の多くの自治体で導入されている。ただし、運賃負担や対象者・回数・範囲の限定など、利用者の視点での課題や、特定補助金の非効率性、対象者増大による財政負荷増大の懸念といった制度上の課題も指摘されている。過疎・分散居住・単身世帯化が進行する中、今後、このような個別型移動支援サービスは、自動運転、シェアライドなどのイノベーションを巻きこみながらも、ラストワンマイル移動の支援方向として主要な施策となることが想定される。 こうした問題意識をもとに、本研究は以下の点を目的とする。 1)過疎地域に実施されているタクシー補助制度の実態とその課題を明らかにする。2)過疎地域において個別輸送を担う主体となっている中小タクシー事業者の現状と持続可能性を明らかにする。3)利用者のモビリティおよび生活の質の視点から、タクシー補助制度がもたらす効果と課題、公的支援の必要性を明らかにする。4)以上の分析および、国・自治体での動向の把握と有識者へのヒアリングをもとに、過疎地域における高齢者のラストワンマイルのモビリティ確保を担うためのタクシー活用策としての今後のありかたを分析する。

(研究手順)

以下の4つの視点から調査・分析を行った。 1 過疎地域自治体での高齢者タクシー補助制度の実態と課題 過疎地域自治体への調査をもとに、高齢者移動支援のためのタクシー補助の導入状況、課題、規制緩和等の改善策に対する意向を明らかにした。 2 過疎地域における中小タクシー事業者の実態と課題 過疎地域の中小タクシー事業者への調査をもとに、タクシー事業の経営状況、タクシー補助制度、規制緩和等への期待と要望、さらには経営改善策の取り組み状況、課題を明らかにした。特にコロナ禍における現状についても調査している。 3 過疎地域におけるモビリティの実態と生活の質分析 地域特性・自治体のサービス状況の異なる自治体に居住する高齢者へのWEB調査により、モビリティ、生活の質の実態と評価、相乗り、定額運賃などのモビリティ改善策に対する利用意向を明らかにした。 4 持続可能な個別輸送サービスのあり方に関する検討 自治体での取り組み事例の調査をもとに有識者へのヒアリング調査を行い、福祉施策として実施されているタクシー補助制度の改善策、公共交通施策との融合可能性、過疎地域の中小タクシー事業の持続に向けた施策の考え方などの視点から、論点を整理し、上述の視点からタクシー補助制度の改善案を整理する。

(研究成果)

1 過疎地域自治体での高齢者等移動支援施策の実態と課題  過疎地域自治体への調査をもとに、高齢者移動支援のためのタクシー補助の導入状況、課題、規制緩和等の改善策に対する意向を明らかにした。具体的にはタクシー補助制度は利用制限こそあるものの、利用対象者は使いたいときにすぐに使うことができ。デマンド型乗合タクシー等のサービスとも差別でき、交通困窮者や免許返納者への支援として効果的で、住民当たりの負担も大きな負担となっていないことが明らかになった。改善策としては、利用回数増加の要望が多く見られるが、対象者拡大には公費負担増を懸念している一方で、利用の偏在などの課題もあり、個人の需要に応じた柔軟な対応が今後の持続可能性に繋がると考える。そのため予算と利用者の需要のバランスを考え、適切な公的負担のレベルに対象者の選定と適切なサービス付与(利用回数上限)を設計する方法の開発が必要と言える。 2 過疎地域における中小タクシー事業者の実態と課題  過疎地域の中小タクシー事業者への調査をもとに、タクシー事業の経営状況、タクシー補助制度、規制緩和等への期待と要望、さらには経営改善策の取り組み状況、課題を明らかにした。特にコロナ禍における現状についても確認した。その結果、想定どおり、コロナ禍において過疎地域の中小タクシー事業者は経営上困難な状況が明らかになった。1年以上状況が改善されないと半数の事業者の経営継続が難しくなると想定している。  高齢者や身障者に対するタクシー補助は事業者の経営上も相応の貢献があるとしており、しかも、コロナ禍でも半数の事業者で補助制度利用者は減少していないとしており、タクシー利用を避けられない需要を有する利用者の存在がうかがわれた。タクシー補助制度の利用回数の拡大、補助対象者の拡大を希望する事業者が多く、経営改善施策においても、高齢者のモビリティ支援策に対する期待が大きく、行政支援の要望では。タクシー補助制度拡充への要望がコロナ対策、安全施策に次いで高くなっている。 3 過疎地域におけるモビリティの実態と生活の質分析  地域特性・自治体のサービス状況の異なる自治体に居住する高齢者へのWEB調査により、モビリティ、生活の質の実態と評価、相乗り、定額運賃、配車サービスなどのモビリティ改善策に対する利用意向を明らかにした。具体的には、タクシー補助対象者はタクシーの利用頻度が他に比べ高く、多様な目的にタクシーを利用しており、料金が高額との指摘も低くなる。ただし、外出頻度が増加は見られなかった。外出行動の不満度に着目すると、病院・診療、知人訪問などの比較的頻度が低い目的で不満度が低くなり、生活の質(QOL)でも、移動、活動開始、出会い、新しい趣味、友人交流、社会との関わりといった、一般に高齢者のQOLが低い項目で比較的に質が高くなっていた。さらに、タクシー補助サービスの改善方向としては、回数上限の拡大、割引拡大などの要望が高く、対象者を絞ってサービス向上を図ることで、タクシー補助制度を“最後の公共交通”とする方向性が示唆されている。定額型サービスは1回あたりの金額を300円まで下げると相当に購入意向が向上し、予約型相乗り制度は、安価であれば利用する、予約なしなら利用するとした人が全体の40%存在しており、ニーズに応じて利用者の負担の柔軟な設定をすることで、配車システムを高度化して、相乗り型タクシーサービスとタクシー補助を併用する可能性が示唆されている。 4.持続可能な個別輸送サービスのあり方に関する検討結果  国での施策が法律改正の中で、「高齢者の移動手段の確保に関する検討会」(平成28年度開始、平成29年度中間とりまとめ)では、多様な手段を総動員してモビリティ確保を図る施策の重要性が指摘され、さらに令和2年に改正の地域公共交通の活性化及び再生に関する法律(交通再生法)では、地方公共団体による「地域公共交通計画」(マスタープラン)の作成が努力義務化され、従来の公共交通サービスに加え、地域の多様な輸送資源(自家用有償旅客運送、福祉輸送、スクールバス等)も計画に位置付けることで、バス・タクシー等の公共交通機関をフル活用して、地域の移動ニーズにきめ細やかに対応することが示されている。 これらの制度を受けて、相乗りタクシー、自家用有償運送、許可を要しない輸送などへの取り組みが見られ、公共交通会議で相乗り輸送に加えて、タクシー補助制度を扱っている駒ヶ根市の事例や、タクシー配車の高度化による個別移動サービスの例も見らえる。  有識者へのヒアリングからは、タクシーの公共交通としての位置づけが明確にされ、交通再生法でのっ公共交通計画によって、多様な手段を統合したモビリティ確保がうたわれているが、タクシー事業者の意識や協働の取り組みは遅れている。タクシー輸送(一般乗用)は依然、規制上の障壁が多く残されており、相乗り輸送との適切な役割分担を図ることが重要と言える。その点で、タクシー補助制度は対象者拡大ではなく、交通困難者を適正に抽出して、そうした人のモビリティ確保のための補助を充実することが重要と言える。 過疎地域のタクシー事業の持続可能性を高めるには、乗客輸送だけでなく、買い物代行、病院輸送、見守り、配食サービスなど多様な輸送ニーズにこたえることで、車両利用効率を高める方向が重要と言える。このためには、こうした輸送ニーズを一元して受付、配車を行う“輸送・運送サービス配車センター”のビジネス成立を図る方向があり得る。さらに、新たな受益負担の制度として交通保険といった共助型の費用負担の方向も重要と考えられる。

 

図1 研究の手順

図1 研究の手順