1)視覚的コントラスト
国際標準化機構ISO23599においては、「マイケルソン輝度比30%以上、危険を警告する場合50%以上(単純輝度比3.0に相当)。充分な輝度比が確保できない場合、ブロックの周囲に色の異なる帯(側帯と呼ばれ色は黒系色が一般的)を10p以上の太さで設置する」としている。
一方日本においては、「黄色を原則とする。ただし、周辺の床材との対比を考慮して、色の明度、色相または彩度の差(輝度コントラストが十分に確保できず、かつ安全で連続的な道筋を明示できない場合はこのかぎりではない)」(単純輝度比2.0程度)「公共交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドライン バリアフリー整備ガイドライン 旅客施設編」(平成30年7月改訂。以下、バリアフリー整備ガイドライン)としている。
今回の我々の調査では、交差点において、黄色ではなく周辺の床材と同系色または周辺の床材の模様と同化しているブロックの敷設実態が明らかとなった(表4)。歩行訓練士からは、「視覚ではとらえ難く、白杖や足底での確認回数が増加したり、逸脱すれば視覚によりブロックを発見することが困難であった」という報告も挙げられた。
当事者からは、「コントラストが明確なブロックを敷設してほしい」「景観重視ではなく、当事者の意見を反映させてほしい」という意見も聞かれた。
交差点においてブロックが視認できないということは、重大な交通事故にもつながりかねない。これは輝度比の規定のみでは改善できない可能性も考えられる。
駅ホームに関して、今回の調査で、視覚的コントラストの問題例として挙げられていたのは2例であった(表1 )。駅ホーム上は、黄色のブロックを敷設し、視覚的コントラストにも配慮されつつあるとも考えられるが、JR和歌山駅の例に見るように(表2)、足元表示とブロックを混同する危険性が危惧される。「通行帯を確保するためのホーム床面サインの例」としてガイドラインにも記載され、足元の行先表示が今後増加していく傾向も考えられる。
CPライン(Color Psychology)の研究調査は進められているが(駅ホーム縁端部視認性向上のためのWG:国土交通省)、足元表示の色相やブロックとの関連、色覚バリアフリーにも配慮した調査研究を実施していく必要性を感じる。
2)敷設方法
@障害物
交差点の敷設方法に関して、ブロックの上や近隣に障害物がある例が挙げられた。歩行訓練士から、「標識のポールが視覚障害者誘導用ブロック上に設置されていて、接触しそうになったり、植木があってぶつかりそうになった」という行動が報告された。
駅ホーム上において、本来内方線付き点状ブロックは白杖で伝うべきものではなく、ホームの内側を示すものであり、長軸方向での移動は極力避けたいところだが、やむを得ず伝わざるを得ない状況が存在する。ブロック付近に柱が有ったり、柱をよけるようにブロックが設置されている例が挙げられた。柱を回避したことで駅ホームから転落した事例もある。当事者からも「柱を除去してほしい」との意見が聞かれた。
バリアフリー整備ガイドラインには、「プラットホーム上の柱などの構造物と干渉しないよう配慮して敷設する。やむを得ずホーム内方線付き点状ブロックがホーム縁端付近の柱などの構造物と干渉する場合であっても、構造物を迂回して敷設するのではなく、連続して敷設し、干渉部分を切り取ることとする。ただし、内方線付き点状ブロックと構造物との間に隙間を設けずに敷設する」「内方線付き点状ブロックを連続して敷設することにより、視覚障害者がプラットホーム上の柱など構造物と衝突した際の安全性を考慮し、柱にクッションを巻くことが望ましい」との記述がある。
現地調査で実施したJR王寺駅東側は、本ガイドラインに沿って柱やブロックが設置されていることになるが、同ホーム西側は柱が離れて設置されており、ブロックから離して柱を設置することも不可能ではないと考えられた(表5)。
また、「非常扉がブロックと近接し、ぶつかるかもしれないという恐怖心が見受けられた」との歩行訓練士の報告から、駅ホーム上で、視覚障害者が安全確保のために意識しなくてはならない項目が多く存在するにも関わらず、障害物にまで意識を集中しなくてはならないことは、転落につながるリスクが高まることも推測できる。
A方向性
交差点手前で交差点の中央に向かってブロックが伸びていたり、対面の歩道に向かって伸びていなかったりする例が挙げられた。「危険なのでブロックを活用せず他の手がかりを使用した」という歩行訓練士からの報告があった(表4)。ブロック設置の意図がまったく異なったものになってしまい、遺憾である。
B警告ブロックの長さ
「横断位置を示す警告ブロックの長さが短く、発見できずに車道に降りてしまった」という歩行訓練例が挙げられた。現地調査においても同様の現象が生じ、当事者からも「警告ブロックが短いと発見が困難である」との意見が聞かれた(表5)。発見可能な警告ブロックの長さでの敷設の検討が必要である。
C途切れたブロックの敷設
表2の福岡市営地下鉄天神駅の改札内外で、途切れたブロックが敷設されている。歩行訓練士からは、「突然点字ブロックがなくなるため混乱してしまう。点字ブロックが切れた瞬間立ち止まり、左右に点字ブロックがあるかもしれないと探る傾向がみられ、近くを歩いている歩行者に白杖があたったり、あたりそうになったりし、周辺の歩行者が驚く状況も見られた」という報告があった。当事者からも「点字ブロックは途切れさせないでほしい」との声が挙がっている。
車いすやベビーカー利用者への配慮であろうが、視覚障害者の適切な誘導・安全性を考えると、ガイドライン改定時などで再度検討する必要があると考える。
3)触覚的コントラスト
交差点においても、駅ホーム上においても、周囲の床面とブロックとの触覚的コントラストに問題がある例は、多数挙げられた(表1)。
インターロッキングブロックと同素材のブロックについては、白杖で伝っていることがとてもわかりにくく、分岐を発見できずに通り過ぎてしまうという行動が現地調査で見られた。当事者からも、「床面とブロックとの材質を区別してほしい」「JIS規格の物に変えて欲しい」などの意見が聞かれた。
一方、現地調査にて、床面がアスファルトでブロックがコンクリートの場面では、3名の内、1名がとてもわかりやすい、2名がややわかりやすいと回答している。側帯が敷設されたコンクリートのブロックでは、3名全員がとてもわかりやすいと回答している(表5)。
JIST9251(2014)において、ブロックそのものの大きさや形状が規定されている。また、バリアフリー整備ガイドラインには「周囲の床材の仕上げにも配慮する必要がある」との記載がある。しかし、周囲の床面とブロックの触覚的コントラストに関する記載はまったく見当たらない。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、総務省が関東の一部の地域において「視覚障害者誘導用ブロックの維持管理等に関する調査」を実施し、【調査結果に基づく所見表示に対する改善措置状況】を報告しているが、ここでも床面とブロックとの触覚的コントラストの記述はない。触覚的コントラストに関する調査・研究を実施していくことが、喫緊の課題であると考える。
また、福岡市地下鉄天神駅に見られるように(表3)、高さの低いブロックがホーム縁端部に敷設され、「わかりにくく凹凸が必要」との意見が当事者からも歩行訓練士からも聞かれた。転落事故にもつながる重要な視点であると思われる。
(まとめと今後の課題)
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本調査において、視覚的コントラスト、敷設方法、触覚的コントラストの3つの視点からブロックの課題などを検討した。本来、ブロックは、視覚障害者が安心して安全に移動できるためのツールである。しかし現実にはそのようになっていない場面が多いことが、今回の調査で明らかとなった。
ユニバーサルデザインへの配慮が社会に浸透する中、ブロックに側帯をつけるなど視覚的コントラストを考慮する必要性は認識されつつあるように思われる。一方で不適切な敷設方法の改善の検討や触覚的コントラストの重要性は、それほど検討が進んでいるとは言い難い現状である。
調査の中で周囲の床面とブロックの材質が異なることで、当事者にとってブロックがわかりやすい傾向はみられたものの、具体的にどのような床材やブロックとのコントラストが有効であるのかは明確になっていない。早急に触覚的コントラストの視点からの調査・研究を実施する必要性がある。
今回、協力を求めた当事者の数も少なかったことから、更に継続して多くの当事者の意見や現地調査などを実施していくことの必要性を感じた。また、ブロックを敷設する場合、設計段階において、当事者や歩行訓練士などが関与していくことが重要で、同時に歩行訓練士の存在や白杖の使用方法などの啓発も必要であると痛感させられた。
日本歩行訓練士会では、組織の役割を再認識し、今後も継続的な調査・啓発などに取り組んでいきたい。
<引用・参考文献>
1)視覚障害者誘導用ブロックの国際規格ISO23599について:2012徳島大学工学部機械工学科・教授 藤澤正一郎、兵庫県福祉のまちづくり研究所 所長 末田 統 福祉のまちづくり研究 第14巻第3号
2)公共交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドライン(バリアフリー整備ガイドライン 旅客施設編) 平成30 年(2018 年)7 月 発行 国土交通省総合政策局安心生活政策課
3)視覚障害者誘導用ブロックの維持管理等に関する調査−主要施設間を結ぶ経路を中心として−
結 果 報 告 書 平成30 年4月 総務省関東管区行政評価局