バリアフリー推進事業

平成27年度 成果報告

研究助成名

車椅子・電動車椅子の航空機輸送時の損傷を予防する用具開発

研究者名

横浜市総合リハビリテーションセンター地域リハビリテーション部研究開発課 主任 児玉 真一

キーワード

電動車椅子・手動車椅子 航空機 輸送 破損予防 梱包用具

研究内容

(開発目的)
電動車椅子・手動車椅子利用者が航空機を利用して移動する際に不安視しているのが、手動車椅子の部品やフレームの破損(図1)や、電動車椅子のジョイスティック操作部の破損である。通常は航空会社が汚れ防止のために、ポリエチレンフィルム製袋(以下、ポリ袋)等で包む等の処置(図2)や、電動車椅子の電源の誤起動が起こらないよう緩衝材(エアキャップ等)を巻きつけて保護しているが、これでは手間と時間を要す上に、十分な破損・誤作動予防策とは言い難く、包装材の経費もかかり、しかも再利用不可のため、経済的な方法とも言い難い。また車椅子カバーおよびジョイスティックカバーは、初期投資さえすれば顧客満足の向上につながり、航空会社にもメリットがあると考えられる。
そこで、繰り返し利用可能な手動車椅子搬送用梱包用具(以下、車椅子カバー)と、ワンタッチで取り付け可能で繰り返し利用可能なジョイスティック操作部カバー(以下、ジョイスティックカバー)の開発を行うことにした。これによって車椅子ユーザーが、航空機輸送による車椅子破損の不安から解放されることが目的である。

(開発手順)

  1. 平成28年3月22日の中間報告会で示した開発予定は以下の通り。
    1.航空会社や空港関係者へのアンケート調査を実施したうえで、電動車椅子・手動車椅子の空輸に関する実態調査を行う。
    2.電動車椅子・手動車椅子メーカーの各種車体・部品形状を確認しつつ、アンケート結果を参考に試作品を製作。
    3.航空会社や空港関係者に対して、試作品の使用感に関する評価の聞き取り調査を行う。
    4.2〜3を繰り返し、試作品の完成度を高め、完成品を製作し、主要航空会社へモニター品を貸与し使用を促す。

    しかしながら、ジョイスティックカバーの検討を第3次試作までともに進めていた日本航空鰍ゥら、平成28年7月に自社で簡易な損傷予防の手法を作り出せたため本研究で製作しようとする損傷予防用具は使用できなくなった旨、連絡があった。このため製作中だったジョイスティックカバーの第4次試作は、平成28年8月をもって製作を中断することとした。
    なお、車椅子カバーについては継続して研究を進めるための協力関係を維持するとのことで日本航空鰍ニ合意した。
    車椅子カバー開発の当初予定は、既に前年度開発していた第3次試作(図3)以降の第4次試作(図4)を平成28年5月までに製作し輸送実験を行った後、形式を最終決定し完成品を複数個製作するとしていた。
    これについては第4-1次試作まで製作した段階から、日本航空鰍フ現業部門職員(チェックインカウンター、空港内輸送部門等)との連絡会を試作品ごとに実施することができるようになったことから、平成28年8月以降の開発手順は以下の通りとした。
    1.実験用の手動車椅子を用意し、これまでのアンケートを参考にした車椅子カバーの試作品を製作。
    2.日本航空鰍ニの連絡会を実施し、試作品の使用感に関する評価の聞き取り調査を行う。
    3.連絡会での評価を元に、新たな試作品を製作する。
    4.上記2・3を繰り返し、試作品の完成度を高め、完成型の製作を目指す。
    日本航空鰍ニの連絡会においては、第3次試作製品から第5-1次試作製品(図5)まで、試作の都度多くの改善提案があり、予定以上に試作・実験に時間を要した。このため、現在のところ最終型の完成まで至っていない。
    ただし、第5-1次試作の評価がおおむね良好だったことから、着実に完成型に近づいていると言える。

    (結果と考察)

    空輸実験は、圧力測定フィルム(富士フィルム叶サ プレスケール 極超低圧用 ツーシートタイプ)を車椅子に張り、車椅子カバーで梱包したうえでポリ袋を掛け、通常の国内路線で運航中の航空機を利用して輸送し、その時に車椅子にかかった「圧力」と「ずれ」を測定することで車椅子カバーの性能を評価する方法で行った。
    結果、多くの圧力測定フィルムにおいて、ハンドリム・ブレーキレバー・フットサポート部に「圧力」や「ずれ」が発生していた。これは、我々が事前に実施していた手動車椅子ユーザーからのヒアリング調査において、破損が多い箇所として列挙された内容と一致していた。

    これら3か所に破損が多い理由を探り、手動車椅子を航空機に搭載するまでの経路を確認した。すると、折りたたみ式車椅子の場合、輸送時の安定性を担保するため、折りたたみ後は横倒しにして輸送されることがわかった。このため側面において最も外方向に突出しているハンドリムとブレーキレバーが外部から大きな圧力を受けることが、破損の一因であると推測できた。※フットサポートに関しては、車椅子の最先端部のため壁等への衝突による圧力が予想できるが、現状において原因は明らかになっていない。

    このことから車椅子カバーの必要性が高まったと考えた我々は、次に車椅子カバーの有効性を確認する実験を行うこととした。空輸における有効性の確認には、車椅子カバー装着した方がポリ袋のみでの空輸より、「圧力」や「ずれ」が小さいことを証明する必要がある。
    そこで圧力測定フィルムを用いた空輸実験を行った結果、車椅子カバー装着の方が圧力やずれが少ないことが確認できたため、車椅子の破損を防ぐには車椅子カバーの使用が有効であることが立証できた。

    次に我々は、車椅子カバーの材料・厚さ・形状について検討を行うこととした。

    【材料】一般的な輸送用梱包材の材料としては、ポリプロピレン製発泡ボード(以下、PP製発泡ボード)とプラスチック製段ボール(以下、プラ段)が検討の対象となった。
    空輸実験でこの2種を比較検討したところ、「圧力」に関してはプラ段の方がPP製発泡ボードより優れていた。ただし、圧力測定フィルムの顕色剤層の剥離箇所が、プラ段の方がPP製発泡ボードより多かった。この剥離は「圧力」と「ずれ」の両方が原因であることから、「ずれ」についてはPP製発泡ボードの方がプラ段より小さいことがわかった。垂直方向の「圧力」だけだとハンドリムやフットサポートの塗装面を傷つけることは少ないと考えられるが、これに「ずれ」が加わると塗装面の剥離につながる可能性がある。このことから破損予防に関して総合的に優れているのはPP製発泡ボードであると考えられた。

    【厚さ】「圧力」と「ずれ」をPP製発泡ボードの厚さで比較すると、15o厚の方が10o厚より「圧力」「ずれ」ともに小さかった。また、20o厚より10o厚の方が優れていた実験結果もあることから、総合すると3種類の厚さの中では15o厚が最も適していると考えられた。

    【形状】車椅子カバーにポリ袋をかけた空輸実験では、ハンドリムおよびフットサポートにかかる「圧力」「ずれ」ともに第5-1次試作(t=15)が最も小さかったことから、現場で車椅子を取り扱う日本航空叶E員が連絡会で述べた意見を反映した形状が最も優れていた。

    これらのことから、PP製発泡ボード(t=15o)を材料に用いて第5-1次試作の形状で製作した車椅子カバーを装着した折りたたみ式車椅子にポリ袋をかけて輸送することが、現在のところ最も合目的的な輸送手段であると考えられる。

    (研究成果)

    今回の2年度にわたる助成研究では、これまでの試作品の評価を踏まえ、さらに取付容易で、強度にも優
    れ、軽量・コンパクトな車椅子カバーおよびジョイスティックカバーを製作する。
     また、できるだけ多くの航空関係者からの意見を聴取し試作に反映させることこそがより優れた製品開発に
    欠かせないことから、全国各地の空港において車椅子・電動車椅子に関するアンケートを実施する。
     以上の行程のうち、今年度は航空関係者の意識調査(アンケート)、およびアンケート内容を反映した第3次
    試作までをおこなった。

 

図1 車椅子

図1.手動車椅子の部品やフレームの破損

図2 車椅子梱包

図2.通常の梱包状況

図3 第3次試作

図3.第3次試作

図4 第4次試作

図4.第4次試作

図5 第5-1次試作製品

図5.第5-1次試作製品

 

バリアフリー設備のご紹介

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