バリアフリー推進事業

平成26年度 中間報告

研究助成名

心のバリアフリーを推進するための組織とプログラムに関する研究(51-4)

研究者名

愛媛大学大学院理工学研究科生産環境工学専攻 教授 松村 暢彦

 

研究内容

(1.心のバリアフリーに関する事例の収集と分類)
(1)こころのバリアフリーの定義
 こころのバリアフリーを目指すにあたっては、バリアフリーに関する知識を習得・活用しながら,個人や社会にやさしい在り方を探求し,望ましいバリアフリー社会の実現に向けて自発的に働きかける能力の育成を念頭に置くこととする.より具体的には,学校教育で頻繁に用いられる「知識」「能力」「態度」の3つの観点から以下のように定義されるものとする。
 【知識】望ましいバリアフリー社会を実現するために必要な知識
  A)バリアフリー社会に関する一般的な知識
   ・生活と社会におけるバリアフリーの意義や働き
   ・バリアフリーに係わる行政・機関の働き,バリアフリーに係わる法や仕組み
  B)高齢者や障がい者等に関する知識
   ・高齢者や障がい者等の様子
  C)身のまわりのバリアフリーに関する知識
   ・身近な地域のバリアフリーの様子
 【能力】バリアフリー社会に関する知識を適切に活用しながら,人と社会の観点から適切に判断する能力
  A)自分とバリアフリー社会の関係性を調べたり,検討したりする能力
   ・バリアフリー社会や自分とバリアフリー社会のかかわりについて,必要な資料を収集・選択し,適切に    活用する能力
  B)バリアフリー社会に関する知識を適切に活用し判断する能力
   ・自分や身近の人々の行動が高齢者や障がい者などにも社会にも望ましいものになるためには,どの    ような行動や取り組みが必要であるかを考え,判断する能力
  C)高齢者や障がい者等の介助に関する能力
   ・高齢者や障がい者等が困っている状況において適切に介助するのうりょ
 【態度】:望ましいバリアフリー社会の実現に向けて自発的に行動しようとしたり,働きかけようとしたりする      態度
  A)社会的諸活動に主体的に関与し,貢献しようとする態度
   ・自分や身近な人々の行動が社会に望ましいものになるように自発的に行動しようとしたり,働きかけようとしたりする態度
   ・公共心,道徳心,市民性など
  B)日常生活のなかで主体的に関与し、貢献しようとする態度    ・日常生活のなかで高齢者や障がい者等が困っているときに自発的に行動しようとする態度

(2) 基本構想でのこころのバリアフリーの位置づけ
 市町村のバリアフリー基本構想は平成12年に交通バリアフリー法が制定されてからは受理件数が累計でH13年では15件からH25年では426件と大幅に増えている.そこで全国のバリアフリー基本構想のうち、インターネットで公開されているものについて、心のバリアフリーについて記述内容、特に実施内容について調査を行った。その結果、高槻市や神戸市のように、市役所内の部局横断的に取り組みが記載されている事例もあるが、多くは部局が限られていたり、主体が明記されていないもの多かった。取り組みのプログラム内容については、バリアフリー教室やワークショップが多く、心のバリアフリーの教育プログラムの多様化が求められていることが分かった.

  1. (3)心のバリアフリーの教育プログラム
    代表的なこころのバリアフリーの取り組みとして障がい者の疑似体験及び介助体験を実施する「バリアフリー教室」がある。そこでは介助体験だけではなく、当事者からの実体験にもとづいて話などから具体的かつ正確に加齢や障がいについて理解することを狙いにしている。このようにバリアフリー教室では障がいに関する「知識」や介助方法の「能力」を身につけるように設計されている.他にも、視覚障害疑似体験を活用した教育プログラやバリアフリーワークショップの体験学習でも知識や能力に関する習得に同様に重点が置かれており、態度の育成については検討が必要とされている。

(4)情動的メッセージによる態度行動変容の検証
 向社会的行動を研究対象としている心理学や社会心理学によると,「共感」が態度変容を生起させ、向社会的行動を動機付けるものとして着目されてきた.バトソンはスティグマ化された集団に対して,共感的配慮を感じることで,その集団に対する態度が変容することを示している.さらにバトソンらは,その共感的配慮の感情が行動にまで持ち越されることを実証している.そこで、共感を生起させると考えられる情動的メッセージによるバリアフリーに対する態度,行動におよぼす効果を検証することにし、愛媛大学学部生を対象としたアンケート調査を行った.障がい者自身による日常生活の思いを書いた作文を読む「情動的メッセージ群」と,今までの教育プログラムのような介助方法を情報提供する「介助方法メッセージ群」に分け,事前事後,群間で比較し,情動的メッセージの態度面での効果特性を把握した.
 心のバリアフリーの態度・行動・変容を把握するにあたり,予定行動理論,規範活性化理論,共感理論を適用した(図-1).また、用いたメッセージを図-2に示す。

群別に指標の変化を図-3に示す.その結果、態度の項目において,介助方法群が5.14から5.18とほとんど変化していないのに対して、情動的メッセージ群は,4.71から5.21と大きく増加した.また、重要性認知の項目においても同様に情動群が大きく向上した。しかしながら、行動意図および行動の各項目については事前と事後において有意な差は確認できなかった。

また、理論的仮説を検証し,心理要因の効果を検証するために,相関分析を行ったところ、道徳意識,知覚行動制御性,態度,行動意図,行動に至るそれぞれの変数間の相関は有意水準1%もしくは5%で有意となっており,本研究で用いた予定行動理論の妥当性を支持している。

(2.得られた成果と今後の見込み)

本年度の成果をいかに記す.
・こころのバリアフリーの構成要素を知識,能力,態度の観点からあげ,具体的な内容を示した.
・こころのバリアフリーの教育プログラムとして実施される機会が多い,ワークショップやバリアフリー教室での疑似体験や介助体験は,「能力」と「知識」に重点が置かれ,態度を育成するプログラムが必要とされていることを示した.
・介助方法を提示することよりも情動的メッセージを提示するほうが,こころのバリアフリーの態度を変容させる効果がある.ただし,行動意図,行動変容への効果は限定的である.
・こころのバリアフリーの心理プロセスにおいて規範活性化理論,予定行動理論との適合性が高いことを示した.

今後は、ケーススタディ地域での心のバリアフリーの取り組み状況についてプログラム、主体についてまとめると同時に、情動的メッセージを用いたプログラムの有用性を多様な属性で確認する。その後に、情動的メッセージを取り入れた心のバリアフリーの取り組みパンフレットを作成し、全国の市町村のバリアフリーの担当部署にアンケートをとって、心のバリアフリーの取り組み実態、パンフレットの評価について把握することを予定している。

 

図-1 理論的仮説

図-1 理論的仮説

図-2 介助方法メッセージ群と情動的メッセージ群で用いた情報

図-2 介助方法メッセージ群と情動的メッセージ群で用いた情報

 

バリアフリー設備のご紹介

バリアフリー設備のご紹介

実績報告

成果報告会