バリアフリー推進事業

平成28年度 成果報告

研究助成名

知的障害児の交通ルール学習装置の開発(交通学習におけるバリアフリー化を目指して)

研究者名

金沢大学人間社会学域学校教育学類附属特別支援学校 吉岡 学

キーワード

交通安全教育、特別支援学校、知的障害児

研究内容

(研究目的)  

本研究は、全国の特別支援学校に在籍する知的障害児に対して交通安全教育の実施の有無、目的、指導方法・期間、問題点等についてアンケート調査を行い、知的障害児の交通安全教育の現状を明らかにすること。また、そのアンケート調査の結果に基づき、知的障害児に適した交通安全教育システムの開発及び実践評価、指導方法の確立をすることを目的とした。 (研究手順)  

第一に全国知的障害特別支援学校で実施されている「交通安全教育」についての取組の現状や取組を推進する上での課題等を把握し、今日の知的障害児・者の交通安全教育の在り方について検討するための基礎資料を得るために全国知的障害特別支援学校に対し「知的障害児・者における効果的な交通安全教育に関するアンケ−ト調査」を実施した。また、第二に、その実態調査結果に基づき、知的障害児・者が自立した日常生活及び社会生活の実現につながるような効果的な交通安全教育システムの開発を行った。

(研究成果)

"1.アンケート結果について  知的障害児に対する効果的な交通安全教育を実施するという観点からみれば、各児童の障害特性に応じた適切な教育目標を定め、交通安全教育を実施していく必要があるとともに、交通事故を未然に防ぐための知識と判断力、行動力につながる教育を実施していくことが必要である。そのため、具体的には、児童生徒自らが一般の交通に関する事に興味・関心を持ち、加えて自分自身が困った際に適切に援助を求められるようにそれぞれの特性にあった援助方法を身に付けることができる教育内容が望ましい。特に「認知」と「感情制御」の2つの観点において定常発達児より遅れがある知的障害児においては、それぞれの発達段階及び障害特性に応じた教育を実施することが必要であり、具体的には小学部段階においては出来るだけ現実場面における実体験を通して基本的要素を楽しく、繰り返し実施していくような教育が、中学部及び高等部においては現実場面における実体験を通して困った際に適切に援助を求められるように自ら考え行動ができるような教育が必要とされる。一方、現在の特別支援学校(知的障害)での交通安全教育の実態についてみると、本研究で実施したアンケート調査によれば、交通安全教育を実施している学校は9割以上に上っており、交通安全教育自体は幅広く実施されている。しかしながら、その具体的な教育内容についてみると、警察等と連携した実技指導による交通規則の理解や通行及び横断に関する内容やビデオ・紙芝居・人形劇等による交通安全に関する意識喚起のための内容が多く占めている。 このように特別支援学校(知的障害)での交通安全教育は、年数回だけ基本的な交通安全に関する知識(例;信号機の見方、道路の横断の仕方など)を体育館や校庭に模擬の信号機や横断歩道をつくり、そこで道路横断などのシミュレーションを警察等と連携して体験する場を児童生徒に与えるだけで、その後における現実場面による学習を通して障害のある児童生徒等が、自ら安全に行動するための力(冷静に物事を判断する力、話し言葉によるコミュニケーションや表情や身振りによるコミュニケーションできる力、コンピュータなどの情報機器や文字カード・絵カードなどの道具を使ってコミュニケーションできる力など)を一人一人のニーズに対応した技術や能力などの育成を図ることが必要であり、学校生活や社会生活の中で安全に行動できる態度を身に付けていくことができるような教育プロセスが省略されてしまっている現状は、改善すべき点であると考えられる。 "

  1. 2 交通安全教育システムの開発
    (1)開発の目的
    本研究では、知的障害児が交通安全教育を効果的に学習できるシステムを開発することを目的とする。
    (2)知的障害児の交通安全教育の要件
    全国知的障害特別支援学校に対するアンケート調査結果により以下のことが明らかになった。知的障害児・者に求められる交通安全教育とは、現実場面(地域)における交通安全に関する学習を通して障害のある児童生徒等が、障害に応じたコミュニケーション技術で他者に援助を求める力の育成、一人一人のニーズに対応した危険回避ができる技術や能力などの育成を図ることで学校生活や社会生活の中で安全に行動できる態度を身に付けていくことである。
    (3)効果的な交通安全学習システムの要件
    知的障害児の効果的な交通安全教育を実現するためには以下のシステムの要件が必要である
    ・ 交通機器(信号機など)が現実場面に近いシステムであること
    ・ 学校内で地域の交通環境を簡単に再現できるシステムであること
    ・ いつ、どこでも繰り返し使用できるシステムであること
    ・ 複雑なシステムでなく、どの学校でも、専門的な技術が無くとも活用できるシステムであること
    (4)効果的な交通安全学習を行う学習形態
    本研究では、上記の交通安全学習システムを使い、効果的な学習形態を構築した。その学習形態とは、学習導入時にシミュレーション学習を行い、次に現実場面における体験学習を通して技術と知識を繰り返し学習し、最後に、振返り学習を通して現実場面で得た技術と知識の定着を図ることにした。また、この学習の過程においては、障害特性に応じた教育支援を組み合わせることで知的障害児・者に対して効果的に交通安全学習が出来るものとした(図5)。

 

図1 交通安全教育の実施状況

図1 交通安全教育の実施状況

図2 交通安全教育の主な実施時期

図2 交通安全教育の主な実施時期

図3 主な交通安全教育の実施理由

図3 主な交通安全教育の実施理由

図4 主な交通安全教育の主な課題

図4 主な交通安全教育の主な課題

図5 効果的な交通安全学習形態

図5 効果的な交通安全学習形態

図6 交通安全学習システム

図6 交通安全学習システム

図7 交通安全学習システムでの学習風景

図7 交通安全学習システムでの学習風景

 

バリアフリー設備のご紹介

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