バリアフリー推進事業

平成25年度 中間報告

研究助成名

高齢者及びロービジョン者の視覚情報受容歩行の研究 (42-7)

研究者名

(独法)産業技術総合研究所 伊藤納奈

 

研究内容

本年度は実験環境の整備・実験方法の確認・被験者の選定・予備実験を行った。

1.今年度の実験概要及び目的

視覚的な手がかりが少ない環境(実験室)において、照度の変化による見えにくさの歩行への影響について調べるため、予備実験を実施する。後に視覚情報を加えた環境で同様の実験を行い、歩行環境内の視覚情報の見やすさの変化とともに、それを見ながら歩く歩行がどのように変化するのかを調べる。  

実験条件 床面照度4段階:1ルクス,5ルクス,50ルクス,500ルクス  歩行環境:歩行距離4m×4m×3mのコの字型通路  被験者:ロービジョン被験者2名(夜盲があるタイプ,羞明があるタイプ)他3名  

測定内容:歩行様態(ビデオ画像)、歩行時の身体動揺および歩調(加速度センサー)、 歩行時の主観(空間の印象14項目,歩行動作の印象4項目,照明の印象3項目)  1回目:障害物無し 2回目:障害物有り  実施日:10月9,11日、11月27,28.29日  (発砲スチロール製寸法 約50p×50p×75p,   色:白、黒、灰)  

教示1回目:廊下の真中をまっすぐ歩く(周辺環境に対して自身の動きを調整する)  

教示2回目:障害物にぶつからないように歩く(目の前にあるものを回避する)

2.実験結果概要

被験者1(羞明があるタイプ)の場合、障害物がなければ身体動揺・歩調は照明によってそれほど変化がなかった。障害物がある場合は全体的に前かがみになり、1、5ルクスでは歩調がばらつき、接地の衝撃や蹴り出しが非常に小さく、50、500ルクスでは大きな変化がなかった。インタビューでは全体を通して不安や迷いなどはないが、障害物がない場合は1ルクスでは暗くてよく見えず、5ルクスでは床の小さいコントラストも見えるが、50ルクスになると床のパターンの小さいコントラストが見えにくく感じ、500ルクスになると眩しさを感じ床のパターンは非常に見えにくくなった、など見やすさの違いがあることがわかった。障害物がある場合は1、5ルクスではぶつからないように、という意識があり、50、500は一つ先にある障害物も見えたとの報告があった。

被験者2(夜盲があるタイプ)の場合、暗くて視認性が悪い環境では、身体動揺は前後左右とも非常に小さく、接地時の衝撃や蹴りだしも弱い、いわゆるすり足歩行となった(1ルクス)。明るくなるにつれ身体動揺は小さく接地衝撃は弱いものの蹴り出しが強くなり(5ルクス)、さらに明るくなると接地・蹴り出しともに強くなり(50ルクス)、身体動揺は50と500ルクスの違いがみられなかった。歩調については1、5ルクスは非常にばらつきがあり、50ルクスで0.5前後と安定し、500ルクスでは分布では0.5前後が多いもののばらつきがみられた。インタビューでは1〜5ルクスは壁と床の境目を目安に歩行するも、奥行きが不明瞭であり、50ルクスにあると壁に貼ってあるものが見え、500ルクスでは空間全体が見えた、との報告があった。

3.考察・検討事項

予備実験での主観と行動を照らし合わせると、被験者1の場合は障害物がない場合500ルクスの明るい条件で眩しい、また床が見えにくいと感じ、身体動揺の小さいすり足歩行となっている。また障害物がある場合は、暗いときに障害物が見えにくいためすり足歩行になり、明るいと眩しく感じるが障害物自体は見やすくなるため迷いや不安のない歩きとなると考えられる。被験者2の場合は1〜5ルクスは奥行きなど空間形状がわからない状態での歩行であり、50,500ルクスとなるにつれ視覚情 報が明確になり、進む方向が視覚的に確信できた状態での歩行だと考えられる。障害物がある場合、1〜50ルクスまでは歩調は安定せず、視覚的な情報を確認しながらの歩行であると考えられる。 このように予備実験のロービジョン者2名では見やすさ・見えにくさと歩行行動について関連があることが示唆され、以下のような特徴があると考えらえる。

1.実験室のような情報が少ない環境では、見えにくい場合は足元を確認しながら床、障害物、床と壁の境界などを手掛かりにして進める方向を判断する。そして見やすい環境では、奥行や空間の広がりを感じたり、一つ先の障害物も見えるなど、見えにくいときに比べ広い範囲を知覚することが可能となる。

2.上記手がかりが見えにくい場合、歩行行動(すり足歩行、前かがみ、歩調のばらつき、など)が生じ、見やすくなるにつれ、接地歩行の蹴り出し、接地 今後はさらに他のタイプのロービジョンや高齢者などの被験者を増やし、以下について検討したいと考える。

1. 視覚情報が不明瞭または見えにくいと感じる場合の特徴的な歩行行動の抽出

2. 見えにくい場合に利用している視覚情報、見えにくさと照度および視対象のコントラストの関係。

3. 視覚情報がさらに増えた場合の上記の歩行行動および視覚情報の変化

4. 被験者のタイプおよび照度ごとに、利用している視覚情報の特徴と歩行の特徴についてまとめ、見やすさなどの主観と比較する。

 

実験中の様子 左:1ルクス   右:500ルクス

実験中の様子 左:1ルクス   右:500ルクス

 

バリアフリー設備のご紹介

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