バリアフリー推進事業

2020年度 一般部門 成果報告

研究助成名

聴覚失認者にとっての緊急災害時のチャイムの意義

研究者名

兵庫県立大学 自然・環境科学研究所 三谷 雅純

キーワード

高次脳機能障害、聴覚失認、情報アクセス、災害情報、注意喚起のためのチャイム

研究内容

(研究目的)
 聴覚失認者への情報保障として、災害時、注意喚起のための警戒チャイムと言語音の理解は重要である。この研究では聴覚失認者の災害放送理解の程度がチャイムの有無によってどう変わるかを把握し、対応策を検討する。

(研究手順)

兵庫県南部を中心に活動している比較的大きな高次脳機能障害当事者団体に協力を仰ぎ、実験用に作成した〈文章・肉声・画像〉の視聴覚実験を対面形式で行う。実験では数十名程度の被験者に集まってもらう。得られた回答を聴覚失認の程度によって分け、チャイムの有無によって、失認の程度による差が認められるかどうかを調べる。

(研究成果)

  1. (1)設問ごと/障害の程度ごとのまとめ
    言語音課題の場合、チャイムの有無によって被験者の回答行動が変化を、障害の程度(非障害者、軽度障害者、中・重度障害者)ごとにチャイムの有無で調べた。すると、非障害者ではひじょうに強い有意差が表れた。しかし、軽度障害者を見ると、チャイムのある設問も無い設問も同じであった。一方、中・重度障害者で行うと、全体に回答の正答率は落ちるが、チャイムの有無によって有意差が認められた。視覚情報(トランプの柄と絵としてのアルファベット、暗算)課題の場合はいずれも有意差はなかった。(図1、図2)。

    (2)被験者ごと/障害の程度ごとのまとめ
    被験者を基準にした言語音課題では、障害の程度ごとのいずれでも有意差はなかった。視覚情報(トランプの柄と絵としてのアルファベット、暗算)課題の場合でも有意差はなかった。これらを視覚化するために、箱ひげ図を使って図示する(図3、図4)。

    (3)聴覚失認者にとってチャイムがある場合、ない場合に比べて有意な差が、2点、明らかになった。いずれも言語音課題に回答を求めた場合で、ひとつ目は設問ごとにまとめた場合の非障害者(図1)、ふたつ目が設問ごとにまとめた場合の中・重度障害者(図1)の分布である。これら以外には、いずれも明らかな有意差は得られなかった。
    非障害者は視聴覚放送を聞いたとき、少なくとも主観的には「分からなくて困った経験がない」被験者である。被験者を単位とした場合、チャイムが無ければ、およそ軽度障害者や中・重度障害者の25 %しか理解していない可能性がある。ところが、チャイムが添付されると、理解している被験者は軽度障害者の50 %以上、中・重度障害者の25 %以上に上る(図3)。これは視聴覚実験を視覚刺激(トランプの柄と絵としてのアルファベット)と暗算で行った場合も同様であった(図4)。
    災害放送で視覚刺激による情報提供を行う場合には音響によるチャイムが添えられており、状況はこの実験に近いと予想できる。言語音でも視覚刺激と暗算でも、チャイムを添えることによって理解できる聴覚失認者の比率は上がることが実証できた。

 

図1 チャイムの有無によって言語音課題に回答してもらった結果を設問ごとにまとめた図。左端:非障害者でチャイムの有無(左/右)、中:軽度障害者でチャイムの有無(左/右)、右端:中・重度障害者でチャイムの有無(左/右)を示す。

図1 チャイムの有無によって言語音課題に回答してもらった結果を設問ごとにまとめた図。左端:非障害者でチャイムの有無(左/右)、中:軽度障害者でチャイムの有無(左/右)、右端:中・重度障害者でチャイムの有無(左/右)を示す。

図2 チャイムの有無によって視覚刺激(トランプの柄と絵としてのアルファベット)と暗算の課題に回答してもらった結果を設問ごとにまとめた図。以下は巣1と同様。

図2 チャイムの有無によって視覚刺激(トランプの柄と絵としてのアルファベット)と暗算の課題に回答してもらった結果を設問ごとにまとめた図。以下は巣1と同様。

図3 チャイムの有無によって言語音課題に回答してもらった結果を被験者を単位としてまとめた図。以下は巣1と同様。

図3 チャイムの有無によって言語音課題に回答してもらった結果を被験者を単位としてまとめた図。以下は巣1と同様。

図4 チャイムの有無によって視覚刺激(トランプの柄と絵としてのアルファベット)と暗算の課題に回答してもらった結果を被験者を単位としてまとめた図。以下は巣1と同様。

図4 チャイムの有無によって視覚刺激(トランプの柄と絵としてのアルファベット)と暗算の課題に回答してもらった結果を被験者を単位としてまとめた図。以下は巣1と同様。

 

 

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