バリアフリー推進事業

平成28年度 成果報告

研究助成名

自転車の歩道通行が障害者のバリアフリーに与える影響

研究者名

岩手県立大学 元田 良孝

キーワード

視覚障害者、自転車、歩行

研究内容

(研究目的)
障害者と歩道上の自転車の関係について基本的な知見が不足しているため本研究では実態を捉えることを主な目的とした。

(研究手順)

障害者のタイプにより歩道上の自転車に対しどのような受け取り方の違いがあるかを知るために、
車いす利用者、聴覚障害者、視覚障害者にヒアリングを行った。この結果最も大きな影響を受けているのは視覚障害者であることが判明した。このため本研究では視覚障害者を対象とし基礎的な観測実験を行った。

(研究成果)

  1. 1. ヒアリング
    ヒアリング調査を以下の通り行った。
  2. 車いす利用者 平成29年2月2日 N氏男性87歳、文京区在住
    聴覚障害者  平成29年8月22日 A氏男性75歳、文京区在住
    視覚障害者  平成30年2月8日 O氏男性65歳(弱視)、N氏男性65歳(全盲)、Y氏男性50代(弱視)いずれも福岡市在住
    平成30年2月15日 N氏女性73歳(全盲)、K氏男性64歳(弱視)

    ヒアリングの結果、最も深刻なのは視覚障害者であり、歩道を走行する自転車、駐車している自転車に衝突する機会が車いす利用者、聴覚障害者より多いと考えられる。特に視覚障害者の歩行に不可欠な白杖を自転車に折られる被害がある。
    以上のことから障害者として視覚障害者を選び、次に述べる歩行観測実験を行った。
    具体的には、視覚障害者の被験者に歩道を歩いてもらい、それを後方から追尾してビデオ撮影を行い、映像からすれ違う自転車や歩行者との関係を明らかにした。
  3. 2.歩行観測実験
    歩行観測実験では視覚障害者の被験者に歩道を歩いてもらい、それを後方から追尾してビデオ撮影を行い、映像からすれ違う自転車や歩行者との関係を明らかにしようとした。
    被験者は3名でいずれも全盲者である。2017年8月に東京都文京区内の道路で歩行実験を行った。
    歩行経路は1.4〜2.4kmであり、2名は単独歩行、1名はガイド付きの歩行である。ビデオから読み取る項目は次の通りである。
  4. 1)対自転車・歩行者共通
    相手、すれ違い時刻、性別、外見からおおよその年代、対面・追い越しの別、すれ違い位置(右側か左側か)、すれ違い時の最小距離、最小距離の被験者部位、最小距離の相手方の部位、進路変更の有無、周囲の状況(人・自転車の多さ)、その他特記事項
    2)対自転車のみ
    自転車の種類、減速の有無(ペダルをこいでいるかで判断)、すれ違い時走行状態(直進か、転回か、車体の傾きで判断)
  5. (1)すれ違い者数
    すれ違い者数は3人合計で、自転車109人、歩行者335人、その他4人の計448人となった。
  6. (2)すれ違い車の属性
    移動手段は歩行者75%、自転車24%で、性別は男女ほぼ半数、年代は成人が96%であった。自転車の種類は生活車が80.7%と大半で、あとはクロス・ロードバイク、小口径車であった。
  7. (3)すれ違い時の方向・位置
    すれ違い時の方向は対面が86%と大半であった。すれ違う位置は被験者の歩行位置により異なっていた。
  8. (4)すれ違い時の最小距離の部位
    被験者側ですれ違うときに相手と最も距離が近くなるのは「肘」が85%と最も多い。相手側の部位は歩行者では同様に「肘」が60%と多いが、自転車では「ハンドル」が73%と最も多くなる。このことは自転車とのすれ違い時に被験者の「肘」と自転車のハンドルが接触する可能性が高いことを示している。
  9. (5)すれ違い距離
    すれ違い時の被験者と相手との最小距離を測定した。事前に被験者の肩幅を測定し、画面上の距離を計算するものである。結果を下図に示すが単独歩行のA氏・B氏は自転車のほうが歩行者より距離をとっている。一方ガイド付き歩行のC氏は自転車と歩行者の距離は変わらないが、距離そのものはA氏・B氏より大きい。このことはガイドが積極的に回避を行っているものと考えられる。
  10. (6)すれ違い相手の被譲行動
    すれ違い時に被験者を見て進路を変えたかどうかを見たところ、歩行者も自転車も三分の二は被譲行動をとっていなかった。
  11. (7)すれ違い時の自転車の減速行動の有無
    すれ違い時に自転車が減速しているかどうかを、ペダルをこいでいるかどうかで判断した。その結果、約8割は減速行動をとっていなかった。
  12. (8)すれ違い時の転回の有無
    すれ違い時に自転車が直進しているか転回しているかを自転車の傾きで判断した。その結果85%が直進をしていた。
  13. 3.結論
    (1) 障害者の内歩道上の自転車の影響を最も受けていると考えられるのは視覚障害者である。
    (2) すれ違いの方向は対面が圧倒的に多い。自転車からは白杖が見えるので視覚障害者と認識することが可能である。より遠くからも存在が分かるような工夫(ライトの点滅など)が安全性を向上させると思われる。ただしライトの点滅は弱視者に障害となる場合があるので注意が必要である。
    (3) すれ違い時の最小距離の被験者の部位は肘が最も多く、自転車ではハンドルが最も多かった。このため視覚障害者の肘と自転車のハンドルの接触が多いものと考えられる。肘にサポーターをすること、自転車のハンドルグリップの改良により衝突時の衝撃を和らげることが可能と考えられる。
    (4) すれ違いの距離は単独歩行の2氏の場合自転車の方が歩行者より距離をとっていた。自転車の速度と不安定性を考慮して歩行者より離隔をとっているものと考えられる。ガイドが付いたC氏の場合、自転車、歩行者とも単独歩行者より離隔が大きかった。これはガイドが積極的に回避行動をとっているためと考えられる。
    (5) 歩行者自転車ともに被験者に避譲行動をとったのは三分の一と少数であった。それ程広くない歩道で視覚障害者に対し避譲行動があまり見られないのは問題である。

 

すれ違い距離

すれ違い距離

バリアフリー設備のご紹介

バリアフリー設備のご紹介

実績報告

成果報告会