バリアフリー推進事業

平成28年度 成果報告

研究助成名

交通バリアフリーにかかる福祉教育授業モデル動画コンテンツの作成

研究者名

国立大学法人鳴門教育大学 大学院学校教育研究科 高橋 眞琴

キーワード

バリアフリー,肢体不自由,発達障害,内部障害,福祉教育,本人の声

研究内容

1.はじめに
本研究では,地域で様々な人々が利用する交通場面を設定し,地域での生活に基づいた障がいのある児童・生徒本人の声や意見を取り入れ交通バリアフリーに係る福祉教育授業におけるモデル動画コンテンツのパーツの作成を試みることを目的とした。  

本DVDにおいては,電動車いすを街の中で操作する肢体不自由のある生徒さんの声(Chapter 1),発達障がいのあるお子さんの送迎車両の乗車場面(Chapter 2), 内部障がいのある学生さんの声(Chapter 3), 鳴門教育大学学生によるロールプレイイングと模擬授業(Chapter 4)が障がいのある子どもたち,保護者,関係団体,鳴門教育大学に在籍する学生の協力により,収録されている。学校教育での福祉教育での導入場面の検討や地域での児童発達支援,放課後等ディサービスセンターでの支援において,活用することが期待できる。

2.Chapter 1 電動車いすを街の中で操作する肢体不自由のある生徒さんの声
Chapter 1では,電動車いすを街の中で操作する肢体不自由のある生徒さんが駅構内や街の中を移動する際に,困ったことや危険な箇所など,電動車椅子で移動しながら説明する内容となっており,必要箇所で,大学教員による概説を加えている。最後に,保護者へのインタビューも収録されている。
(1) 駅券売機での乗車券購入場面

駅の券売機での乗車券購入場面では,電動車いすを操作する肢体不自由のある生徒さんが乗車券売機を見ており,手助けしようとしている人が同じ目線に座って,手伝いを申し出ている。一般的に,駅において車いすに乗っている人が券売機を見ていると,乗車券購入に際して,何か困ったことがあり,手助けが必要であることが想定されるが,実は,電動車いすユーザーの多くが「福祉乗車証」を保持しているため,今回の動画コンテンツパーツの収録では,その乗車証を探していることがわかった。本人から申し出がなければ,気が付きにくい点である。

 (2) 電動車椅子の後方キャスター
駆動輪と並行の向きになっており,電動車椅子自体が後方に倒れた時に支えるためのものである。向きが変わっていると地面に倒れることもある。後方キャスターが可動になっているのは,電動車椅子を使用しない時に,他者が躓くケースや車載時にキャスターがはみ出すケースがあるため,内側に向けることでそれらのケースを防ぐためである。関連する内容であるが,バスや電車などの公共交通機関に乗車・下車する際に,手伝ってくれた人が後方キャスターをたたんだまま,元の位置に戻すのを忘れることがあり,動画モデル生徒は,後方キャスターを視認できないため,支援を受けたのち坂道に赴いた際に,電動車いすが転倒しそうな危険な経験をしたことも語られた。
(3)公道と歩道での電動車椅子の移動について

 

電動車椅子で移動している際に,駐車場から公道に出ようとしている車両に遭遇することがある。車両運転手は,少し車を前方に出した状態で,電動車いすユーザーが優先的に通過するのを待ってくれる場合がある。しかし,電動車椅子ユーザーは,車両を避けて,歩道と公道のスペースの間を通過しようとするため,電動車いすが少し斜めに傾く場合もあり,走行中のバランスを崩し,脱輪という状況も否定できないことも明らかとなった。脱輪だけではなく,ほんの少しの段差であっても,片方の車輪が落ちてしまい,電動車いすが転倒するケースもあり得る。また,前向き駐車がバックして,公道へ出ようとする際に,車種によっては,電動車いすがバックミラーの視界に入らないことがあるために,危険な思いをした経験が肢体不自由のある生徒さんから語られている。

3.Chapter 2 発達障がいのあるお子さんの送迎車両の乗車場面
 発達障がいのあるお子さんが地域の放課後等ディサービス事業所(以下,事業所)から送迎車両で帰宅する際の支援上の工夫や発達障がいのあるお子さんの車両乗車時の特性について収録されている。
通所している児童は,放課後を事業所で過ごし,「ミーティング」の際に,それぞれの福祉車両の配車について,スタッフより伝達を受ける。どの児童がどの席に着席するかを口頭で説明するのに加え,視覚的にも示すことで見通しが持ちやすくなっている。

また,荷物の受け渡しによるスタッフとのコミュニケーションの芽生えや円滑なシートベルト装着に向けた取り組みについて,大学教員による概説を加えている。

4.Chapter 3 内部障がい(心臓疾患)のある学生さんの声
このコンテンツでは,内部障がい(心臓疾患)のある学生さんが自身のこれまでの経験に基づき,自身でパワーポイントを作成し,概説する場面が収録されている。学生さんは,徒歩で歩くと体調不良になる場合もあり,駐停車禁止除外指定車標章やパーキングパーミットを所持している。

公共交通機関のバスに関するエピソードとして,病院への定期健診時に,優先座席に座っていたところ,近くに座っていた人から叱責された経験や電車では,JRの場合には,100km以上の移動でないと運賃は通常料金になり,病院への定期健診時に,運賃はかなりの負担にならないことや介助者がいないと割引がされないこと,タクシーで身体障害者手帳を提示したところ,手帳の色が違うため,「使えない」といわれた経験も語られた。内部障がいのある人は,一見するとわからないため,理解が得られにくいことが示唆されている。

5.Chapter 5  鳴門教育大学学生によるロールプレイイングと模擬授業

誘導音のない信号において,視覚障がいのある方が感じていることを知ることによって,声かけの仕方や配慮について,理解を促すロールプレイング及び視覚障がいのあるロールプレイイング企画者と大学教員との対談場面,車椅子での飲食店への入店場面でのスタッフによる支援,筆談場面のロールプレイング,福祉授業の模擬授業として電子黒板を用いた画像,パワーポイント,バリアフリー画像の提示も収録されている。

6.まとめ
今回は,障がいのある児童・生徒・学生が参画して,動画コンテンツの収録が行われたが,収録スタッフと相互にコミュニケーションを行う中で,これまで知られていなかったバリアが街の中に存在することが示唆された。特に,最近,電動車椅子による事故も報道されており,今回の肢体不自由のある生徒本人からの声は,事故防止上,参考になる点であるとも推察された。
今回作成したDVDでは,電動車いすを街の中で操作する肢体不自由のある生徒さんの声(Chapter 1),発達障がいのあるお子さんの送迎車両の乗車場面(Chapter 2), 内部障がいのある学生さんの声(Chapter 3), 鳴門教育大学学生によるロールプレイイングと模擬授業(Chapter 4)が,各Chapter毎に,授業者,支援者の目的や用途に応じて,再生できるように編集されている。

学校の福祉教育において,導入部分などで今回収録されたコンテンツを活用いただくことで,地域の中の交通バリアフリーについて,児童・生徒が考えるきっかけになれば幸いである。また,地域での児童発達支援,放課後等ディサービスセンターでの支援などでも活用していただくことも期待している。

<関連する研究業績>
(学会発表)
高橋眞琴・宇坂 徹・片山 達也・廣田そよか・西山樹・佐野友香・仁木智輝・安倍潤子
「交通バリアフリ−にかかる福祉教育授業モデル動画コンテンツ作成の試み@」
日本福祉教育・ボランティア学習学会第23回長野大会in信州うえだ 
開催地:公立大学法人 長野大学, 2017年12月3日

(論文)
安倍 潤子,宇坂 徹,片山 達也,廣田 そよか,西山 樹,佐野 友香,仁木 智輝,高橋 眞琴
「福祉教育授業モデル動画コンテンツの作成 −ラーニング・コモンズの活用を手がかりに−」
鳴門教育大学情報教育ジャーナル No.15 (1) pp.1-6 ,2017 年12月
http://www.naruto-u.ac.jp/journal/info-edu/j15001.pdf
で閲覧可能(閲覧日:2018年2月20日)

高橋 眞琴,小澤 稜一郎,小澤 訓代,吉田 健一,横山 由紀,原田 茉耶,吉見 ふみか,伊東 なゆみ,村川 和生,桑原 遥,田中 淳一「交通バリアフリーに係る福祉教育授業モデル動画コンテンツの作成 −本人の参画を中心として−」
鳴門教育大学情報教育ジャーナル No.15 (1) pp.7-13 ,2017 年12月
http://www.naruto-u.ac.jp/journal/info-edu/j15002.pdf
で閲覧可能(閲覧日:2018年2月20日)

 

図1 DVDジャケット

図1 DVDジャケット

図2  DVD同封資料

図2  DVD同封資料

バリアフリー設備のご紹介

バリアフリー設備のご紹介

実績報告

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