バリアフリー推進事業

2020年度 若手研究者部門 成果報告

研究助成名

岩手県陸前高田市におけるラストマイル輸送に関する研究

研究者名

立命館大学衣笠総合研究機構 野村 実

キーワード

地域公共交通、ラストマイル輸送、生活実態の把握、陸前高田市広田町

研究内容

(研究目的)
本研究の目的は、人口減少と高齢化の進む岩手県陸前高田市における高齢者等交通弱者の直面する課題を把握した上で、近隣他地域の取り組みなどから解決方策を導出し、行政主体に政策提言を行うことである。特に、市内中心部から離れており、かつBRT駅等がない広田町における「ラストマイル輸送」に焦点を当てている。

(研究手順)

 2019年度までに実施した予備調査(実践者の交流、先進地域の視察)と、地方自治体との意見交換をもとに、(1)2020年11月に広田町における「外出状況に関するアンケート調査」を実施し、(2)2021年3月に調査結果の分析をふまえた現地報告会を行い、自家用車や家族の送迎にかわる新たな移動手段の創出や、具体的な方策に関する議論を行った。

(研究成果)

本研究「岩手県陸前高田市におけるラストマイル輸送に関する研究」では、高齢者等交通弱者の外出状況に関わる実態を把握し、特に移動手段を持たない住民に対する課題解決方策の導出を試みた。具体的な研究のフローについては、以下の図1の通り、2019年度までの予備調査をふまえて、2020年度はアンケート調査、地域でのワークショップを実施し、これらの成果を住民向けのパンフレットとしてまとめ、地域の移動・外出に関わる課題の共有と議論の基盤形成を図ってきた。

2020年11月に実施した広田町の「外出状況に関するアンケート調査」では、@外出にあたってどのような不便さを感じているのか、A将来的にどのような移動手段を求めているのか、という2点を明らかにすることを目的として、町内全世帯を対象に調査票を配布した。この調査で得られた成果としては、高齢になるほど「自由に使える車(自由車)」を持たない傾向にあるが、特に後期高齢者においては自由車を持たない場合、外出頻度が低い状況にあることがわかった。
また後期高齢者の交通手段の分担率でも、買い物や病院など、いずれの外出目的でも「自分で運転」が4割以上を占めており、次に「家族の送迎」も3割前後という結果となっている。一方、後期高齢者の半数以上が「自分の自動車の運転に不安がある」とも回答しており、一定の不安を抱えながらやむを得ず自家用車での外出を強いられていることが懸念される。
アンケートの調査成果については、2021年3月に広田町で現地報告会(写真1)を実施した。新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、当初想定していた小地域でのワークショップはできなかったものの、住民との意見交換を行う貴重な機会となった。またこの報告会では、広田町などの市内数地域で実施されるタクシー助成事業が徐々に広田町の住民に浸透しつつあり、町内の移動であれば3,000円/月の助成範囲内で短距離の移動需要に対応できる可能性を確認した。加えて、大型の医療・商業施設は町内にはないため、隣接する小友町のBRT駅までの「ラストマイルモビリティ」(図1)が確保されれば、市内中心部までのアクセスが確保されうることについても、意見交換の中で発現したアイデアの一つとして挙げられる。 以上のことをふまえて、2021年5月には調査成果をまとめた住民向けパンフレットを広田町内全世帯に配布し、地域の移動に関わる諸課題に関する議論の基盤形成を図っている。またこれに先立ち、同年4月には広田町コミュニティ推進協議会にて、アンケート調査の結果に対してディスカッションが始まっている。
 陸前高田市内の他地域(横田町など)では、2020年度から住民による互助輸送の取り組みも始まっており、こうした点では行政等のバックアップも受けながら、先のBRT小友駅までの多様な「ラストマイルモビリティ」の確保に関する議論を深めていく余地があるものと考えられる。先の広田町でのアンケートでは、横田町の互助輸送のような新たな送迎サービスの利用意向が9割以上を占めており、自家用車の代替手段や公共交通の補完的な取り組みとして互助輸送等の導入も有用だと考えられる。

ただしこうした新たな取り組みを行おうとする場合、利害関係者との調整が必須となるため、今回の調査成果を基礎とした共同研究者による議会等での提案や、住民との継続的な議論につなげていきたい。

 

図1 本研究のフローチャート

図1 本研究のフローチャート

写真1 現地報告会の様子(広田町)

写真1 現地報告会の様子(広田町)

図2 ラストマイルモビリティの提案

図2 ラストマイルモビリティの提案