バリアフリー推進事業

平成25年度 中間報告

研究助成名

交差点における視覚障害者の横断支援のための歩行空間デザインに関する研究 (42-5)

研究者名

日本大学 稲垣具志

 

研究内容

1.視覚障害者のための交差点における安全支援の歩行空間デザインの整理  本研究で支援の対象となる交差点横断時の直進性に大きく関与する、横断口における支援設備の整備状況について現地調査を実施した。調査項目として、@視覚障害者誘導用ブロックの種類と敷設位置、A横断歩道上における施設、Bその他横断口における施設の3つの観点から状況を整理した。調査は、東京都、神奈川県、千葉県、静岡県、愛知県、大阪府、兵庫県、岡山県、広島県、香川県、徳島県の各都府県内の都市で主に幹線道路の横断歩道を有する交差点を対象とした。今後、引き続き調査を実施する予定である。  

@視覚障害者誘導用ブロックの種類と敷設位置  道路の移動等円滑化整備ガイドラインによると、横断口には点状ブロックを横断方向に対して垂直に2列設置することを基本とし、車道部と縁石との境界部から点状ブロックの端までの離隔は30cm程度が目安とされている。本研究では横断支援として横方向の線状突起を点状ブロックの前側あるいは後側に設置することを想定しているため(図-1)、現状の点状ブロック周辺の空間に線状突起の追加設置することを考えると、特にa)前方設置の場合に設置可能なスペースがどれほど残されているかが重要となる。調査の結果、縁石そのものの幅が大きい等の影響もあり縁石と点状ブロックとの離隔がほぼない事例(図-2)が多く確認され、このような場合に線状突起を前方に設置ためには誘導ブロックの大がかりな配置修正が必要となる。また、点状ブロックに至るまでの線状ブロックについては、横断歩道上の横断方向を示していないケース(図-3)、エスコートゾーンへ接続できていないケース(図-4)、そもそも存在しないケース(図-5)などが散見された。なお、点状ブロックの配列の中にエスコートゾーンへつながる部分のみ線状ブロックを設置する事例(図-6)も存在する。

A横断歩道上における施設
 横断歩道上にはエスコートゾーンが設置されているパターンがあるが、特に交通量の多い道路等では経年変化によって突起が摩耗し、足裏で容易に方向定位ができず、エスコートゾーンのみでは十分な支援とはなり難いケースが見受けられた(図-7)。また、横断方向に平行な線状突起(いわば線状ブロックのようなもの)を設置している事例(図-8)もあるが、エスコートゾーンと同様に摩耗により突起高が十分確保されていない状況が多く見られた。

Bその他横断口における施設
 横断口部分の縁石に小突起を敷設している事例がある。しかし、縁石の方向に依存するために縁石が横断方向と垂直に整備されない場合(図-9)は、方向定位に利用するとむしろ偏軌の原因となるおそれがある。
2.交差点横断歩道口における新たな誘導ブロック敷設方法の提案

(1)実施概要
本研究で提案する線状突起の設置に関して、全盲者の道路横断を支援するための触覚的な手がかりとして最適な突起形状、設置方法を抽出することを目的として評価実験を実施した。実験日は平成25年10〜11月の6日間、実験参加者は早期全盲(先天性、3〜5歳で失明)14人、後期全盲(6歳以上で失明)7人で聴覚に異常はない。大学敷地内の屋外道路に評価サンプルを設置し(図-10)、実験参加者に歩道上で横断口へ接近することを想定して歩行してもらい評価を行った。
1試行あたりの実験要領の概略を図-11に示す。実験参加者はサンプルから2〜3m程度離れた位置(詳細は後述)から実験者の指示により歩行を開始し、点状ブロックと評価サンプルを見つけて横断する方向が定位できたら静止すると同時に実験者へ合図をする。この時点で実験参加者に、@サンプルの見つけやすさ、A横断方向の定位のしやすさについて7段階で評価を求めた。その後、実験参加者は道路横断を想定して再度歩行を開始し、3m以上進んだ時点で実験者の合図により停止する。最後に実験参加者に、Bこのまま横断を続ける場合の安心度について7段階で評価を求め、これらの手順を1試行とした。評価は実験参加者からの主観的応答のほか、客観的指標としてC点状ブロックより1.5m手前の地点を通過してからサンプルを発見して方向定位が完了するまでの時間、D2回目の歩行開始から3m地点までに到達するまでにかかる時間、E2回目の歩行時に3m進む間に生じる横方向の変位を測定した。
評価パターンの構成要素は、表-1に示すように、点状ブロックに対する位置、点字ブロックまでの離隔、突起断面形状の3種類である。設置位置は、点状ブロックよりも車道側(前方設置)、歩道内側(後方設置)それぞれに対して、点状ブロックまでの離隔4cm、8cm、12cm、16cmを設定した。突起断面形状の水準は4つで、突起高は誘導ブロックの規格に合わせて5mmとした。また、横断口へのアプローチ方法に多様性を持たせるために、歩行開始位置の点状ブロックまでの距離と進入角度を試行ごとに変化させた。
評価パターンとアプローチ方法の全ての組み合わせについて歩行実験を実施すると、1つの組み合わせにつき1試行ずつとしても計192回の試行が必要なため実験参加者への負担や得られるデータの精度を考慮すると好ましくない。よって実験計画法に基づき、表-1の各要素をL32直交表に割り付けて評価パターンを32種類とし、これらをランダムな順序に並べたものを1シーケンスとし、異なる順序で2巡実施した(実験参加者1人につき64試行)。

(2)実験結果の概要
 実験データの解析により得られた結果は以下の通りである。今後はこれらの結果を総合的に判断し、評価サンプルを3〜4種類程度に限定した上で、より歩行距離の長い歩行実験を実施し横断支援性の高い仕様条件を抽出する予定である。

ア)客観的指標
発見・方向定位までの時間、2回目歩行開始からの3m歩行時間、3m歩行における横方向変位距離のそれぞれについて、表-1の各要素を要因とした多元配置分散分析を行った。まず、発見・方向定位までの時間については、点状ブロックに対する位置、点状ブロックまでの離隔、進入角度の主効果がそれぞれ0.1%水準、5%水準、0.1%水準で有意であった。図-12は、進入角度ごとに、点状ブロックまでの距離と点状ブロックに対する前後位置で方向定位までの平均時間を比較したものである。斜めから進入した場合は直角に進入した時と比べて方向定位まで1秒程度長く、前後位置の比較ではいずれにおいても前方設置の方が1秒程度短いことが分かる。実験参加者のほとんどは白杖ではなく足裏でサンプルを検知しようとしていたため、後方配置の場合は先に点状ブロックに気付いてから後退しながらサンプルを探索し方向定位するために前方配置よりもやや時間がかかったものと考えられる。点状ブロックまでの距離については、8cm、12cmが他よりもやや時間が短い。4cmの場合は点状ブロックの突起とサンプルとの弁別が難しく、16cmの場合は離れすぎて探索しにくい状況であることが認められる。

2回目歩行開始からの3m歩行時間においては、点状ブロックに対する位置と点状ブロックまでの距離の交互作用が5%水準で有意であった。図-13は点状ブロックに対する前後位置別に点状ブロックまでの距離によって平均時間を比較したものである。後方配置の方が若干時間が短く歩行速度がやや速い。点状ブロックまでの距離による違いは、後方配置でのみ見られるがその差は問題にならない程度である。
3m歩行における横方向変位では、点状ブロックに対する位置の主効果が1%水準で有意であった。図-14は点状ブロックに対する前後位置別に横方向変位の平均値を比較したものであるが、後方設置の方が5cm程度変位が抑えられていることが分かる。

イ)主観的指標
 試行ごとの実験参加者へのヒアリングにより得られた、サンプルの見つけやすさ、方向定位のしやすさ、横断安心度の7段階評価について、コンジョイント分析により考察を行った。サンプルに対する実験参加者の主観的評価は、評価に影響を与える複数の要因が複雑に絡み合って形成されていると想定されるが、コンジョイント分析ではそれらの要因、水準について相対的に重要度と影響度を解析することが可能である。表-2〜4が評価項目別の分析結果である。なお、モデルの適合度を表す相関係数は各評価項目においてそれぞれ0.937、0.934、0.900と高かった。評価における各要因の重要度が示されており、効用値が大きい水準ほど要因内での評価が高いことを意味する。
重要度はいずれの評価項目においても、点状ブロックまでの離隔、断面形状の順に高い値を示している。最も重要度の高い点状ブロックまでの離隔では、4cmの効用値が顕著に低く16cmの効用値も相対的に低い。断面形状では台形2本がいずれにおいても高く評価されている。点状ブロックに対する位置については、見つけやすさ、方向定位のしやすさ、横断安心度の順に重要度が高まっており、後方設置の方が好まれていることが分かる。線状突起を使って方向定位する際、つま先と土踏まずの間の足裏部分(内側足根小球)を使うことが一般的に考えられるが、前方設置では同時にかかと付近で点状ブロックの突起からの触覚も与えられる。そのため、棒状突起からの触覚のみに集中できる後方設置の方が方向定位しやすく、横断中の安心感も高まるということが示唆されている。

 

図-1 線状突起の設置位置

図-2 縁石と点状ブロックとの離隔がないケース

図-3 横断方向を示していないケース

図-4 エスコートゾーンへ接続できていないケース

図-6 エスコートゾーン直近のみ線状ブロックとするケース

図-7 エスコートゾーンの摩耗と破損

図-8 横断歩道上の線状突起

図-9 縁石の小突起

図-10 評価サンプルの設置状況

図-11 1試行あたりの実験要領

表ー1 評価パターンの構成要素

表-1 評価パターンの構成要素

図-12 方向定位までの平均時間

図-13 2回目歩行開始からの3m歩行平均時間

図-14 3m歩行における横方向平均変位

表-2 コンジョイント分析結果(見つけやすさ)

表-2 コンジョイント分析結果(見つけやすさ)

表-3 コンジョイント分析結果(方向定位のしやすさ)

表-3 コンジョイント分析結果(方向定位のしやすさ)

表-4 コンジョイント分析結果(横断安心度)

表-4 コンジョイント分析結果(横断安心度)

上 表ー3 コンジョイント分析結果(方向定位のしやすさ)

下 表-4 コンジョイント分析結果(横断安心度) 

上 表3 コンジョイント分析結果(方向定位のしやすさ) 下 表-4コンジョイント分析結果(横断安心度)

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