バリアフリー推進事業

2019年度 研究・活動部門 成果報告

研究助成名

周囲の床面と視覚障害者誘導用ブロックの触覚的コントラストに関する研究―歩行訓練士の立場から―

研究者名

日本歩行訓練士会 会長 森一成

キーワード

視覚障害者、 視覚障害者誘導用ブロック、触覚的コントラスト、歩行訓練士

研究内容

(研究・活動の背景及び目的)
  2018年度,貴財団の助成により調査・研究を実施した結果,駅ホーム上や交差点における視覚障害者誘導用ブロック(以下,「ブロック」とする)の敷設実態と課題が明らかになった。中でも周囲の路面とブロックとの触覚的コントラストに問題があることは,駅ホーム上や交差点において非常に危険であるにも関わらず,その視点がガイドライン等にも盛り込まれていない。そこで,今回は,周囲の路面とブロックの触覚的コントラストに焦点を当て,その実態と課題を明らかにすること,視覚障害当事者(以下,「当事者」とする)の意見を反映させ,安全で安心できる触覚的コントラストについて検討することを目的とした。

(研究方法)

1触覚的コントラストに問題が有ると思われるブロックに関するアンケート調査
(1)歩行訓練士(以下,「訓練士」とする)対象
期間:第 1次調査2019年10月23日〜11月15日   第2次調査 12月9日〜12月27日
対象:日本歩行訓練士会に所属している歩行訓練士234名
調査方法:郵送及びメーリングリストによる調査依頼(回答方法はメール)
調査内容:以下の内容とともに写真を添付してメールにて回答
・触覚的コントラストが低いと思われる駅ホームか交差点を選択
・具体的な場所,触覚的コントラストが低いと思われる理由
・歩行訓練を実施した対象者について:年齢,性別,身体障害者手帳等の有無及び級,単独歩行歴
・白杖の種類,石突の種類,周囲の床面の材質,ブロックの材質,歩行訓練時の当事者の様子
(2)当事者対象
期間  2019年10月23日〜11月15日  
対象:神奈川,大阪,名古屋,神戸,浜松,高知,熊本在住の訓練士から当事者へのアンケート調査を実施。
<協力団体>日本視覚障害者団体連合,JRPS,HOTPOT,西日本RP,KVS,名古屋市総合リハビリテーションセンター,神戸アイライト協会,ウイズ蜆塚(浜松)
調査方法:メールによる調査依頼,一部聞き取り調査
調査内容:次の条件を満たしている場所について下記の質問に回答。
・手引きを受けずに単独で歩行している場所
・白杖を左右にすべらせて振りながら,点字ブロックを伝って歩行している場所
・白杖で伝いにくいと感じる場所(具体的に)使用していた白杖の種類,石突の種類,なぜ伝いにくいと感じたか,伝いやすくなるために改善すべき点,歩行訓練受講回数,単独歩行経験年数
・具体的に回答があった場所の写真を歩行訓練士が可能な範囲で撮影
2現地調査
(1)調査日:神戸市(12月26日),浜松市(12月28日)
(2)調査場所:神戸市布引,静岡県浜松市における触覚的コントラストに違いが有ると思われる交差点各2か所。
(3)調査協力者:神戸市9名,静岡県浜松市4名 計13名の視覚障害
(4)調査内容:当事者が,各地域同じ場所を2回ずつ歩行。約5メートル,線状ブロックの上に乗らずに白杖で伝い歩きをし,横切る線状ブロックを発見するという課題を実施。歩行中ビデオ撮影,歩行後に聞き取り調査を実施した。

(結果と考察)

  1. 1 訓練士対象の調査
    訓練士から寄せられた画像は,駅ホーム(16枚14か所)交差点(80枚50か所),合計96枚,64か所であった。
    触覚的コントラストが低いと思われる理由(図1と図6),周囲の路面の素材(図2と図7)を次に示した。
    なお,同じ画像で重複する項目もそれぞれをポイントとしている。路面については,素材も分析した。

    <駅ホームの結果>

     調査の結果,駅ホーム,交差点共に「周囲の路面」が触覚的コントラストを低くしている原因として最も多かった(図1と図6)。また,周囲の路面の素材については,駅ホームではタイルが,交差点はインターロッキングが触覚的コントラストを低くしている具体的な場面として最も多かった(図2と図7)。
    駅ホームにおいては,図5のように,内方線付きの新しいブロックと内方線なしの古いブロックが混在したケースがあり,勘違いを起こしえる非常に危険な敷設方法であると思われた。一貫性を持たせた補修が重要であろう。
    交差点では,図8から図11のように周囲の路面の素材がインターロッキングで,ブロックがJIS規格外である例が挙げられた。それに加え点状ブロックと線状ブロックが混在(図9),劣化と敷設方法の混乱(図10)の例もあり,より触覚的コントラストを低くしている可能性が推測された。さらに,図11では道路自体もインターロッキングであり,「ブロックを伝えずにルートを逸脱することもあった」という報告もあり,非常に危険な場面であると思われた。図12では,溝がブロックに隣接しており,周囲の路面の素材のみではなく敷設環境への配慮も重要な視点であると考えられた。
    <歩行訓練実施結果> 歩行訓練を実施した人数は16名。

    触覚的コントラストが低いと訓練士が判断した場所での歩行訓練結果を以下に示す。

    図18に示すように,周囲の路面の素材がインターロッキング,ブロックの素材がコンクリートの組み合わせが最も多く挙げられ,訓練中の当事者の様子としては,「何度も杖をふる」を筆頭に「ルートを逸脱する」,「引っかかる」と続いた。

    <当事者向けアンケート調査結果> 回答数は81名。

    伝いにくい場所の具体事例は119か所。そのうち交差点が27か所,駅ホームが19か所,駅構内が20か所,一般道路が27か所,そのほかが26か所であった。伝いにくい理由については,「周囲の路面とブロックの違いがはっきりしない」が32,「周囲の路面とブロックの高さの違いがはっきりしない」が33,その他が4であった。伝いにくい場所として挙がった15か所について,訓練士が現場を確認した。

    歩行訓練を受けた経験のある人が約6割,そのうちの7割以上が単独歩行経験5年以上の人であったにもかかわらず,今回の調査でブロックを伝いにくいと回答した場所が119か所にのぼった。
    今回の調査で,周囲の路面とブロックの触覚的コントラストに焦点を当てて聞いたが,回答ではブロックそのものの劣化や敷設方法に対する課題も多く挙げられており,ブロックに対する課題が複合的であることが分かった。
    当事者からの改善点としては,「周囲の路面を平らにする」及び「ブロックと周囲の路面との素材の差をつけること」を望む意見が多くみられた。このことからも敷設の際,ブロックへの配慮のみならず,周囲の路面にも配慮することが必要であることが分かる。しかし,どのような素材のブロック,また周囲の路面の素材が良いのかまでは明らかになっていない。また,今回の調査では白杖や石突の種類も質問項目に入れたが,伝いにくさとの関係は明らかにならなかった。

    <現地調査結果>
    プロフィール,普段の歩行方法,歩行所用時間を表2に示した。神戸市布引の交差点の写真を図28と図29,浜松市の交差点の写真を図30と図31に示した。図中オレンジの線のルートで歩行。周囲の素材,ブロックは4か所ともコンクリートであったが,図29と図31の周囲はインターロッキングブロックであった。神戸,浜松での各1回目の所要時間について,有意水準5%で片側検定のt検定を行ったところ,いずれも有意差はなかった。なお,横切るブロックが発見できずに通り過ぎた神戸D,浜松D,色などの視覚で見分けた神戸Iはデーターから省いた。

    5件法の結果を「わかりやすい」,「どちらでもない」,「わかりにくい」の3項目に集約し,カイ2乗検定を実施したところ(5%水準),横切るブロックについて,神戸1と神戸2で有意差がみられた。所要時間では差がなかったが,神戸1の分岐の方が神戸2よりもわかりやすいと当事者は感じていた。浜松においても4名全員が,浜松1のブロックは「とてもわかりやすい」と回答し,横切るブロックも3名が「とてもよくわかる」,1名が「どちらでもない」とし,「ややわかりにくい」「わかりにくい」と回答した者はいなかった(表3)。データーが少なく,統計での検証はできなかったが,当事者は,浜松2より浜松1の敷設の方がわかりやすいと感じていると思われた。
    普段ブロックに足を乗せずに歩行している者は,13名中3名であった(表2)。「普段の歩行方法と異なったためわかりにくかった」という意見があったこと,ローラーチップを使用していた2名とも横切るブロックを通過したこと等,通り過ぎた要因は様々考えられるが,神戸2,浜松1の交差点で分岐のブロックが発見できず,通り過ぎた者が存在しているという事実は見逃せない。現実場面でブロックを発見できないことは,交差点での危険な状況につながりかねない。

    聞き取り調査では,わかりにくい理由として「周囲の路面がガタガタしているとわかりにくい。どれがブロックか迷う」,「周辺がぼこぼこでなければ良い」「ブロックはしっかりしているが,タイルの段差は自分たちをだましている」,「周囲がタイル状なのでブロックとの境目が微妙」があがった。改善点として「ブロックの左右30cmは平らな路面にしてほしい」,「3枚1セットで」,「周囲がタイルみたいになっていたがそうでなければもっとわかりやすかったのでは」などの意見が聞かれた。ブロックが明確でも周囲の路面とのコントラストの重要性が示唆された。

    (まとめと今後の課題)

    本研究において,素材に関しては,周囲の路面の素材がインターロッキングブロック,ブロックがコンクリートの場合に触覚的コントラストが低くなる可能性が示唆されたが,より精査していく必要性がある。また,素材のみならず,周囲の環境,劣化,ブロックの規格などの複合的な課題も明らかになった。
    断言できることは,ブロック自体の規格もさることながら,同時にブロックの周囲の路面の状況や環境など広範囲にわたりブロックが活用できるかを検討することが重要であることがわかった。当事者にとって有効にブロックが活用でき安全な歩行につながるように,今後も歩行訓練士会として啓発を進めていきたい。

    (謝辞)

    当事者から119件,訓練士から96枚の画像が寄せられ,13名の当事者による現地調査の協力を得られた。協力いただいた方々に感謝の意を表したい。

 

触覚的コントラストが低い原因

図1 触覚的コントラストが低い原因

周囲の床面の素材

図2 周囲の床面の素材

左図3日豊線日向沓掛駅無人駅 JIS規格外アスファルト・ブロックの劣化 中図4大阪メトロ堺筋線本町駅周囲の路面の素材がざらざら。 左図5東武線新栃木駅内方線付きブロックと内方線無しブロックが混在。

左 図3 日豊線日向沓掛駅 無人駅  JIS規格外 アスファルト・ブロックの劣化

中 図4 大阪メトロ堺筋線本町駅 周囲の路面の素材がざらざら。

右 図5  東武線新栃木駅 内方線付きブロックと内方線無しブロックが混在。

触覚的コントラストが低い原因

図6 触覚的コントラストが低い原因

周囲の床面の素材

図7 周囲の床面の素材

図8岡山市役所前インターロッキングJIS規格外 図9天理市河原城町インターロッキング。点状ブロックと線状ブロックの混在 図10大阪南視覚支援学校付近JIS格外敷設方法混在摩耗 図11宮崎県広島通りJIS規格外インターロッキングの車道 図12長野県JIS規格外溝がブロックに隣接模様と同化

上左 図8 岡山市役所前 インターロッキング JIS規格外

上中 図9 天理市河原城町 インターロッキング。 点状ブロックと線状ブロックの混在

上右 図10 大阪南視覚支援学校付近 JIS規格外 敷設方法混在 摩耗

下左 図11 宮崎県広島通り JIS規格外 インターロッキングの車道

下右 図12 長野県 JIS規格外 溝がブロックに隣接 模様と同化

上左 図11 性別 上中 図12 年齢 上右 図13 身体障害者手帳等級 2段目左 図14 歩行訓練歴 2段目中 図15 白杖の種類 2段目右 図16 白杖の材質 3段目左 図17 石突の種類 3段目右 図18 周囲の路面の素材/ブロックの素材 下 図19 当事者の様子

上左 図11 性別 

上中 図12 年齢 

上右 図13 身体障害者手帳等級 

2段目左 図14 歩行訓練歴

2段目中 図15 白杖の種類 

2段目右 図16 白杖の材質 

3段目左 図17 石突の種類 

3段目右 図18 周囲の路面の素材/ブロックの素材 

下 図19 当事者の様子

左 図20 路面がレンガでわかりにくい例 中 図21 ブロックと周囲の差材が同じ例 右 図22摩耗している例

左 図20 路面がレンガでわかりにくい例 

中 図21 ブロックと周囲の差材が同じ例 

右 図22摩耗している例

表1 白杖で伝いにくいと思った理由・改善点

表1 白杖で伝いにくいと思った理由・改善点

上左 図23 白杖の種類 上右 図24 石突の種類 下左 図25 歩行訓練受講回数 下右 図26 単独歩行経験

上左 図23 白杖の種類 

上右 図24 石突の種類 

下左 図25 歩行訓練受講回数 

下右 図26 単独歩行経験

左 図28 現地調査1(神戸1) 中 図29 現地調査2(神戸2) 中 図30 現地調査1(浜松1) 右 図31 現地調査2(浜松2)

左 図28 現地調査1(神戸1) 

中 図29 現地調査2(神戸2) 

中 図30 現地調査1(浜松1) 

右 図31 現地調査2(浜松2)

表2 現地調査 プロフィール・所要時間

表2 現地調査 プロフィール・所要時間

表3 ブロック・横ビルブロックのわかりやすさ

表3 ブロック・横ビルブロックのわかりやすさ

 

 

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