バリアフリー推進事業

平成27年度 成果報告

研究助成名

日本版Travel Training(交通移動支援プログラム)の開発

研究者名

国立大学法人筑波大学 五味 洋一

キーワード

知的障害者 移動 Travel Training ニーズ 実態調査

研究内容

(研究目的)
知的障害児者は、その社会的な状況判断能力等の低さから道路交通環境下において安全面の課題に直面しやすく、特に単独外出の難しい知的障害者の場合、外出の機会そのものが抑制されてしまうことが指摘されている。そこで、本研究では、知的障害者の「移動」の自立を促進するための交通移動支援プログラムの開発に必要な基礎資料を収集することを目的とした。

(研究手順)

@国内の先駆的な取り組みとして、社会福祉法人シンフォニー(大分県)へのヒアリング調査を行い、A国外の先駆的な取り組みとして米国ニューヨーク州Dstrict75で行われている移動訓練(Travel Training)に関する文献的検討およびヒアリング調査を行った。また1東京都内に在住の知的障害者(の保護者)を300名を対象とした移動の実態と支援ニーズに関する質問紙調査を行った。調査は郵送法にて行い、132名から回答を得た(回収率:44%)。

(研究成果)

  1. 1)社会福祉法人シンフォニーへのヒアリング調査
    社福)シンフォニーで実施されているプログラムは、「就労継続支援B型事業所」の利用者を主たる対象とした自力通所の支援プログラムであり、特にバス車に焦点を当てた短期集中型のプログラム構成となっている。@事前評価シートに基づく乗車スキルの確認、Aルートの検討と関連する情報収集、B乗車プランの作成、C記録に基づく評価を主な軸とするプログラムであり、29名を対象とした乗車実験からは、10回程度の訓練で多くの対象者が単独での乗車が可能になることが示された。
  2. 2)ニューヨーク州District75へのヒアリング調査
    Travel Trainingは、障害のある生徒が安全かつ自立して公共交通機関を利用して目的地まで移動できるよう指導するプログラムである。対象は、主に移行プログラムを受ける15歳から21歳の障害のある生徒(視覚障害を除く)のうち、IEP(個別教育計画)でTravel Trainingプログラムを受けることになった者である。単体のプログラムではなく、より幅広い一般的な交通教育や、移動の機会の充実と組み合わされた階層的なシステムの一部として考えられていた(下図)。
  3. 分析対象となった131名の知的障害者の「移動」に関連するスキルの状況を見ると、漢字や平仮名で書かれた情報(例:駅名、案内表示)を読み取るのに苦労しているほか、時刻表を読むなどの数に関する能力に難しさがあることがわかった。また、コミュニケーション能力に関しては、特に複数のこと同時に言われるような複雑な指示の理解や、困ったときに助けを求めることが苦手であることがわかった。
     成人(18歳以上)になった現在、約77%の人が支援者や家族が同行することなく、一人で施設まで通所をしていた。成人期に単独で通所できるかどうかに影響を与える要因はさまざまであったが、特に「子どもの頃から通学などの機会に移動の練習をしていた」人はそうでない人の約2.8倍、そして「散歩や回覧板を回す程度の近距離であれば一人で外出して戻ってくることができる」人はそうでない人の約3.8倍、単独通所できる確立が高かった。
     子どもの頃から現在までで「移動」について困ったことを自由記述形式で尋ねたところ、子どもの頃は急な飛び出しなどの対応に苦労していたほか、日々の送迎の大変さが際立っていた。高校生になるとほとんどの人が特別支援学校に通うようになり、7割程度の人がバスや電車を使って通学していた。この頃になると、公共交通機関を使う際のさまざまな不安が聞かれるようになり、特に運行トラブルのときにどうしたらよいかわからなくなってしまう等の、非常時に柔軟に対応することの難しさが多くあげられていた。また、ヘルプカードを知らない人とトラブルになった等、知的障害のある人に対する一般的な理解が十分でないことへの悩みも多く見られた。そうしたトラブルを経験して不安が強くなってしまい、電車に乗れなくなった事例についても報告があった。
  4. 以上のような結果を踏まえて、本研究では@子どもの頃から安全を確保しながら近距離(例:家の近所、学校の教室と職員室の間)を単独で移動する経験を重ね、次第に長い距離やバス・電車の練習をすること、A個別的なトレーニングばかりではなく、その前に十分にヘルパー等と一緒に移動する経験を積み、移動する環境への不安を取り除いたり、支援者との信頼関係を築いておくこと等を提案した。また、本人のスキルの獲得だけではなく、ホーム柵の設置などの安全対策や、知的障害者にわかりやすい表示を増やすなど、環境側からの歩み寄りの重要性についても指摘した。
     今後は、本研究で提案したような指導プログラムを実際に提供し、事例を通じてその効果を検証したり、プログラムの修正をしたりしていくことが重要であると考えられた。

 

 

図 Travel Training

 Travel Training

プログラム

プログラム

 

バリアフリー設備のご紹介

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