バリアフリー推進事業

平成27年度 中間報告

研究助成名

競技場・スポーツ施設利用時のアクセシビリティ向上に関する研究

研究者名

東京大学大学院 工学系研究科建築学専攻 准教授 松田 雄二

 

研究内容

(1)研究の目的)
 2020年に東京で開催されるパラリンピックでは、22種目の競技が20会場で開催されることが予定され、そのため文部科学省・国土交通省・東京都などが、各種ガイドラインや建築設計標準の整備を進めている。しかしながら、スポーツ競技選手の視点で、自宅から競技施設まで、連続的なアクセシビリティについての実態は明らかでは無い。
 本研究では、視覚障害者・聴覚障害者・肢体不自由者・知的障害者・発達障害者など、様々な主体を対象とし、自宅を出て何らかの手段で移動し、競技場・スポーツ施設を利用し、そして帰宅するまで、一連の移動経路を調査対象として、競技場・スポーツ施設を利用する際のアクセシビリティ向上に必要な要素を明らかにすることを目的とする。

(2)調査の概要)

本調査では、平成27年度は様々なパラリンピックに関連するスポーツ競技主体に関する文献調査と、それらの主体に対する競技場・スポーツ施設の利用時の課題に関するヒアリング調査を行った。平成28年度は、引き続きヒアリング調査・事例調査を行う予定である。
 なお、研究開始当初はアンケート調査の実施を予定していた。しかし、予備的なヒアリング調査を実施するなかで、対象とするスポーツ施設利用者、そしてその人々の利用する環境が極めて多様であることが、研究チーム内で認識された。このような状況において、網羅的なアンケート調査を行うことの意義に関し、その実施の有無を含め現在検討中である。

(3)調査結果の概要)

  1. 3−1)文献調査結果
     文献調査においては、日本におけるパラリンピックを中心とした障害者スポーツの発展の経緯、障害者スポーツ関連組織の発展の経緯、障害者の利用するスポーツ施設の整理を行った。結果の概要を以下に示す。
    ・障害者スポーツの発展の経緯:20世紀初頭より聴覚障害者・視覚障害者によるスポーツ大会の記録が見られる。第2次世界大戦後は、傷病兵の運動療法としてスポーツが取り入れられ、主に肢体不自由者を中心としたスポーツが広がりを見せた。その後1964年に東京パラリンピックが開催され、これを契機として障害者スポーツを取り巻く環境整備が進む。1998年には長野パラリンピック(冬期)が開催されるが、この頃には競技スポーツとしての性格が強くなる。そして長野パラリンピック以降は、次に述べる障害者スポーツ関連組織が統合されるなかで、2020年の東京パラリンピックへ向けた整備がなされている状況である。
    ・障害者スポーツ関連組織の発展の経緯:1963年、日本発の肢体不自由者を含む障害者スポーツ関連組織として、国際身体障害者スポーツ大会(東京パラリンピック大会)運営委員会が設置された。この後、この組織を引き継ぐ形で日本身体障害者スポーツ協会が発足、1975年には日本車いすバスケットボール連盟が設立され、当時唯一の肢体不自由者のスポーツ組織として、障害者スポーツを牽引してゆく。1980年代になると、各種スポーツ競技団体が設立され、1990年には日本身体障害者スポーツ協会は、知的・精神障害者を身体障害者のスポーツと統合した組織として、日本障害者スポーツ協会と改称、同時に協会内部に日本パラリンピック委員会(以下「JPC」とする)を瀬一致、以後JPCは障害者のスポーツとリハビリテーションの振興の発展に中心的な役割を果たしている。
    ・障害者の利用するスポーツ施設:障害者の利用するスポーツ施設を、大きく「地域の障害者スポーツ活動拠点」「各障害者スポーツ競技団体の拠点」の2つに分け、インターネットなどにて現状を調査した。結果、前者は各都道府県に少なくとも1施設は設置されていること、後者については公共・民間両者の施設が使われ、また競技種目・クラブチームのそれぞれに拠点となる施設があることが判明した。

    以下、競技団体組織が開設しているホームページ等より確認できた、直近の国内大会の開催施設等を示す(表1)。

    3−2)ヒアリング調査結果
    3−2−1)調査協力者の概要
     本調査では、競技団体関係者1名、競技者6名の、計7名より協力を頂いた。調査協力者の概要を示す(表2)。JPC職員である事例Aをのぞき、全員が競技者としてスポーツを行っている。
     事例Aは、競技者への調査に先立ち、障害者スポーツの現状と課題に詳しい知識を持つJPCの職員に協力を依頼し、ヒアリングを行った。事例BからHにおいては、1)障害や年齢等の基本的な属性、2)普段実施しているスポーツの概要、3)スポーツ施設利用時の移動形態と課題、4)スポーツ施設利用時の利用形態と課題、5)その他の、5項目について、半構造化インタビュー手法によりヒアリングを行った。また、事例D・Eは同時にインタビューを行う形式で調査を行い、事例Fでは母親に対しヒアリングを行った。

    3−2−2)事例A(JPC職員)の調査結果の概要
     事例Aの調査結果を、「個別の障害者スポーツに関する事柄」「パラリンピックに関する事柄」に分類し、前者をさらに「障害者スポーツに対する認識」「各競技ごとの状況」「練習場所について」、後者をさらに「事前合宿」「宿泊施設」「サポートチーム」に分類した(表3、4)。

    3−2−3)事例B?Hの調査結果の概要
     まず、普段の移動の状況について示す(表5)。車いすを利用する競技の特徴として、競技専用の車いすが必要であること、そのため移動は自家用車中心であることがわかる。

    次に、各事例ごとに「課題」と「要望と工夫、優良事例」について、「場面」別に整理した(表6)。「場面」については、「在来線」「徒歩」などの移動の場面と、「競技施設」「宿泊施設」の2つの施設によって整理した。「競技施設」「宿泊施設」は、さらに言及されたヶ所に関し分類し、整理した。

    (4)これまでに得られた成果)

    上記の結果より、障害のある競技者がスポーツ施設を利用する際に、多くの課題が存在することが明らかになった。しかしながら、これはある意味で当然のことであり、本研究で目指すべきは、それらの課題の構造的な整理と、課題に対する具体的な解決策の提案である。
     現状では予備的な調査が終了した段階であり、そこまでの作業には残念ながら到底達していないが、それでもいくつかの手がかりとなる切り口が明らかになった。以下、列記して説明する。

    ・障害種別による「困りごと」の質の違い
    視覚障害者においては、すでに既往の研究で明らかなことではあるが、物理的な問題より情報的な問題が課題となる。ただし、「団体で行動する場合の集合場所」「ビュッフェ形式での食事」などの課題は、パラリンピックで特に問題となる事柄である。
    他方で、車いす利用者においては、車いすテニス・ウィルチェア−ラグビーなど、日常的に使用する車いすに加え競技用の車いすを使用する。この際、この競技用の車いすの移動や保管場所が問題となる。これは、これまで「段差解消」などが中心的であった車いす利用者のアクセシビリティ改善のための方策では、対応できない状況があることを示唆している。
    障害者スポーツという、極めて独特な文脈の中では、このように障害種別による「困りごと」の違いが、日常的な場面に比べまったく異なった形で発現することが、これまでの調査で明らかになった。

    ・地域性に関する課題
    北海道における調査では、降雪による駐車場のアクセシビリティの問題が、2名の調査協力者から指摘された。これは、パラリンピック開催時だけでなく、日常的な練習の場面において、冬期の課題を示しているものであるとともに、地域差によってアクセシビリティの問題が異なることが示された。

    ・「アドホックな」解決の可能性
    車いす利用者からは、「2・3名乗りの小型バスでの移動が良い」とのコメントが得られた。このような、即応性のある対応が、アクセシビリティを向上させる可能性がある。

 

表1 直近の国内大会等の開催施設

表1 直近の国内大会等の開催施設

表1のつづき

(表1の続き)

表2 ヒアリング調査協力者の概要

表2 ヒアリング調査協力者の概要

表3 個別の障害者スポーツに関する事柄

表3 個別の障害者スポーツに関する事柄

表4 パラリンピックに関する事柄

表4 パラリンピックに関する事柄

表5 各事例の移動の状況

表5 各事例の移動の状況

表6 各事例ごとの「課題」と「要望と工夫、優良事例」

表6 各事例ごとの「課題」と「要望と工夫、優良事例」

(表6の続き)

(表6の続き)

(表6の続き)

(表6の続き)

バリアフリー設備のご紹介

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