バリアフリー推進事業

平成28年度 成果報告

研究助成名

下肢不自由者の移動支援ツールの提案に関する研究

研究者名

札幌市立大学大学院製品デザイン分野博士前期過程1年 安田 創

キーワード

雪道、車いす、モビリティ

研究内容

(研究目的)
昨年度まで、筆者は「下肢不自由者のための移動支援ツールの提案」という研究を行っていた。しかし、これまでの研究での提案はデザイン提案のレベルであり、特に走破性能についての検証と開発が足りていない。以上から、これまでの研究をもとに、実際の雪道での実動を想定した提案をする上での課題を明らかにすることを本研究の目的とする。

(研究手順)

車いすの前方に電動前輪をベースにしたパーツを取り付け、3輪のモビリティとして雪道走行を目指す。そのために、インホイールモーターを使用した実動モデルを制作し、雪道での実験を行う。その結果をまとめ、考察し更なる改善のための課題を見つける。

(研究成果)

  1. 1.道内企業との協働
     春から道内企業と協働して研究を進め、提案のコンセプトの練り直しと改善モデルの製作を行った。協力していただいたのは、道内の工業デザイン系企業である(株)ファシオネ様である。コンセプトを整理する際に市場調査を再び行うと、似たような外観の製品が近年多く登場していることが分かった。そこで他との差別化を図るために、本提案の最重要目標を「雪道を確実に走行すること」とし、日常生活でのユーザービリティなどの他の目標(取り外し可能であることなど)を一度忘れて雪道を走行するのにふさわしいデザインの検討を行った。(図1)その結果、ゴムクローラとタイヤを併用した一体型のモビリティ、noricoのデザイン案が完成した(図2)。

2.雪道走行実験
 学部の卒業研究で作成したモデルを使用した雪道走行実験では、以下のような結果が得られた。
・快適な雪道走行に必要なトルクを検討し、その条件を満たすモーターとギアボックスを作り直す必要がある。
・モーターの数やタイヤの数を増やすことを検討する必要がある。
・雪上を走行してもスリップや空回りしないタイヤを検討する必要がある。
 この結果から、スクーターを電動にする際に使用するインホイールモーターを使用し、パワフルな改善モデルの製作を行った(図3)。

3.実験結果
 製作したモデルを使用し、雪道での走行実験を行った。結果をまとめたものが下の表である(表1)。
 1日目の結果では、雪道での走行能力が足りていないように思われた。特に凍結した坂道ではタイヤがスリップし空回りしてしまい、途中から登ることができなかった。雪道でなくても傾斜がついている路面では力強く動いている様子は見られず、少し前輪が浮き気味であるように感じた。その様子から前輪にかかっている荷重が少なすぎることが原因ではないかと推測される。タイヤにかかる荷重が少ないと摩擦力が小さくなってしまい、スリップしてしまうためである。
 2日目の実験では、タイヤにかかる荷重を大きくするために、車いすの座面を前傾にし、体重が前輪にかかりやすいようにして実験を行った。結果は表の通りで1日目に比べて若干登坂能力が上がったように思える。しかし、やはり坂道発進は難しいという結果であった。通常の車いすでは走行が難しいやわらかい雪道での走行実験では、とても高い走破能力を確認することができた。段差を超える実験でも、日常生活で多い10cm程度の段差であれば走破可能であった。しかし、後輪が越えられないほどの段差では前輪で引っ張りきることができないということも分かった。

4.考察・結論
 今回の実験では、車いすの前方に動力タイヤを取り付けるという方法で、現状に比べて多くの状況で走行が快適になることが分かった。しかし問題点も多く、最重量物である乗員と動力タイヤが離れてしまうことでタイヤに十分な荷重が乗らず、摩擦力が足りなくなってしまうという問題が生じた。これを改善するには、バッテリー等の重量物を前方に移動させるか、乗員の体重がかかりやすい構造に変更する必要がある。
 それ以外にも、圧雪路面ややわらかい雪道と凍結路面やシャーベット状の雪道では、走行性能に大きな差が出てしまうことも問題である。現在はスタッドレスタイヤを使用しているが、それ以外の走行方法や、補助的な動力の検討などを行っていく必要がある。

 

コンセプト図

車椅子写真

車椅子写真

実験結果

 

 

バリアフリー設備のご紹介

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