バリアフリー推進事業

平成28年度 成果報告

研究助成名

交通バリアフリーにおける障害当事者参加によるアクセシビリティ改善策の実効性に関する研究

研究者名

国立大学法人宇都宮大学地域デザイン科学部社会基盤デザイン学科 大森 宣暁

キーワード

アクセシビリティ、当事者参加、障害当事者団体、PDCA、実効性、情報

研究内容

(研究目的)
本研究は、鉄道事業におけるバリアフリー化を対象として、計画や設計段階における障害当事者の参加型の取組みによるアクセシビリティの向上を定性的・定量的に検証し、障害者を取り巻く物理的バリア緩和のためのアプローチを明らかにすることを目的として実施した。

(研究手順)

調査手法としては、文献調査、事例調査(現地調査含)、関係者分析(インタビュー調査含)を用いた。
調査対象としては、法令が整備され、バリアフリー化が推進されだした1990年代からの各年代において最も障害当事者参加の取り組みが優れていると考えられる以下の三プロジェクトを選定した。各路線の選定理由は、アクセスが高いとして評価されている路線であること、1990年代・2000年代・2010年代と各10年おきのものであること、別地域であること、当事者参加が認められること、内閣府表彰バリアフリー表彰等を受けていること、から選定した。(括弧内は開業年)
@ 阪急伊丹駅アメニティターミナル事業(1998)
A 福岡市営地下鉄七隈線(2005)
B 仙台市営地下鉄東西線(2015)
 上述の為に本研究による第一フェーズと別途実施する第二フェーズを行う。第一フェーズにおいては、基礎的な情報収集を行い、取組に関する定性的な評価を行う(本報告書)。第二フェーズでは、アンケート調査を中心にした定量的なデータを得て、様々な工夫が利用者によってどのように認識、利用、評価されているか、を図る予定である(別研究を実施予定)。
(研究成果)

  1. 本研究の目的は、市民参加型・当事者参加型の取り組みを通して優れた工夫を行っている好事例の定性的・定量的評価を行うことにある。今次の研究はそのうちの定性的な部分の調査を実施した。

本研究を通じて明らかとなってきたことは以下の通りである。
 第一に障害当事者参加の取組みはアクセシビリティの取組みの改善に重要な役割を果たしているということがわかった。第二に法令順守については、それぞれの事業で異なるアプローチを行いつつ、1990年代には基準を作り出す、2000年代には更にレベルアップさせる、2010年代にはその最高水準を目指す、という流れと纏められる。第三に各路線の創意工夫の提案者の特定については、明確にすることは難しかったが、関係者の協議の中の協業の結果として、アクセシビリティの改善策が出来上がっていったと考えられる。第四に事業者・行政の姿勢については、今回の事例ではいずれも事業者・行政と当事者とは、何らかの下地があった上で協議が行われている。第五に障害当事者団体の動きについては、歴史的な障害当事者団体側の運動がそれぞれの背景にあることがわかった。第六にプロジェクト間のPDCAについては、事業者間やプロジェクト間のPDCAやスパイラルアップが実際に行われている。第七に技術の進歩についてはニーズに対して対応できるかは大きく影響する。第八に社会の受容については、バリアフリーに関する社会の受容も大きく進んできている。第九に四つのバリアについては、どれが外出促進のための課題・バリアとなっているかについては、今後のアンケート調査によって明らかになってくるが、物理面でいえば三事業ともその時点においては国内最高レベルの施設であったことといえよう。第十に当事者参加の満足度については、三事業の事業者側も障害当事者側からも、満足度は高く、可能な限りオープンな取り組みとして、丁寧な対応を行っていること、が重要と考えられる。第十一に外出の頻度・QOLの変化については、三路線のバリアフリーの取り組みの実効性およびその外出頻度やQOLへの寄与等の検証の余地があり、第二フェーズでのアンケート調査を実施する意義はある。第十二に課題については、必ずしも三事業で当事者の全ての要求が満たされたわけではない。しかし、それでも関係者には納得感があった。プロジェクト内のPDCAにより適切な対応をしていくことを願う。
 上記より、本三事業の取組みにおいて、定性的な側面においては障害当事者の参加によって、アクセシビリティは改善されてきていると捉えてよいであろう。しかし、それは単に障害者が会議等に出席をしたり、意見を述べる、ということに留まらず、その背景にしっかりとした意志を持った当事者なり、障害者運動なり、リーダーなりがいることと、幅広い障害者等のニーズを的確に示すことができることや伝える場があること、意志と知識と戦略を持っていることが必要であろう。本三事業はそれらが満たされていた。
 今後、第二フェーズでのアンケート調査では、これらの精査をしつつ、過去と現在の公共交通機関の利用頻度に関する調査項目も入れて意識調査の一環として調査を行い、これまでに存在してこなかったデータを得ることを目指す。

 

好事例:阪急伊丹駅、福岡七隈線、仙台東西線

好事例(阪急伊丹駅、福岡七隈線、仙台東西線)

バリアフリー設備のご紹介

バリアフリー設備のご紹介

実績報告

成果報告会