障害者の移動に関しては、障害者基本法 第二章 障害者の自立及び社会参加の支援等のための基本的施策(公共的施設のバリアフリー化)や高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー新法)において、必要な施設の整備や適切な情報提供が行われるよう求められている。
ただし国土交通省ホームページによると、「航空法、国際民間航空機関(ICAO)が決定した国際的なルール及び関係規則」が紹介されており、「リストに掲載されているもののうち運べるものであっても、安全が確認できず危険物と判断され、運べない場合があります。」としている。
このように法的に配慮が義務付けられているとはいえ、高齢者・障害児・者の足代わりとなる車椅子・電動車椅子を飛行機に預けることは、いまだ多くの課題が残されていると言わざる得ない。
そこで我々は、高齢者、障害児・者が、安全に・安心して車椅子・電動車椅子を航空会社へ預けられるように、また航空関係者は安全に安心して車椅子・電動車椅子を輸送できるように、航空関係者へ車椅子・電動車椅子の取扱いに関する情報提供の場として、「車椅子・電動車椅子セミナー」を開催してきた。
これらセミナーのアンケートに対する回答から、車椅子・電動車椅子およびその利用者に対する航空関係者らの立場や考えを以下の4点にまとめることができた。
1.車椅子・電動車椅子を利用者から預かり航空機で輸送する職員は分業制であり、それぞれが専門職。
2.航空機の利用に関して、車椅子・電動車椅子利用者に負担をかけていると理解している。
3.車椅子・電動車椅子の輸送には、何らかの不安を感じている。
4.車椅子・電動車椅子の破損を予防する梱包用具を求めている。
特に3.4.から、「手動車椅子の破損を未然に防ぐ搬送用梱包用具」および「どのメーカーのジョイスティック操作部にもワンタッチで取り付け可能な破損・誤差動防止用カバー」の研究開発をさらに継続して行うこととした。
(4.今年度の研究)
今回の申請助成研究では、これまでの試作品の評価を踏まえ、さらに取付容易で、強度にも優れ、軽量・コンパクトな車椅子カバーおよびジョイスティック操作部カバーを製作する。
また、できるだけ多くの航空関係者からの意見を聴取し試作に反映させることこそがより優れた製品開発に欠かせないことから、全国各地の空港において試作品に対する評価アンケートを実施する。
以上の工程のうち、今年度は航空関係者の意識調査(アンケート)、およびアンケート内容を反映した第3次試作までをおこなった。
4−1.航空関係者の意識調査
これまで開催してきた「車椅子・電動車椅子セミナー」のアンケート結果を示す。
2014年9月 中部国際空港(セントレア)での航空関係者向け「車椅子・電動車椅子セミナー」でのアンケートのうち、車椅子や電動車椅子の運搬について不安に思っていることがあるか?との問いについて、以下のような記述があった
・破損しないように,短時間で,運搬しやすく梱包するにはどうしたらよいか?
・電動車椅子のような重量物をどのように操作,搭載するか?
・バッテリーの種別をどうやって確認し,絶縁処理を行うか?
上記のほかには、空港関係者の不安材料として車椅子の操作方法や介助のしかたに関するものが多かった。
次に2015年2月 東京国際空港(羽田第1ターミナル)での航空関係者向け「車椅子・電動車椅子セミナー」においても同じ質問を行ったところ、以下のような記述があった。
・どのように折りたたむと良いのか確認する時に(お客様に)どこまでお伺いして良いのか?
・どれだけ梱包すれば壊れずに預かることが出来るのか毎回心配です。
また、車椅子カバーとジョイスティック操作部カバーの第2次試作については以下の記述があった。
・(第2次試作について)いつも梱包するのに時間がかかっていたのですごく有効だと思いました。
・キャリングケース(車椅子カバー第2次試作)は強度が心配。スイッチカバー(ジョイスティック操作部カバー第2次試作)は取り外しがもう少し楽だと良い(図2)。
以上の回答があったことから、試作を継続することの有用性が示唆された。
今年度は、平成27年11月16日(月)沖縄県那覇空港において開催された日本身体障害者補助犬学会主催 身体障害者補助犬受入れセミナーにおいて、会場の一部を借りて車椅子・電動車椅子を展示し、参加した交通事業者に対して自由記述形式で車椅子・電動車椅子に関するアンケート調査を実施した(図3)。
参加者は29名で、うち14名が航空関係者、8名が空港関係者、5名が行政担当者、2名がモノレール関係者だった。
このうち航空関係者・空港関係者の回答を抜粋し集計した。
「貴社では車椅子や電動車椅子の取扱い関する研修プログラムがありますか?」の問いに対しては、59%が「ある」、36%が「ない」と答え、5%が無回答だった。次に「車椅子や電動車椅子の取扱いで困った経験はありますか?」に対しては、41%が「ある」、41%が「ない」、18%が「無回答」だった(図4)。
研修プログラムの有無に関する問いでは「車椅子や電動車椅子に関する研修プログラムがない」と回答した参加者が「ある」と回答した参加者に比べて23ポイント少なかったが、羽田空港で実施した同じ内容の問いに対する回答が「ない」とした参加者は29%だったことから、那覇空港での車椅子・電動車椅子セミナーの実施の必要性を感じた。
また、「今後車椅子の取扱いについて学べるセミナーがあれば参加したいか?」の問いに対する自由記述として、以下のような記載が多かった。
・可能な限り参加したい。
・ 空港であれば参加したいです。
・少しでもお客様が安心していただけるような対応を心掛けたいので、もっとたくさん学びたいです。
・高齢の方も増えてきていますので、車椅子の案内と特徴的な車椅子の取り扱いなど。
・ぜひ参加したい、社内にも周知したい。
・基本的なお手伝いの仕方や利用している方がどのようなお手伝いを希望しているのかわかるセミナーがあれば参加したいです。
・したいです。たくさんの方が参加できるように。
自由記述においては、電動車椅子、特にバッテリーの取扱いに関する困り事が多く記載されていた。具体的には以下のとおりである。
・バッテリーの種類の見づらさ
・最新の車椅子(バッテリーなど)があり、確認に時間が要してしまうことがあること。
・バッテリーの受託時確認
・電動車椅子のバッテリーがドライなのかウェットなのか判断に迷ったケースがある。
・電動のことが全く分からなかった。
・航空機に搭載してもいい種類の電動車椅子のバッテリーかどうかの判断に時間を要した。
これらの回答から、今後はバッテリーの表示方法等に関する取り決めを業界団体を含めておこなっていく必要があるという、新たな課題を発見することができた。
4−2.第3次試作
今回の試作では、これまでの試作品の評価を踏まえ、さらに軽く、取り扱いやすく、強度にも優れた梱包用具の製作を目指した(図5)。
そこで、主材料をプラスチック段ボールから発泡ポリエチレンに切り替え、軽量化を図るとともに、耐衝撃性能も向上させた。
(5.今後の予定)
第3次試作では、軽く、取り扱いやすく、強度にも優れた梱包用具を目指した。
今後は、なるべく多くの航空関係者からの意見を聴取し試作に反映させることこそがより優れた製品開発に欠かせないことから、第3次試作を新千歳空港で評価してもらい、第4次試作をおこなう。
第4次試作の評価は伊丹空港で実施し、その後評価結果を反映した完成品の製作を行い、複数の完成品を協力航空会社へモニター使用を依頼し、現場での活用を開始するまでを目指す。
また、今回の研究助成終了後も協力航空会社との連携を保ち、車椅子・電動車椅子セミナーの場を通じてさらに梱包用具を告知し、完成品の普及に努める予定である。
これにより、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向け、国内や海外への移動に際し、おもてなしの心をもって梱包した電動車椅子が輸送されることで、高齢者、障害児・者の足代わりとなる車椅子・電動車椅子の破損が最小限に止められる効果が期待できる。