通院送迎バスの共同運行による患者の通院負担軽減に向けた取組み
公益財団法人公害地域再生センター 谷内 久美子
通院、ラストワンマイル、モビリティ、高齢者
(活動の背景と目的) (コロナ禍における通院の実態) 1)活動地域における病院のおかれた状況 2019年度の活動においては、大阪市西淀川区において、淀川勤労者厚生協会(淀協)、千船病院の2団体の協力を得て、調査を行った。両団体においては、それぞれが通院送迎バスの運行を行っている。両病院とも新型コロナ感染症の受け入れ病院とはなっていないが、大阪府からの民間病院への新型コロナウイルス病床確保要請を受けて、受け入れの検討を行っている(2021年2月現在)。また、両病院ともに救急患者の受入れをしており、周囲で発熱患者の救急受入れを断る医療機関が増えたため、4月、5月は例年の3割増の救急車を受け入れている。 淀川勤労者厚生協会では病院全体の収入が10%減少している。減少の原因は、小児科の診察の激減、慢性疾患のある患者の通院頻度の減少などである。オンライン診療も行っているが、高齢者には抵抗があり、利用されていないとのことである。 いずれの病院においても新型コロナウイルス感染症対策としては入院患者への面会の制限、発熱や咳などの呼吸器症状のある患者は一般外来とは別の場所で問診と受付を行うなどの対策をしている。病院送迎バスに関しては、換気、消毒、検温などを行いながら、通常通り運行している。 2)コロナ禍における西淀川区の外出の状況 @)コロナ禍電話調査の概要 コロナ禍における西淀川区区民の状況を把握するために、「西淀川・淀川健康友の会」では、75歳以上の会員に対して電話で調査を行った。そこで得られたデータをもとに、西淀川区内における通院を含む移動の状況を把握した。なお、「西淀川・淀川健康友の会」は、西淀川病院などを運営する淀川勤労者厚生協会が事務局となって運営している任意組織である。 1回目の電話調査は、新型コロナウイルス感染症流行の第1波の時期であり、初めての新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が発出されている期間と重なっている(大阪における緊急事態宣言発出期間は4月7日〜5月20日)。2回目の電話調査は、新型コロナウイルス感染症流行の第3波の時期であり、2回目の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が発出されている期間と重なっている(大阪における緊急事態宣言発出期間は1月14日〜2月28日予定)。 電話調査はボランティアによって行われた。調査方法はボランティアが75歳以上の友の会会員の自宅に電話をかけ、「コロナ禍でいかがお過ごしでしょうか?」「困っていることはありませんか」と聞き、そこから自由な発話で得られた内容をメモに残している。支援が必要な場合は訪問して様子をうかがったり、病院や社会支援サービスにつなげるなどの対応をしている。 A)第1波における電話調査の結果 生活全般に関しては、電話調査で回答が得られた1,369件のうち55%にあたる758件は「元気である」、「問題ない」と回答している。問題ない理由として、家族の支援が得られている(80件)、運動している(214件)といった回答が得られた。その一方で、感情面や身体面での健康が損なわれているとの回答も多く、「コロナ鬱」「ストレス」「不安」といった回答が45件、「足腰が弱る」「認知症がすすみそう」といった回答が125件あった。 外出の状況に関しては、「家にひきこもっている」との回答は156件であり、必要最低限の外出にとどめていた様子がうかがえる。通院に関する回答は172件あったが、そのうち5件は電話での受診や自宅に往診してもらっており、9件は受診回数を減らしたり、受診を控えているとの回答であった。デイサービス・介護予防教室に関しては46件回答があり、そのうち7件はデイサービス・介護予防教室を休んでいるとの内容であった。 B)第3波における電話調査の結果 生活全般に関しては、電話調査で回答が得られた316件のうち61%にあたる194件は「元気である」、「問題ない」と回答している。1回目の調査と同様に、問題ない理由として、家族の支援が得られている(19件)、運動している(30件)といった回答が得られた。感情面や身体面での健康に関しては、「ストレス」「入院・入所中の家族に会えなくて寂しい」といった回答が12件、「足腰が弱る」「体調がよくない」といった回答が39件あった。 外出の状況に関しては、「家にひきこもっている」との回答は46件である。通院に関する回答は53件あったが、そのうち5件は自宅に往診してもらっていた。受診回数を減らしたり、受診を控えているといった回答はなかった。デイサービス・介護予防教室に関しては18件回答があり、そのうち1件はデイサービスを休んでいるとの内容であった。 C)電話調査のまとめ 2回目(第3波)の調査の時期の方が1回目(第1波)の調査に比べて新型コロナウイルス感染者、死者数は28倍、10倍と増加しているが、「家にひきこもっている」と回答している人の割合にあまり変化は見られなかった(11.4%→14.6%)。また、いずれの調査においても感情面の変化のある人が3〜4%、健康が損なわれている人が9〜12%)おり、人との交流や外出の自粛が健康に与えている影響が出ており、その影響は今後も続く可能性がある。 1回目の調査と2回目の調査で違いが出ているのは、通院やデイサービスに関するものである。1回目の調査では、感染の不安であるため受診・参加回数を減らす、控えているとの回答が16件あったが、2回目の調査では1件と減少していた。往診が必要な病院・診療所における発熱外来の整備、消毒や換気の徹底など、感染症対策がすすんだことにより、通院やデイサービスに対する不安が減り、第1波の時に比べて第3波では必要な外出ができるようになったと推測される。 3)ヒアリング調査 2)で把握したコロナ禍における通院の状況について、さらに詳しく調べるために西淀川区民に対してヒアリング調査を行った。ヒアリング調査の協力者は10名である。疾患を抱えている人についてより詳しく状況を把握するために、うち7名は西淀川公害患者と家族の会の会員とした。通院を含めた外出全般についてヒアリングを行った。 2)の電話調査では、新型コロナ感染症の第3波において通院頻度を減らしているとの回答はみられなかったが、ヒアリング調査で通院について詳しく聞いたところ、非高齢者、高齢者ともに通院頻度を減らしているとの回答が得られた。定期的な通院を必要としていない人においては、コロナ禍前であれば通院する状態であっても我慢しているとの回答だった。 定期的な通院を必要としているぜん息患者においても、薬だけをもらいにいったり、ネブライザーの吸入の回数の頻度を減らす等により通院を抑制している。また、ぜん息患者は新型コロナ感染症に罹患した場合の重症化リスクが高い上に、咳や発作で新型コロナ感染症と疑われる経験をしている人もいるため、通院を躊躇することにつながっている。今回の調査において、吸入の回数を減らしているぜんそく患者が「夕方にはしんどくなる」と回答している。ぜん息を含め慢性疾患は、適切な治療を継続することにより、症状を安定させ、病気の増悪を防ぐことになるため、通院頻度の減少は症状の悪化につながる可能性がある。また、ぜん息患者(家族を含む)の6人のうち、3人が病院の通院送迎バスを利用しているとのことであったが、感染症対策のために利用をできるだけ控えているとの回答があった。 通院以外に関しては、「以前は病院や買い物などで偶然に友人や知人に会うことができていたが、会えなくなった」「遠方の友人や家族と会えない」、「まちづくり活動ができていない」、「患者の会の活動として、会員の家に訪問してお話ができていたが、会うことができなくなり体調もわからない」など、人との交流が途絶えているという状況が把握できた。現在は、「寂しい」「物足りない」といった気持ちの変化がみられるが、健康の格差にはソーシャル・キャピタルの影響が大きいとの研究もあり1)、今後、人との交流の減少が健康に与える影響もあると考えられる。 (今後の通院バスのあり方に関する考察) 通院バスの共同運行方法を検討するにあたって、「@各病院の送迎バスの相互利用」、「A経営の共同化」「B路線の再編」「Cコミュニティバス化」の4段階を想定している。 淀川勤労者協会および千船病院のバスの共同運行を検討する際において、路線の再編を検討するにあたり下記のような内容を検討することとする。 淀川勤労者協会では4ルート、千船病院においては1ルートのバスが運行されているが、ルートに重複がある。「B路線の再編」を検討する際には、下記のような内容を検討している。西淀川区内の主要な駅、千船病院、西淀病院、のざと・姫島・千北診療所をつなぐ路線を基幹路線とし、この路線では定員29人のマイクロバスを利用することとする。この基幹路線は千船病院が運行している路線(平均8.3人/便)と淀協が運行しているC路線(平均3.6人)を統合したものである。この基幹路線では、地域内住宅などからは離れているため、現状の淀協が運行している路線のうち3路線(平均2.1〜2.6人)をフィーダー路線として残し、西淀病院・のざと診療所において基幹路線に乗り換えができるものとする。この路線の再編により、住宅の近くで送迎バスに乗れるというメリットを残しながら、路線を1つ減らすことができるため、運行経費を削減することができる。 (まとめ) 感染症流行時には、外出頻度が大きく減少し、通院も抑制され、通院バスの利用が減る傾向にある。通院頻度の抑制は、病院の経営状況の悪化につながっている。しかしながら、患者の健康、生命を維持するためには通院は必要不可欠な外出であり通院頻度の抑制は健康を損なっている可能性が高い。また、感染症の影響が治まった後、外出の自粛により移動能力が低下した人へのケアのためにも地域内での短距離移動を担う通院バス・コミュニティバス等の重要性は高まっていると考えられる。 (参考文献) 1) 相田 潤, 近藤 克則:「ソーシャル・キャピタルと健康格差」、医療と社会、24 巻 (2014) 1 号、 p. 57-74 注 ※ネブライザーによる吸入:患部に直接薬を到達させることができるため、呼吸器系疾患の治療において効果が高い。2020年3月に日本環境感染学会よりエアロゾル感染の発生可能性があると提言されたが、5月末に日本耳鼻咽喉学会より根拠がないとの提言があり、治療が再開されている。 |
表 1 コロナ禍における電話調査の概要
表 2 コロナ禍における第1回目の電話調査の結果
表 3 コロナ禍における第2回目の電話調査の結果
表 4 通院における主な変化
今後の通院バスのあり方に関する考察