バリアフリー推進事業

2018年度 成果報告

研究助成名

つくば市における認知症高齢者が外出しやすい環境づくりの調査?当事者を中心とした地域共創

研究者名

DFJI交通プロジェクト 前田 亮一

キーワード

認知症、地域互助、当事者主体

研究内容

(研究・活動成果)
 1)研究目的

本研究の目的は安全のために外出を制限するのではなく、「認知症になっても安心して外出ができる」ためにどのようなサービスが必要か検討をしていく。すなわち本人が行きたいと思うところにたどり着けたかどうかを指標とする。それには心身機能と環境適合に関するミスマッチによる課題や偏見や不安など心理的要因による課題を解決していく必要がある。今回の研究に協力いただく「カフェロマンつくば」は当事者と市民の交流活動団体である。当事者の視点を中心に住民、行政、交通事業者がそこに参加し、共に安全な外出を考える体制づくりに必要なものを検討していく。

2)活動調査「つくばおよび先進地域の実情(D-cafe、DFJS)
@D-cafe
・内容:当事者間での学びあいの活動をされている町田市のD-cafeにつくば市の当事者と共に参加をした。D-cafeは町田市のスターバックスコーヒー内の1区画を利用して行われている認知症カフェである。町田市と当事者団体である本人会議のメンバーにより企画され、コーヒー店の協力のもと誰でも参加できる地域に開いた活動を行われている。今年度は市の委託として市内8店舗で月1回スターバックスコーヒーで開催されている。参加者は当事者をはじめ、行政、福祉、地域高齢者や市外からの見学者もよく来られている。自己紹介を行い、旅のことばカードを利用して、困りごとなど意見交換を行われている緩やかなカフェである。また食べる、しゃべる、出かけることを大切にしている、出かけてくる場所があることが大切ですと代表の松本礼子さんの言葉が印象的であった。

・考察:当日はボランティア、当事者の方など11名が参加した。認知症について否認をしている状態では社会への不信感を感じる発言が多くあった。当事者も整理がついていないことが予測された。また日常生活に関する不安などの感情を共感してもらえる方との出会いが嬉しかったと感想をのべられていた。

ADFJS2018
・内容:認知症にやさしいまちづくりサミットであるDFJSが、9月3日に川崎市のカルッツかわさきにて、セッション「認知症にやさしい交通vol.3 各地の先進事例から考える?私たちのまちの交通?」を開催した。セッションの流れとして DFJI交通プロジェクトの紹介、事例の紹介(ゲストトーク)、対話のワークショップを行なった。つくば市のカフェロマンからも当事者が参加した。
交通や外出の課題は地域差が大きく、地域ごとに考えていく必要がある。そして、各地で取り組みを増やしていくための初めの一歩として、参加者のわが町の悩みを整理・共有し、一緒に考える仲間作りをすることを目的とした。登壇者として松本惠生氏(岩倉地域包括支援センター)、清水真弓氏(京都府地域リハ支援センター)、牛尾容子氏(エスティーム)、松原淳氏(交通エコロジーモビリティ財団)より情報提供をしていただいた。
京都市の取り組みでは、SOSネットワーク訓練を交通事業者とともに行なってきた。そこから発展してきた関係性から、当事者に参加をしてもらったシンポジウムを行なっている。また電車をもっと身近に感じ、積極的に利用することを目的にした駅カフェを開催している。交通事業者と共にアイデアを考え、当事者に利用を促す実践を行なっている。東広島市では、芸陽バスから認知症キャラバンメイトを取得した事例が発表された。市内の認知症に関するネットワークに参加され、社内でも啓発活動を開始されている。交通事業者が自発的な活動をされている点が画期的といえる。ワークショップではワーク1として地域における外出の悩みを共有した。そしてそれぞれの町の資源を確認し、地域の中でできることについてアイデア共創を行なった。
・考察:交通の課題は地域性が大きく、画一的な解決方法はない。認知症当事者の方も外出していることを前提とした議論や事例も少しずつ広がってきている。京都や東広島の事例では交通事業者、行政、警察など地域の関係セクターとのネットワークづくりも進んできている。より具体的な当事者の困りごとを集約していく機能が求められている。参加者からは外出の課題を感じてはいたが、その具体策については実際に考えたことはなかった。地域のつながり、資源の少なさ、生活に必要な移動距離など地域差が明らかになった。他の地域と比べることで、わが町のできている所、できていないことを確認されていた。

BDFJSプレイベントセミナー認知症にやさしい社会を考える??脆弱な消費者の支援のあり方?
・内容: 高齢化が進む中で同じく増加する認知症者を脆弱な消費者の1人として定義し、その支援のあり方を検討するセミナーを8月31日に開催した。会場は法政大学ボアソナードタワーにて開催され、参加者は54名となった。
 最初の登壇者である法政大学大学院政策創造研究科 樋口一清教授からは、「脆弱な消費者への支援」をテーマについて情報提供をしていただいた。脆弱な消費者の社会的排除から社会的包摂へ一連の流れを踏まえる必要があり、消費者脆弱性に漬け込む悪質事業者の行為を市場から極力排除する試みの重要性を訴えられた。同じく法政大学大学院政策創造研究科の高尾真紀子教授からは「企業と認知症の関わり」というテーマで講演いただいた。
 専修大学ネットワーク情報学部の佐藤慶一准教授からは「認知症と防災」というテーマで講演いただいた。地域防災力について自発的な取り組みが行えることの重要性を示された。また福祉や防災が切り離されて語られていくのではなく、レジリエンス社会の構築の必要性を示唆された。
 最後は筑波大学ダイバーシティ・アクセシビリティキャリアセンターの河野禎之助教からは「臨床現場から見た消費者保護」について情報提供いただいた。これら認知症者の問題を考えていくことが、認知症者だけでなく地域社会全体にとって有益な効果をもたらせ、ソーシャルインクルージョンを進めていく可能性について示唆された。
 司会を行なったDFJI共同代表で富士通研究所シニアディレクターの岡田誠さんからはそれぞれ異なる分野ではあるが、問題構造や解決手法は共通することが多く見られた。個別的でなく総体として考えていくことの重要性とされた。
Cシンポジウム?カフェロマン会議?認知症にやさしいまち つくばのデザイン〜
・内容:つくば市内の関係者が集まり、認知症になっても日常の中に楽しみを持ちながら地域の生活できることを考えることを目的に、2018年12月17日につくば市交流サロンにてイベントを開催し、30名超の参加があった。
フィッシュボール形式にてカフェロマンの当事者からは日常で感じること、お願いしたいことについて市民や行政に向けて話してもらった。またゲストのつくば市副市長 毛塚幹人氏も参加し本人の想いを行政に届けるため意見交換を行った。また、本人の声をまとめたパンフレットを作成し、市内関係者へ届ける予定である。
ご本人の声として、「免許返納をして、外出する手段が少ない。」「ある日突然役所の人が来て認知症といわれたことがショックで、驚きと怒りが大きかった。」「迷ってしまった際に一緒に相談に乗ってくれる人の存在は大きかった。」「福祉は必要性を感じないサービスを一方的に押しつけず、欲しいと思った時に助けて欲しい。」と意見があった。毛塚副市長からは「ご本人の声が胸に響いた。行政サービスも本人の声を聞き、外出の課題や生活の質の向上を考えていく必要がある。行政としてできること、市民としてできることがあり、その双方をすすめていく必要がある。」と意見があった。
プロジェクト紹介として、高原達也氏からはみまもりあいプロジェクトの紹介を行った。これはおたがいさま(互助)を通した新しい地域の助け合いの関係づくりプロジェクトであり、ICTツールを使うこと、コンセプトに共感する輪を広げていくことで安心できる環境づくりができる。今後、つくばでもいくつか取組みを行っていく予定である。(http://mimamoriai.net

また、筑波大学の呑海沙織氏からは高齢者の居場所として図書館活用について話があった。シニアの方にも多く図書館は利用されているが、様々な不便を感じられていることがある。図書館には様々な可能性があり、活用方法にもっと考えていく必要がある。

3)つくば市の交通を考える
@つくば市総合交通政策課との意見交換
・内容:2019年1月25日に総合交通政策課に出前講座を行っていただき、当事者と共に高齢者の公共交通利用について意見交換を行った。つくば市出前講座「つくバス・つくタクの運行概要と利用方法」について総合交通政策課:倉持氏より話をしていただき、サービス内容について紹介があった。
意見交換では、以下のような内容が上がった。
Q:バスの行き先がわからなく、違うバスに乗ってしまった > 運転手が行先を告げる。
Q:ICカードで支払いモードとチャージモードの切り替えが難しい。>運転手に伝えないといけない。
Q:関鉄とつくバスの違いがわからない。>採算路線の中で関鉄バスへ民営化された路線がある。
Q:つくタクや割引制度の手続きがわからない。相談窓口はだれか?>ケアマネ、民生委員、包括
Q:区域外に行くためには?>区域外割引がある。運転手に乗り換えすることを伝える。
・考察:事前情報として出前講座の話を聞くことは有用であった。困難な点として、ルート作成が挙げられるが、市役所で電話対応は可能とのことだが、その改善が必要と思われる。また乗り換えが必要な際には料金も不明瞭である。利用をしながら困りごとを伝え改善してもらえる体制作りや連携も大切であるが、困った際のサポート体制は決まっていない。それは市民から困りごとが上がってこないためとのことであり、事前に要望を上げていかないとサービスとして検討されない状況が明らかになった。

Aエスノグラフィー調査:当事者と共につくバス乗車体験。ICカード利用
・目的:つくバス「筑波交流センター〜つくばセンター(北部シャトル)」にのって乗車体験を行なった。
初めてのICカード利用で、事前説明をして実際に乗車した。通常では@整理券をとり、A停留所で割引申請を伝え、B降車停留所で料金を払う手順である。しかし、ICカードを利用では@ICカードでタッチ、A降車停留所で割引申請を伝え、BICカードでタッチという手順になる。実際の場面では、タッチの仕方がわからない、どこにタッチするのか不明、降りる場所はどうしたら良いかわからない、料金がわからないといった意見が聞かれた。
・考察:ICカード利用一つとっても、情報のみの提供では利用することは困難であり、共に体験できる機会を作ることは重要である。

Bワークショップ開催?つくば市での交通を共に考える
・目的:2019年2月22日に吾妻交流センターにて、「つくば市にて車を運転しなくてももっと外出をできるようにするためには?」というテーマでワークショップを開催した。エコモ財団の松原氏より「交通セクターの取り組み」について紹介があった。その中で、「日本の交通事業者で認知症専門のサポート体制は作っているところはまだない。」「日本では認知症を特別視しているが、社会全体として利用しやすさを求めないといけない。」「大きな問題は偏見である。サポート体制は特に初動が大切である。」と言った意見をいただいた。認知症当事者からは「外出は徒歩が中心でほとんど出かけられていない。バスに乗るのが怖くなっている。」「自転車で出かけることが多い。迷ってしまうこともあり、荷物を乗せると危ない。10kmの距離も自転車を使わざるを得ない。」と意見があった。笠間市会議員の内桶氏より行政への地域住民の声の届け方について説明をしていただいた。「行政に意見を届ける際には請願と陳情の形がある。そのためには介護施設や住民など輪を広げて体系を作る必要がある。連名を取ることも重要。市会議員は福祉などに詳しい人が望ましい。課題解決が行えるようにすることが重要。」
・考察:ワークショップでは、当事者のオレンジカフェ参加の希望があり、公共交通での移動方法について参加者で検討した。その中で、一人でルートづくりの難しさを感じた。困難な点として、情報をよく読み込まないとルートを組むことが難しいこと、乗り継ぎが必要な際にはセンターまで行かなければならないことが多いので値段は高くなること、乗継割引は乗り換えの際、次の乗車は上限が200円となるが、高齢者割引等は使えない。どちらが割安なのか行き先でも異なり不明であることが挙げられる。

4)研究成果と今後の課題
 当事者との学び合いの中で主体的な活動が進み、自ら困りごとについて自発的に発言をされるようになった。また会議などを通して、市内外の関係期間とのネットワークづくりもでき地域課題を共有できたことは大きな収穫である。しかし、地域の理解が不十分であること、周知の地域課題となっても行動は伴わず、社会環境としては未整備のままである。また、困りごとが上がらないために公共交通のサービス改善がなされないことが明らかになった。シミュレーションとして実際に利用しながらそのアクセシビリティに関して提言を行える体制作りは重要である。実際の利用を通して困難な場面や良い点について確認し、要望という形で提言していく必要がある。

5)まとめ・謝辞
・認知症にやさしい交通を目指していく上で、当事者が当たり前に社会へ要望が出せることができればサービスは大きく変わってくるだろう。まず社会の偏見や本人の受け止めを整理し、対話の土台づくりが何より必要である。当事者や地域の協力を得て、問題構造の一端が明らかになった。

本研究の全般に関して助言をいただいた交通エコロジー・モビリティ財団の松原淳氏にまずは御礼を申し上げたい。また、社会のためになるならと認知症当事者としての立場から意見を会議の場で伝えていただいたカフェロマンのメンバーの方々にも感謝しております。

 

解決すべきポイント

図  解決すべきポイント

ECOMO交通バリアフリー研究・活動助成事業段階の達成イメージ

図 ECOMO交通バリアフリー研究・活動助成事業段階の達成イメージ

@D-cafe @D-cafe

写真 @D-cafe

ADFJS2018 

ADFJS2018

写真 ADFJS2018

BDFJSプレイベントセミナー認知症にやさしい社会を考えるー脆弱な消費者の支援のあり方ー

写真3 BDFJSプレイベントセミナー認知症にやさしい社会を考えるー脆弱な消費者の支援のあり方ー

Cシンポジウムーカフェロマン会議ー認知症にやさしいまち つくばのデザイン〜

Cシンポジウムーカフェロマン会議ー認知症にやさしいまち つくばのデザイン〜

写真4 Cシンポジウムーカフェロマン会議ー認知症にやさしいまち つくばのデザイン〜

@つくば市総合交通政策課との意見交換

@つくば市総合交通政策課との意見交換

写真 @つくば市総合交通政策課との意見交換

 

 

バリアフリー設備のご紹介

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