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バリアフリー推進事業

平成27年度 中間報告

研究助成名

高齢者の外出・移動・公共交通アクセス及び身体活動に対するバリアー解消のための自転車活用の可能性に関する研究

研究者名

株式会社三井住友トラスト基礎研究所 研究理事 古倉 宗治

 

研究内容

1.本研究の目的
高齢化社会を迎えて、高齢者の買物難民、医療難民、引籠り等が問題になっており、また、高齢者が自らの健康の増進、生活習慣病・介護の予防等のための身体活動の確保が必要となる(厚生労働省の生活習慣病、認知症の予防等のため定めた「健康づくりのための身体活動基準」)など健康医療福祉のまちづくりが喫緊の課題となっている。これらに対処するためには、高齢者の外出・移動・公共交通アクセスに対するバリアーや健康増進等のための身体活動を行うことに対するバリアーを解消する方策が必要不可欠である。そこで、高齢者の外出・公共交通へのアクセスのための中距離の移動の手段と健康増進、生活習慣病等の予防のための手軽な手段を同時に確保することができる唯一の方法として、電動アシスト付きを含む自転車の活用を提案し、これについて、現実的に十分可能性があり、かつ効果的であることを明らかにし、高齢者の安全安心な「健幸都市」※の推進に寄与することを目的とする。 ※「健幸都市」総務省「Smart Wellness City」をいう。

(2. 本研究の流れ

本研究は、平成27年度においては、高齢者等の市民に対する自転車の利用実態、利用意識等について、先行研究が実施された袋井市民を対象にアンケート調査を実施し、集計する。これを受けて、平成28年度においては、このアンケート結果を分析するとともに、別途実施されている袋井市の高齢者に対する電動アシスト自転車貸付事業の実施対象者全員に対して、アンケート調査を実施し、かつ、その中から一定の人数を絞り、より具体的な内容についてのヒアリングを実施する。その内容は、従前との行動範囲や自転車やクルマの利用状況、心身の健康状況等をアンケート調査及びヒアリング調査を実施し、実際に電動アシスト自転車を利用した人に対して、利用前と利用後の状況や評価を明らかにするものである。

3.平成27年度の研究の概要

  1. 平成27年度においては、袋井市の市民で50歳以上の市民2,800人を対象にして、健康・生活習慣病・介護等の予防に対する意識、自転車の利用実態、健康等のための自転車活用の可能性、今後のあり方等に関する意識をアンケート調査により把握した。本年度は、このアンケート結果を成果とするものである。なお、この結果の分析は、来年度における電動アシスト自転車貸付事業(袋井市実施)における電動アシスト自転車の利用者を対象にしたアンケート調査及びヒアリング結果と合わせて、高齢者の自転車利用の可能性や効果等に関して総合的に分析をする予定である。

    (1)アンケート調査の概要
    1)対象者
    50歳以上の市民(65歳上高齢者及び50歳以上65歳未満の高齢者予備軍)を対象
    2)日程
    @配布;平成27年10月20〜29日(金)
    A回収;平成27年11月1日(日)〜12月6日(日)
    3)配布回収方法
    @配布;@)自治会等を通じて直接配布、A)配達地域指定による郵送配布の2方法を併用
    A回収;郵送回収
    4)配布回収数及び回収率
    @配布数;2,800票(直接配布1,500票、郵送配布1,300票)、A回収数;845票、
    B回収率;30.2%
    C回答者の年齢;高齢者64.1%(前期高齢者40.6%、後期高齢者23.5%)であり、その他は34.1%である。

    4.研究結果の概要(アンケートの集計結果の概要)

     

    今年度の作業は、このアンケート調査の集計を主たる内容としているので、集計の概要を次にまとめる。

     (1)袋井市による高齢者の健康向上施策に対する関心

     市の実施している健康向上施策に対しては、回答者の71.8%が関心を示し (@+A)、関心がないとする割合12.2% (C+D)を大幅に上回っている。健康施策への高い関心が示されている。
  2. (2)自身の健康向上・生活習慣病・介護・認知症等の予防への関心
    また、健康向上・生活習慣病等の予防のために運動をしている人は56.2%で、半数以上が何らかの運動をしている。また、これと関心があり実行したい(22.6%)を合わせると、約8割近く(78.8%)が健康の向上、生活習慣病等の予防のための運動を実行し、または可能性を持つ。自身の健康向上や生活習慣病などの予防に対する関心が極めて高いことがわかる。 さらに、実行している又は実行したい運動(自由記入)の回答数では、次のような結果となっている。ウォーキングが一番多く、次いで、体操、散歩で、自転車は第4位となっている。「ウォーキング」と「散歩」や「歩く」の歩行系が285もある。高齢者層を中心とした市民がどのような運動を実施しているかが明らかになった。(回答者519、複数回答、%は回答者に対する割合)

    (3)1週間当たりの外出回数
    1週間当たりの外出回数の平均は7.5回で、手段別の平均の外出回数では、自動車が5.7回と最も多く、徒歩が2.9回、自転車が2.5回であり、自分の足で出かける合計の回数(徒歩と自転車の合計)は、自動車の半分に満たない。これにより、自動車での外出が多いことが分かる。なお、外出回数について、0回と回答した人は845人中で1人である(病気)。また、無回答の人が17人いるが、外出する目的については全員回答している(仕事8人、通院4人、買物3人、その他)ので、回答者の中では、まったくの引籠りの人はほとんどないと思われる。

    (4)歩いて行ける距離及び自転車で行ける距離
    高齢者(65歳以上)と非高齢者(65歳未満) の人の通常徒歩と自転車で行ける距離は、次の通りである。徒歩では、高齢者は非高齢者に比較して長いが、自転車では逆に非高齢者の方が長い距離である。いずれも大きな差はなく、高齢者の徒歩及び自転車の利用のポテンシャルは高い。これにより、高齢者が自転車を活用して身体活動する可能性が高いことがわかる。

    (5)一番多い交通手段(距離別)
    徒歩圏での移動手段は、徒歩が半分程度であり、次いで、車(自分で運転)、自転車の順となっている。自転車圏では、車(自分で運転)が半分弱(47.7%)であり、自転車は3分の1弱(32.3%)なすぎない。それぞれで行けると回答した距離でも、徒歩圏では、荷物(32.2%)、面倒(10.2%)、膝・足腰(8.5%)などの理由で、自転車圏では、荷物(23件)、天気(16件)、車が楽又は早い(9件)など理由で、それぞれ主に車を選択している(表の掲出はしていない)。車を選択する理由に荷物があることをあげる人が多いことが特徴であり、この対策を考えると車に依存することが少なくなると思われる。

    (6)外出に自転車を選択する際の良さ

     外出に自転車を選択するとしたら、どの点の良さを見るかについては、約6割(60.9%)が健康・生活習慣病の予防を選択している。次いでお金(45.4%)、手軽(42.4%)と続く。環境は約3割強(32.4%)と比較的少ない。自転車利用に対しては、健康面が一番重視されていることがわかる。
  3. (7)自動車運転で経験したこと(自動車運転者のみ)
    しかし、自動車の運転については、高齢になると様々な危険性が生ずるが、これについては、見落とし、気付きの遅れが34.1%で最も多く、反射神経(18.6%)が続く。特にないが41.0%であることを考えとる半数以上が何らかの危険な経験をしていることがわかる。

    (8)自動車の運転を控える場合に自転車利用の有無
    自動車の運転を控えるようになった場合に、自転車を利用するかどうかについては、これに対する回答者では、乗るようにしたい(39.7%)となるべく乗るようにしたい(29.9%)を合わせると、7割(69.6%)が自動車のあとを自転車も考えていることが分かる。 なお、自転車での最近の経験をきいたところ、回答者(389)のうち、自転車では、反射神経の遅さが一番多く(20.8%)、次いで見落とし・気付きの遅れ(12.6%)であるが、特にないが54.8%となっており、車に比較すると多い割合である。

    (9)高齢者の自転車利用についての考え方
    以上の質問のあとで、一般的な高齢者の自転車利用のあり方について質問をした。
    積極的に考えるべきとするのは、約半数(@+A、49.6%)であり、これに対して、控えるべきとするのは11.4%にとどまっており、積極的に考えるべきとするものが多い。どちらともいえない(26.6%)やあまり関心がない(3.0%)の層の動向が今後のカギではあるが、相当程度自転車利用促進の素地はあるといえる。 これに対して、車の利用の一部を自転車に乗り換えることを実行したいかについては、48.0%(@+A)が実行の可能性を示唆している。実行したくない(C+D)の10.5%を大幅に上回っている。一番多いどちらともいえない(32.4%)の層の今後にかかっている。今後は次のIの条件整備による自転車への転換を図ることが必要である。

    (10)今後の自転車利用の条件

     以上のような課題の解決のために必要な「自転車にもっと乗りたいと思うようになる条件」としては、自転車専用空間の整備が最も高く(78.2%)、次いで、坂道対応(55.9%)、高齢者でも倒にくい(45.0%)となっている。自転車の専用空間と電動アシスト三輪自転車の採用が重要なポイントである(荷物がたくさん積める(24.5%)もこれに関係する)。また、自転車の運転方法やルールの講習会(26.5%)、経済的な駐輪場の整備(24.7%)、健康志向等の必要性がより高くなる(24.3%)も一定は存在している。これらを参考にして、重点的なかつメリハリの効いた施策展開が望まれる。

    5.結論(中間)

    以上の集計結果は、次のようにまとめることができる。なお、アンケートの回答者は、ほとんどが高齢者(64.1%)又は高齢者の予備軍(50歳以上31.4%)であるので、これらを高齢者等と呼ぶものとする。

    1. 高齢者等は、市の実施する健康向上施策に対して7割が関心を持つとともに、8割が自らの健康向上、生活習慣病や介護の予防等のための運動の実施の意思を持っている。徒歩や体操、自転車等の運動を実施している。
    2. 高齢者等は外出回数が週7.5回程度であるが、この多くは自動車であり、徒歩や自転車はそれぞれ自動車の半分程度以下である。
    3. 高齢者は非高齢者に比較しても、日常徒歩で行ける距離および自転車で行ける距離は、あまり差がない(徒歩2km弱、自転車5/2-5.7km)。自転車による運動について十分の可能性を持っている。しかし、徒歩や自転車で行ける距離でも、相当割合が車を利用している(徒歩圏30.6%、自転車圏55.4%)。
    4. 高齢者等は、自転車の良さについては一定の理解を示しており、特に健康向上・生活習慣病の予防の健康面(60.1%)を、経済面(45.4%)や手軽さ(42.4%)よりも重視している。
    5. また、高齢者等は自動車の運転には、自転車よりも危険な体験をしていない人の割合が低く(41.0%対54.8%)、また、自動車の運転を控えるようになった後の移動手段として、7割程度(69.6%)が自転車を考えている。
    6. このようなことを背景にして、約半数(49.6%)が自転車利用を積極的に考えるべきとし、半数近く(48.6%)が、車から自転車へ乗り換えの実行を考えて
    7. いる。
    8. このために必要な条件整備として、約8割(78.2%)が自転車専用空間の整備をあげており、さらに坂道対応(55.9%)、転倒しない自転車(45.0%)、荷物の積載(24.5%、第六位)と電動アシスト三輪車等のレベル高い自転車の用意をあげている。インフラの空間とともに高齢者対応の自転車の提供が効果を発揮するものと理解される。
    9. 以上から、自転車利用による高齢者の健康向上・生活習慣病介護等の予防施策のポテンシャルは相当程度高いものと理解され、来年度において、実際にこれを利用した高齢者が得られた効果を明らかにすることにより、このことを確認する必要がある。

     

 

事業の流れ

アンケート概要

袋井市による高齢者の健康向上施策に対する関心

自身の健康向上・生活習慣病・介護・認知症等の予防への関心

実行している又は実行したい運動(自由記入)の回答

1週間当たりの外出回数

歩いて行ける距離及び自転車で行ける距離

一番多い交通手段(距離別)

一番多い交通手段(距離別)

外出に自転車を選択する際の良さ

自動車運転で経験したこと(自動車運転者のみ)

自動車の運転を控える場合に自転車利用の有無

自転車での最近の経験

高齢者の自転車利用についての考え方

車の利用の一部を自転車に乗り換えることを実行したいか

今後の自転車利用の条件

バリアフリー設備のご紹介

バリアフリー設備のご紹介

実績報告

成果報告会