バリアフリー推進事業

平成28年度 成果報告

研究助成名

旅客施設のない町での市民提案型バリアフリー基本構想策定の実践を通じた住民・行政協働のあり方に関する考察

研究者名

NPO法人楽しいまちづくりの会 副理事長 藤村 安則

キーワード

バリアフリー基本構想、市民提案、住民協働

研究内容

(研究目的)
本研究では、バリアフリーに関する要望が挙がりにくく、基本構想策定がほとんど進んでいない旅客施設のない人口規模の小さな町を対象にして、市民提案型での基本構想作成が進むための知見を得ることを目的としている。具体的には、本研究申請者らが市民当事者の一員として参加し、市民による上牧町BF基本構想検討ワーキングの立ち上げ、さらに、町役場との協働により、具体的な基本構想策定の検討を実施する上でのプロセスに対する課題を明らかにし、小さな市町村での市民が提案しやすい手法について検討する。

(研究手順)

町民提案型バリアフリー基本構想策定の実践(提案)を通じて、そのプロセスや課題を明らにすることであり、実際の基本構想策定プロセスを踏みながら、課題の抽出を行い、実践的な手法で検討を進める。本検討では、下記に示すような移動円滑化基本構想策定の手順で、課題等の検討を進めた。
@ 害当事者を含め、協力者による上牧町バリアフリー基本構想ワーキングを立ち上げる。
 ワーキングのメンバーは、NPO法人職員、町社会福祉協議会(事業所通所者、障害当事者等)呼びかけメンバーを募集する。研究協力者(学識経験者)による、ワーキングに対する技術支援やアドバイス。
A 町内点検やワーキングを行い、課題の共有・発見を行った。
B 重要な課題に対し、ワーキングメンバーによる解決方策(案)をまとめた。
C それらを持って、行政への提案を行った。
ワーキングは、期間中3回実施している。
第1回:自己紹介、ワークショップ形式による町内のバリアフリー化に関する意見交換、2に分かれてまち歩き。
第2回:3班に分かれてまち歩きワークショップ
第3回:課題の取りまとめ、基本構想(素案)の作成
それらの結果を踏まえ、上牧町長にバリアフリー基本構想(素案)を上程した。

(研究成果)

  1. 1.課題抽出のためのワーキング(第1,2回ワーキング)
     基本構想素案作成に向けて、第1回ワーキング(平成28年10月7日)と第2回ワーキング(平成28年11月24日)に実施した合計4ルートの点検結果の整理から課題抽出を行った。4ルートの点検で抽出された課題を、@勾配、A側溝、B道幅、C縁石と段差、D障害物、E安全整備、F路面・舗装、Gその他の8つに分類した。各課題の代表例を示す。

    上牧町の現状の課題を8分類ごとにまとめると、以下の通りである。
    @勾配:斜面地で道路の勾配を変更しにくい箇所も多いが、歩道など改善できる箇所も多くある。
    A側溝:側溝のふたがない箇所や、大きな穴の旧式ふたの箇所も多い。こどもや車椅子がはまる危険がある。ふたを掛けることで、狭い歩行空間が少し広がることも期待できる。
    B道幅:道幅が狭い箇所が多い。歩道が狭い場所は、改善の検討が必要である。車道も含めて道が狭い場合は、車がスピードを出さないような工夫や注意喚起が必要である。
    C縁石と段差:歩道から車道に繋がる箇所の縁石段差が高い箇所が多数ある。歩行動線の段差を極力小さくなるように整備する。バス停は、バスの床とあわせて15pの縁石高さとなるよう配慮する。
    D障害物:看板・ゴミ捨て場など、設置位置が不適切なものは、場所を再検討する。植栽が障害となっている箇所も多く、住民も含めて定期的な管理を行う必要がある。
    E安全整備:点字ブロックの整備が多くの人が利用する施設への道でも途切れている。敷設ルールが不統一である。
    F舗装・路面:道がでこぼこしている、陥没している箇所が多数あり、危険である。
    Gその他:横断歩道で信号が無い箇所や必要と思われる右折レーンがない交差点がある。

8分類した課題の発見場所をまとめると以下の通りである。(下図)

2.ワークショップ(第3回ワーキング)
  高齢者・障がい当事者の参加で基本構想素案について議論
 第3回ワーキングでは、これまで2回の結果のまとめの報告、これらの結果から、上牧町バリアフリー基本構想(素案)に関して、意見交換会を行った。
 主な意見としては、ハード整備に難することは、多く挙げられているが、それ以外でも、自転車交通に関すること、心のバリアフリーに関すること、環境保全に関すること、学童・児童の安全に関することなど、様々なまちの課題が挙げられた。従来のバリアフリー基本構想は、障害当事者の意見を中心とした、ハード整備の事業計画の策定が多くなっているが、小さな町での特徴としては、多岐にわたる町の課題を住民同士が共有できた。

3.バリアフリー基本構想(素案)
以上、これらの結果を踏まえ、市民提案によるバリアフリー基本構想(素案)を作成した。ここでは、それらの目次を記載する。
第1章 基本構想の概要
第2章 上牧町の現況
第3章 重点整備地区における基本方針
第4章 重点整備地区の位置・区域
第5章 生活関連施設・生活関連経路の設定
第6章  実施すべき特定事業等
第7章 今後の取り組みの方向性
29年度以降、行政との協力体制を築き、上牧町BF基本構想策定専門委員会を立ち上げる。

4.まとめ
 本研究は、バリアフリーに関する要望が挙がりにくく、基本構想策定がほとんど進んでいない旅客施設のない人口規模の小さな町を対象にして、市民提案型での基本構想作成が進むための知見を得ることを目的とし、本研究申請者らが住民当事者の一員として参加し、住民による上牧町BF基本構想検討ワーキングの立ち上げ、具体的な基本構想策定の検討を実施した。
 以下、本研究の成果と課題をまとめる。
・ 上牧町は、鉄道駅がないため、町の中心は町役場付近となる。そのめた、重点整備地区としては、町付近の図書館、病院、学校等が存在する地域を選定した。しかし、これまでの調査から、鉄道駅付近でないため、必ずしも生活の拠点を重なるわけではない。そのため、このような小さな町では、居住地区も重点的な整備対象として、順次計画策定が必要であることが挙げられる。
・ 今回は、行政主導でなく、住民主導で基本構想(素案)を作成した。3回のワーキングを開催し、まち歩き、意見交換会を実施した。課題としては、町や社会福祉協議会等にも協力を得たが、障害当事者の少なかったことである。今回は、肢体不自由者や聴覚障害者からの協力は得られたが、視覚障害者やその他の障害のある人の協力は得られておらず、多様な障害者の意見を聞くことができなかったことが、課題として挙げられる。
・ 今回、住民主導でバリアフリー基本構想の策定を試みたことにより、まちのバリアフリー化以外の様々な課題を住民同士で共有することができた。自転車交通に関すること、子育てに関すること、学童・児童に関すること、環境保全に関すること、心のバリアフリーに関することなど、様々なまちの課題が挙げられて。従来のバリアフリー基本構想は、障害当事者の意見を中心とした、ハード整備の事業計画の策定が多くなっているのに対し、今回は、障害当事者が少ないこともあるが、まちの生活者としての視点からの意見が多くなり、これらを基本構想に組み込んでいくことが重要となる。

 

8分類した課題の発見場所

8分類した課題の発見場所

バリアフリー設備のご紹介

バリアフリー設備のご紹介

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