バリアフリー推進事業

平成28年度 成果報告

研究助成名

高次脳機能障害者・失語症者に対するコミュニケーション支援ボードの有用性に関する研究

研究者名

国立障害者リハビリテーションセンター研究所 障害工学研究部・電子応用機器研究室 中山 剛

キーワード

高次脳機能障害、失語症、絵記号、コミュニケーション支援ボード、交通バリアフリー

研究内容

(研究目的)  

高次脳機能障害者ならびに失語症者に対する交通バリアフリーを促進させることを目的とする。主に公共交通機関の利用時を想定して、高次脳機能障害者ならびに失語症者が「他者とのコミュニケーションに困難を抱えた場面」を調査し、更に絵記号等から構成されるコミュニケーションボードが有効であるか検証する。

(研究手順)  

高次脳機能障害者・失語症の当事者ならびに家族や支援する専門職に対するヒアリングを実施し、絵文字、コミュニケーション支援ボード等の利用可否をテーマにして高次脳機能障害者・失語症者が公共交通機関の利用時に困ったことの調査を実施する。公共交通機関の利用時の観察やヒアリングを通じて、高次脳機能障害者・失語症者による絵記号、コミュニケーション支援ボードの利用方法やそれらに対する要望を纏める。
(研究成果)

 各種開発されている絵記号、コミュニケーション支援ボードの認知度と利用可否をテーマにして「高次脳機能障害者・失語症者が公共交通機関の利用時に困ったことの調査」を実施した。具体的な質問テーマは下記の通りであった。
・公共交通機関を利用する際の困った場面について(コミュニケーション関係を含む)
・コミュニケーション支援ボードの認知度と利用経験について(下記の6種類)
  ※(公財)交通エコロジー・モビリティ財団のコミュニケーション支援ボード 紙版、同デジタル版、
    横浜市のコミュニケーションボード(鉄道駅用)、ひろしましコミュニケーション支援ボード
    (公財)明治安田こころの健康財団のコミュニケーション支援ボード
    コミュニケーション・アシスト・ネットワーク(CAN) の「絵文字によるコミュニケーション」
・コミュニケーション支援ボードの利用の可否、利用場面、使用感について
・携帯電話、スマートフォン、タブレットの使用経験について
 NPO法人日本脳外傷友の会、NPO法人日本失語症協議会、NPO法人東京高次脳機能障害協議会ならびにその他の高次脳機能障害あるいは失語症の当事者/家族会へ協力を依頼した。6つの高次脳機能障害・失語症者の当事者・家族会にて内容説明を行い、意見を聴取した。更に補完的に作業療法士・言語聴覚士等の医療・福祉専門職からの意見も聴取した。
 その結果、コミュニケーション支援ボードの認知度はかなり低いことが示唆された。失語症者のために開発・市販化されたコミュニケーション支援ボードを挙げる当事者・家族・支援者が居たが、多くは例示した支援ボードの存在も知らない当事者・家族が殆どであった。また、様々な意見や要望が寄せられたが一部を下記に列記する。
 ・ 駅員に声をかけようと思ったが駅員がどこにいるか分からなかった
 ・ 記憶にとどめる時には紙に書いたものがあった方がいいと言えます。数分で消える記憶ですから今何を聞かれているかを思い続けるためにボードがあった方がいいです。ボードは記憶をとどめるために使いたいです。
 ・ 文字のみより絵もあった方が多くの人が使いやすい
 ・ 半側空間無視や注意障害があると長い文を読むのは難しい
 ・ バス乗車時にチャージする時、巧緻性が低いので1,000円札を器械に入れるのがうまくいかない。自分から「手伝って下さい」と言うように娘には伝えているが大きな声で言えない。そんな時に運転手さんにご自分から手を出して手伝ってほしい(高次脳機能障害者(失語症も併発)の親からのご要望)
・ 以前は地図を見なくても車の運転ができていたのに今は駅構内に入ると方向が分からなくなってしまいパニック状態になる。その状況で道具を使って人に助けを求めるのは難しい。今のままだと助けを求める場面では使えないし日常のコミュニケーションには不十分
・ 駅員に行先を聞いた際、「あっち」だとか「こっち」だとか言われても分からない、間違える
  このように数多くの高次脳機能障害者や失語症者が公共交通機関の利用時に困難を抱えていることが伺える結果となった。更に得られたご意見・ご要望を対象として、テキスト分析を行った。その分析結果の一部を図1から図3に示す。駅、行く方向が難しくて間違いやすいこと、聞くがなかなか通じないことが伺える。また、コミュニケーション支援ボードやその電子版は知らない方が多いが、欲しいという意見も出ていることが伺えた。
 また、実際の駅での電車利用時の観察では、高次脳機能障害者(失語症も併発)が一人で(とあるリハビリ施設)からの帰路、電車を間違えて、(とある駅)に行ってしまった。その際、駅員とコミュニケーションを計るが上手くいかなかった。その障害当事者が改札の駅員さんに連絡したが、その後「自宅へ戻る」を質問できず、家族と直接話すように携帯を駅員さんに渡したというケースもありました。
 実地では「ボードの運用では、当事者は自分で質問しにくいです」「窓口を多く設ける、気楽に話せる雰囲気などが大事」「当事者は最初の一声が出ない、常に大きな勇気が要ると思う」といった要望・意見も聴取された。
 ご協力頂いた高次脳機能障害・失語症の当事者・家族ならびに支援者に深く感謝する。

 

図1 電車の利用時に困ったこと(電車に乗るまでの問題-改札口からプラットホームまで)

図1 電車の利用時に困ったこと(電車に乗るまでの問題-改札口からプラットホームまで)

図2 コミュニケーションボード(電子版も)−認知度と利用経験

図2 コミュニケーションボード(電子版も)−認知度と利用経験

図3 コミュニケーションボード-利用の可否、利用場面、使用感

図3 コミュニケーションボード-利用の可否、利用場面、使用感

バリアフリー設備のご紹介

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