バリアフリー推進事業

2019年度 一般部門 成果報告

研究助成名

長期交通障害発生時の公共交通サービスのバリアフリー対応に関する研究〜平成30年7月豪雨災害の実践と経験から〜

研究者名

呉工業高等専門学校 環境都市工学分野 神田 佑亮

キーワード

自然災害,災害時バリアフリー,情報提供,

研究内容

(研究目的)
 平成30年7月豪雨発災時の交通マネジメントの実践経験から,今後の同様な長期にわたる大規模交通障害発生時に備え,災害時の応急交通輸送のバリアフリー化に資するため,災害時の公共交通輸送サービスのバリアフリー化および移動障壁のバリアフリー化のための情報の要件や対応するシステムの開発,その提供のための体制について明らかにすることを目的とする.

(研究手順)

・新聞記事検索による平成30年豪雨災害での公共交通輸送における課題調査

・公共交通輸送サービス関係者へのアンケートおよびヒアリング調査 ・災害時公共交通情報提供サービス「d-TRIP」運用の評価

・バリアフリーを考慮した災害時公共交通情報提供サービスの設計と運用方法・体制の検討

・災害時公共交通情報提供サービスの受容可能性の評価

・長期交通障害発生時の公共交通サービスのバリアフリー対応に関する検討

(研究成果)

  1. 本研究では,@実践に基づく災害時の公共交通サービスのバリアフリー面での課題の抽出と対応の方向性,A移動障壁のバリアフリー化のための情報提供システムおよびそのマネジメントの2つをアウトプットとして,以下の内容について調査・研究を行った.
    1.新聞記事検索による平成30年豪雨災害での公共交通輸送における課題調査
    平成30年7月豪雨では,特に広島?呉間において自動車専用道や公共交通の途絶が生じ,市民の移動にも大きな影響を与えた.その対応として代行バスや緊急時災害輸送などの交通手段が応急的に導入されたが,駅や車両等のバリアフリー環境が整った通常時の交通とは異なり,移動困難者の自立的な移動が困難な環境下に置かれた.具体的には,避難所までの交通輸送や日常交通の運行パターンへのニーズなど,多様な課題が発生した.
    本発表では,平成30年7月豪雨発災後の移動困難者の移動について,2018年7月6日?2019年4月31日に掲載された新聞記事のうち,「豪雨」と「バス」,「高齢者」,「外国人」,「乳幼児」,「子連れ」,「親子」を含む新聞記事をテキストマイニングにより分析し,その時期に発生した事象の傾向を分析した.分析の分析の結果,段差等のバリアを指摘する記事はほとんど見られず,高齢者や被災者,外国人,学生等の移動環境や情報提供に課題があることを指摘する記事が非常に多くみられた.また,交通ネットワークや情報の欠如がボランティアの来訪を妨げ,その地域の復旧を遅らせる要因となったことが明らかとなった.

2.公共交通輸送サービス関係者へのアンケートおよびヒアリング調査  交通サービスおよび情報の供給側からのバリアフリー面での課題を把握するため,公共交通輸送サービス関係者(代行輸送バス事業者)へのヒアリングおよびアンケート調査を実施した.  分析の結果,特別な対応が必要となったケースは多くなかったものの,足が不自由な方の乗降時の支援方法について,特に男性ドライバーが女性の乗客に触れて支援する際に戸惑いがあったケースが確認された.

3.災害時公共交通情報提供サービス「d-TRIP」運用の評価

申請者らが平成30年7月豪雨発災時に応急的に構築した災害時交通情報提供サービス「d-TRIP」について,評価と検証を行った.検証の結果,昨年度の災害時に災害時対応型バス位置情報システムやバス所要時間実績提供サービスについてはアクセス数も多く,非常に評価が高かった.また,ポータルサイトの存在は有用であり,一方で災害時では幹線交通のみを情報提供の対象と取り扱い,地域交通については構築を行わなかった.1.の結果と合わせて,地域交通への情報提供のきめ細やかな対応が課題であると結論づけた.

4.バリアフリーを考慮した災害時公共交通情報提供サービスの設計と運用方法・体制の検討  

バス事業者や行政とのディスカッションを踏まえ,災害発生時にはバス事業者に十分なスタッフが確保できず,情報提供システムの構築が困難であることから,運行の情報をバス協会団体に一元化し,その後大学や高専等の外部機関の協力も得て情報提供システムを構築していくことや,路線やダイヤの情報については,既存のダイヤ表示システムで対応可能な範囲は対応しつつ,対応が難しい場合には,公共交通のダイヤをGTFSフォーマットで作成し,コンテンツプロバイダーに情報提供を行うことでダイヤ情報を整えていくことが重要であるという結論に至った.

5.災害時公共交通情報提供サービスの受容可能性の評価  

こうした情報提供システムについて,主に高齢者を対象に,システムの受容可能性をアンケート調査により把握した.調査の結果,公共交通の情報提供や検索システムについては,交通低密度地域の高齢者であっても,8割程度と高かった.また,スマートフォンの保有率が5割程度であり,今後スマートフォンを前提としたシステムの構築に大きな問題はないことが確認された.

6.長期交通障害発生時の公共交通サービスのバリアフリー対応に関する検討

4.で触れたようなシステムで運営を図るとともに,災害発生後のフェーズに応じて,初期段階では帰宅困難者や外国人が円滑に安全な場所に移動できるような情報提供を行うことが重要であり,概ね10日?2週間後の公共交通が段階的に回復していくフェーズでは,主に地域住民やボランティア向けに,全体を俯瞰できる情報を提供したうえで個別路線の情報提供を行なっていくこと,また幹線路線(都市間輸送)と地域内移動(生活路線)について個別に情報提供を行なっていくことや,Webから拡張し,デジタルサイネージとの結合も有用な画面構成とするようにした.

 

 

 

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