バリアフリー推進事業

2019年度 研究・活動部門 成果報告

研究助成名

病院の通院送迎バスの共同運行と患者の通院負担軽減に関する研究

研究者名

公益財団法人公害地域再生センター 谷内 久美子

キーワード

通院、ラストワンマイル、モビリティ、高齢者

研究内容

(1)研究の目的
 本研究では複数の病院が共同で通院送迎バスを運行することにより、患者の通院負担軽減を図ることができないか検討する。
(2)研究の背景
 交通の便が良い都市部においても、短距離の移動ができないために、通院などの外出に困難を生じている高齢者が増加している。多くの高齢者は何らかの持病を抱えており、通院は必要不可欠で日常的な外出である。高齢者が安心して暮らし続けるために、通院の交通手段の確保が重要である。
 そうした状況において、患者の送迎を支援するために、通院送迎バスを運行している病院がある。しかしながら、それぞれの病院が別々に送迎バスを計画・運行していることから、路線が重複していたり、また、ニーズを十分に把握できていないことから利用者が少なく、運行の継続が危ぶまれている。
(3)研究の現状
 本研究では、西淀川区をケーススタディ地域とする。2008年に「地域性・個人属性からみた通院巡回型乗合送迎サービスシステムに関する考察」(本村信一郎、大阪大学修士論文)において、通院送迎バスの共同運行に関して検討を行ったが、実施にはいたっていない。その後、西淀川区内においては、赤バスや福祉バスが廃止し、病院が運行する通院送迎バスの役割の重要性が高まっている。現在は、淀川勤労者厚生協会、千舟病院などの複数の通院送迎バスを運行していることから、バスの共同運行の実現可能性は高いと思われる。
(4)研究の内容 
 患者の移動負担に関する調査を行い、現状の通院における課題や共同運行バスに対するニーズの把握を行う。次に、病院などに対してインタビュー調査を行い、現状の通院送迎バスの運行状況、共同運行バスの実現に向けた課題を把握する。これらの調査から、通院送迎バスの共同運行方法について検討するとともに、それにより患者の通院負担を軽減することができるかを分析する。
現在、医療分野では各医療機関の役割分担を尊重した「地域医療連携」が重要視されつつあり、通院送迎バスの共同運行は病院同士の連携にも効果があり、本研究の成果の実現性は高いものと考えられる。
(5)ケーススタディ地域の概要
 調査を実施した大阪市西淀川区の概要を表 1に示す。西淀川区は臨海部に大規模な工場群、内陸部に住工混在地域が広がる人口9.7万人の都市部である。近年は工場移転とその跡地への中高層マンション・分譲一戸建住宅の建設が続いており、若年層の人口流入が増えている。
 西淀川区内には鉄道路線が4路線あり、区内には7つの駅があり、南北の移動の利便性は高い。西淀川区内の東西方向の移動はバスに頼らざるをえないが、バスの利便性は年々悪化傾向にある。西淀川区内には大阪シティバスの路線が運行しているが、近年バスの運行頻度は減少傾向にある。しかしながら、バス停の間隔が短く区民の足として親しまれていた2013年に大阪市交通局の赤バスが廃止、その後赤バスの代替として運行していた西淀川区の福祉バス(に〜よんバス)が2017年に廃止された。また、2014年に歌島橋バスターミナルが廃止されている。大阪シティバスはバス停の間隔が広く、施設に直接乗り入れていないため、長距離を移動できない高齢者にとって利便性が低いという状況にある。
(6)患者の移動負担調査
1)調査の目的
 患者の現状の通院に関する移動負担がどの程度あるのかを把握し、効率的な通院送迎バスのあり方を検討することを目的とする。
2)調査対象者
 西淀川区内においてバスを運行している下記の病院・診療所の通院患者を対象とする。調査対象者は、通院バス利用者だけでなく、病院・診療所に通院しているすべての患者を対象とする。調査は、社会医療法人愛仁会千舟病院および公益財団法人淀川勤労者協会(淀協)の西淀病院、のざと診療所、千北診療所、姫島診療所において実施した。公益財団法人大阪労働衛生センター第一病院にも調査を依頼したが、共同運行に対して否定的であり、調査は実施できなかった。
  3)調査の概要
調査の概要を表 2、表 3に示す。アンケートは病院・診療所の受付にて配布してもらい、受付に設置した回収ボックスにて回収した。調査項目は、通院全般、通院バスに関するものである。アンケート票は1,000票準備し、235票回収した。
4)調査結果
@)個人属性について
 年齢は60歳代以上が6割と高齢者に偏っており、性別は6割が女性である。また、身体面での移動困難の状況については、「特に問題はない」が83%であり、17%が何らかの移動に何らかの問題を抱えているといえる。居住地については、それぞれの病院、診療所の近隣が多かったが、千船病院は移転前の地域や西淀川区外、西淀病院・のざと診療所は西淀川区内全域および西淀川区外からの外来患者も多かった。
A)通院全般について
通院頻度については、いずれの病院・診療所においても、「月1回」「2カ月に1回」「2カ月に1回」と低頻度の利用者が7割前後であった。淀協では「週に3日以上」が20%と高頻度利用者が多かった。通院手段については、千船病院は、「自転車」が29%、「電車」が23%、「自分が運転する自動車」が19%であったのに対し、淀協は近隣地からの通院患者が多いため「自転車」が35%、「徒歩」が34%となっていた。「通院送迎バス」は千船病院で12%、淀協では16%であった。
 通院の交通費の負担感については「やや負担に感じている」が10%、「負担に感じている」が8%であった。一方で身体面での負担感については「やや負担に感じていえるが16%、「負担に感じている」が10%となっており、費用面よりも身体面でのほうが負担を感じている人が多かった。
B)病院の通院送迎バスについて
 通院送迎バスの利用者は32%であった。千船病院では、通院バス利用者のうち「ほぼ毎回利用する」が35%であるのに対し、淀協は58%と頻回利用者が多く、病院によって違いがみられた。また、病院の通院送迎バスの利用者は、70歳代が48%、80歳代が24%と高齢者が多かった。また、送迎バス利用者の方が非利用者よりも、身体面で移動に何らかの困難を抱えている人の割合が高かった。
(7)通院バスの共同運行方法の検討
 西淀川区内における通院バスの共同運行のイメージとして、表 4に示す3つの段階を検討した。
 ステップ1としては、各病院の路線・時刻表はそのままにして患者の相互利用を可能にするいうものである。患者としては通院時に乗れる路線が増え、病院としてもシステムの変更を最小限にとどめることができる。その一方で共同化による経営上の効率化は図られていない。ステップ2では共同運行バスの経営の共同化を図り、さらにステップ3では路線を再編し、バス路線網として利用しやすくする。また、ステップ4では通院以外での利用もできるようにコミュニティバス化(乗り合いバス化)を図るが、そのためには有料化が必要となり、運行経費も増大する。
(8)共同運行バスに関する病院へのインタビュー調査
 西淀川区内で通院送迎バスを運行している3つの病院の共同運行バスの担当者に対して、インタビュー調査を行った。6月の調査では、共同運行方法の素案の提示、11月の調査ではアンケート結果および共同運行方法のイメージを提示した上で、意見を求めた。
3つの病院のうち2つの病院は共同運行に対して前向きな意見がみられた。現状の病院送迎バスは多額の費用がかかっており、医療機関同士が連携する時代になっていることから共同運行の余地があるとのことだった。また、本来であれば地域の移動手段は政策として行政が担うべきではないか、MaaSの実証実験など新しい技術を取り入れるべきではないかとの意見もあった。
その一方で、1つの病院は共同運行バスの検討そのものが不可能とのことであった。その理由としては、地域内に対しての宣伝の意味合いで走っているために効率化を求めていないということであり、病院同士の通院バスの共同化の難しさを表す結果となった。
(9)まとめ
・本研究では複数の病院が共同で通院送迎バスを運行することにより、患者の通院負担軽減を図ることができないかを検討するための材料として、患者の移動負担に関するアンケート調査および病院に対する共同運行に関するインタビュー調査を行った。
・患者の移動負担に関するアンケート調査では、現状の通院患者のうち、通院の交通費を負担に感じている人は18%、身体面で負担を感じている人は26%であった。また、通院送迎バスの利用者は32%であり、送迎バス利用者は身体面で移動に何らかの困難を抱えている人の割合が高かった。
・通院送迎バスの共同運行方法として、@各病院の送迎バスの相互利用、A経営の共同化、B路線の再編、Cコミュニティバス化の4段階の運行方法を提案した。
・アンケート調査の結果および共同運行方法を提示したところ、2つの病院は共同運行に前向きであった。共同運行の実現に向けてはより具体的な案の提示が必要である。

 

表 1 西淀川区の概要

表 1 西淀川区の概要

表 2 調査の概要

表 2 調査の概要

表 3 調査期間、アンケート票の準備数、回収数

表 3 調査期間、アンケート票の準備数、回収数

図1 年齢

図1 年齢            

図2 性別

図2 性別      

図3 移動困難の状況

図3 移動困難の状況

図4 通院時の負担感

図4 通院時の負担感

図4 通院時の負担感

図5 通院送迎バスの利用と年齢

図5 通院送迎バスの利用と年齢        

図6 通院送迎バスの利用と移動時の困難

図6 通院送迎バスの利用と移動時の困難

表 4 通院バスの共同運行のイメージ

表 4 通院バスの共同運行のイメージ

表 5 共同運行バスに関する病院担当者の意見

表 5 共同運行バスに関する病院担当者の意見

バリアフリー設備のご紹介

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