バリアフリー推進事業

平成25年度 中間報告

研究助成名

舗装表面の輝度比と粗さの違いを利用した面誘導方式バリアフリー歩道の開発 (42-4)

研究者名

九州大学大学院 樋口明彦

 

研究内容

1.本研究の概要  

今日、広く採用されている黄色の視覚障がい者誘導ブロック(以下、誘導ブロックとする)は、突起が車椅子利用者や高齢者にバリアとなる、視覚障害者もルートを外れた場合に復帰できない等の課題が残っています。  本研究は、誘導ブロックの代わりに輝度比が大きく、粗度も異なる二種類の舗装材料を歩道の左右で使い分けることで、多様なユーザーにとってバリアフリーとなる歩道(以下、面誘導方式バリアフリ―歩道とする)の開発を目的としています。  申請者等は、平成17年から長崎県三和町において、地域住民や障害者の方との検討を通して誘導ブロックを用いない新しいバリアフリー舗装を設計し、その成果を踏まえて、平成24年に長崎県三和町で延長約1kmの面誘導方式バリアフリー歩道が完成しました。  この面誘導方式バリアフリー歩道では、以下の考え方を導入しています。 @誘導の考え方: 線で誘導するという従来の誘導ブロックと異なり、歩道左右舗装面の輝度の差(輝度比)で示される明確な視覚的方向性によって弱視者を誘導し、歩道左右舗装面の表面粗さの違いを足裏感覚で認知させ全盲者を誘導する、輝度も表面荒さも車椅子利用者や高齢者には問題ない範囲で実現できる、という考え方が、本研究の最大の独創性、新規性です。このアイデアは、過去の本分野に於ける膨大な研究の蓄積をしっかりとレビューさせていただいた上で、本研究に協力していただいている視覚障がい者、車椅子利用者の方々との度重なるディスカッションから生まれたものです。 A経済性への配慮: 従来の誘導ブロックは比較的高価です。しかし、本研究で採用している場所打ちコンクリート及びコンクリートブロックは、一般的な歩道舗装に広く採用されており、安価、入手が容易、補修が容易であるため、普及に有利です。 B地域住民のための道路: 既存の誘導ブロックは、その場所を初めて歩いた人でも認識できることを前提に設計されていますが、この面誘導方式バリアフリー歩道は、地域住民など道路をよく知っている人間が通行する場合のことを前提として設計しています。こうした考えを前提することで、視覚障害者の誘導のためだけでなく、地域の車椅子利用者や高齢者に対してもバリアとならない、また健常者も違和感を感じることのない、多様な利用者のためのバリアフリー歩道となると考えます。  昨年度までの研究で、面誘導方式バリアフリー舗装の設計に参加下さった全盲者、弱視者、車椅子利用者の方々に、施工が完了した舗装面を通行して頂き、検証して頂きました。その際に、施工された区間が、当初、設計した面誘導方式バリアフリー舗装通りに施工されていないことが明らかになりました。また、不完全ながら現在施工された面誘導方式バリアフリー舗装には、いくつかの問題点が指摘され、さらなる改良が必要であることがわかりました。  そこで、本研究では、当初から面誘導方式バリアフリー舗装の設計に参加頂いた全盲者、弱視者、車椅子利用者の三名の方にも検討に参加頂き、新たに改良した面誘導方式バリアフリー舗装を設計しました。これを試験施工した舗装面を用い、面誘導方式バリアフリー舗装が、当初意図していた効果を実現できたか、多様なユーザーの視点から実地検証しました。

2.研究の進捗状況
(1)検討に用いる面誘導方式バリアフリー舗装の設計
 今回、試験用に施工した面誘導方式のバリアフリー歩道の構造図を図1に示します。
 試験用の歩道の設計は、8月〜9月にかけて、これまでの設計に参加頂いていた視覚障害者2名、車椅子利用者1名との検討を踏まえて、行いました。
 歩行試験は長崎市内の施設グラウンドを借用し、写真1に示すようにコンクリート、インターロッキング、ピンコロ石を用い、幅4.0m、延長5.3mの歩道を設置しました。写真2に試験歩道の施工の状況を示しています。施工期間は10月29日〜31日にかけて行いました。
 試験用の舗装材料には、コンクリートとインターロッキングの粗さの違いを大きくするため、より表面の形状の粗いインターロッキングを使用することにしました。コンクリート二次製品メーカーが、車いす利用者が不快に感じない範囲で表面に溝を施し滑りにくくしたインターロッキングブロックを製品化しており、今回は試験舗装を行う前に、それらのサンプルを取り寄せ、試験舗装の設計の検討に参加して頂いている視覚障害者2名に事前に白杖感覚と足裏感覚を評価してもらいました。その後、視覚障害者の方に最も評価の高かったインターロッキングブロックを車椅子利用者にも走行していただき、走行に支障が無いかチェックをし、最終的に写真3に示す溝切り型のインターロッキングブロックを試験歩道に採用することにしました。溝幅は平均4?5mmになります。
 コンクリート舗装面は木ゴテ仕上げを用いることにしました。C.S.R(バリアフリー法のガイドラインに記載されている床のすべり抵抗係数)測定業者にヒアリングを行った上で、転倒の危険は少ないと判断し、木ゴテ仕上げを採用しました。
 さらに、コンクリートとインターロッキングの粗さの違いだけでは認識できないかもしれないため、中央部分には補助的に割石加工したピンコロ石を設置しました。これまでの試験歩道の設計の検討メンバーである全盲者、弱視者、車椅子利用者との検討の結果、ピンコロ石の舗装面からの高さは5mmとしました。

(2)性能評価の方法
 (1)に示した試験歩道を用い、歩行、走行試験を行い、面誘導方式のバリアフリー歩道の性能評価を行いました。
 評価の方法としては、まず、前提条件として、試験舗装面の設計に参加頂いた全盲者、弱視者、車椅子利用者により設計通りに施工されているか確認して頂いた上で、輝度比を計測しました。輝度比は財団法人国土技術研究センター発行の道路の移動等円滑化整備ガイドラインに示されている弱視者が認識でき、健常者が違和感を感じない範囲として設定されている輝度比の基準1.5?2.5に収まっているか確認しました。
 その後、面誘導方式バリアフリー歩道のこれまでの検討経緯を知らない一般の視覚障がい者、車椅子利用者の方に試験舗装面を歩行、走行して頂く歩行、走行実験を行い面誘導方式バリアフリー歩道の性能評価を行いました。
 試験は、2013年11月7日に長崎市内のグラウンドで13時30分から18時30分まで行いました。
 長崎県内の盲学校、障害センターに協力を呼びかけ、全盲者9名、弱視者5名、車いす利用者5名に参加していただきました。
 全盲者、弱視者計14名には単純歩行試験および復帰歩行試験、車椅子利用者5名には車椅子走行試験に参加して頂きました。

 各試験の手順については、以下の()〜()で説明します。

()視覚障害者に対する単純歩行試験
試験の手順としては、まず、5分程度の時間を使い、試験の概要と、歩行してもらう試験歩道の舗装の機能について詳しく説明しました。さらに、試験者一人一人に補助者がつき、補助者に誘導してもらいながら試験者が試験舗装に慣れる時間を5分程度持ち、その後、10分程度、歩行試験に入るという流れで行いました。歩行試験は図2に示すルートを補助者と一緒に歩行して頂きました。
歩行ルートは、よく利用する道路を想定しているため、スタート地点は自宅から道路に出たところを想定し、場所を設定しました。そこから道路中央に向かって歩いていもらい、試験歩道が終わるところで止まってもらい、試験終了としました。
試験終了後、引き続き、()の復帰歩行試験に移りました。
単純歩行試験の状況を写真4に示します。
()視覚障害者に対する復帰歩行試験
 引き続き、復帰歩行試験に移りました。復帰歩行試験の歩行ルートについて図3に示します。
 単純歩行試験と同様に@のスタート地点を自分の家の前と想定してもらい、まずそこで試験の説明を再度行いました。
 その際に、単純歩行試験と同様にスタート地点@において補助者から「先ほどと同じように目的地に向ってあるいてください。ただし、今回の試験では歩道上には障害物があるので、その障害物を避けて元のルートに復帰してください。試験舗装が終わったところで、止まってください。」ということを説明し、歩行を開始してもらいました。その後、各自、Bの部分で障害物を避け、Cルートに復帰してもらい、試験歩道が終わったところで止まってもらい、試験を終了しました。
 その後、()単純歩行試験とあわせ、既存の誘導ブロックとの違い、面誘導方式バリアフリー歩道に対する意見、弱視者に対しては二つの材料のコントラストについて聞き取り調査を行いました。
 復帰試験の状況を写真5に示します。

()車椅子利用者に対する走行試験
 車椅子利用者に対しては、中央のピンコロ石部分の走行性と今回の試験から新しく採用した溝切り型のインターロッキングブロックの走行性を確認するための走行試験を行いました。
 試験の走行ルートを図4に示します。走行ルートは3種類あり、まず@中央ピンコロ石を横断するルート、Aインターロッキングブロックの溝に対して垂直に横断するルート、B最後にインターロッキングブロックの溝に対して水平に走行してもらいハンドルを切ってもらうルートを走行してもらい、終了後、聞き取り調査を行いました。
 聞き取り調査は、主に誘導用ブロックと比べて凹凸はどうだった、走行して問題はないか、溝に対して水平に走行しているところから曲がるときに問題はないか、という点について質問を行いました。
 写真6および写真7に車椅子走行試験の状況を示します。

3.試験結果
(1)輝度比の測定結果
 コンクリートとインターロッキングの輝度比を測定した結果、2.43でした。この結果は、財団法人国土技術研究センター発行の道路の移動等円滑化整備ガイドラインに示されている弱視者が認識でき、健常者が違和感を感じない範囲として設定されている輝度比の基準1.5?2.5の範囲を満たしていることがわかりました。

(2)歩行試験、走行試験の結果
()全盲者の意見
全盲者の方には二つの異なる舗装材料の表面の粗さの違いを感じ取って歩いてもらうことを前提にしています。
この誘導方法についての検証のため、今回設計した試験歩道は既存の誘導用ブロックと比べて歩きやすいかどうか質問しました。その結果、全盲者9名に対し、8名が「悪い」、1名が「同等」という意見でした。
コンクリートとインターロッキングの粗さの違いについては、全盲者5名全員が「意識すれば違いが分かる」という意見でした。特に、そのうち3名から「白杖を滑らせると粗さの違いが分かる」という意見がありまsた。
ピンコロ石については、全盲者6名が「(ピンコロ石が舗装面から出っ張っている)高さが足りないため、足裏・白杖で認識しにくい」という意見でした。
しかしながら、全盲者3名から、「慣れれば歩けるようになると思う」「ピンコロ石は先入観があるので分かった」と歩道を歩き慣れているかどうかに関する意見もありました。

4.これまでの研究の成果と今後の課題
以上の結果から、これまでの研究成果として、今回、試験舗装に採用したインターロッキングの車いす利用者に対する有効性など面誘導方式バリアフリー歩道について一定の評価は得られました。
しかしながら、歩行試験の方法や試験舗装面に問題があり、面誘導方式バリアフリー歩道の性能評価を十分に行うことができなかったと考えます。
試験方法については、試験に参加して頂いた障害者の方に対する説明不足や、試験舗装の情報を参加者が習熟するための事前のトレーニング時間の不足などの問題がありました。また、施工した試験舗装の問題については、ピンコロ石の高さに対する検討が不十分であり、当初の設計意図を完全に反映することはできませんでした。
今回、明らかになった問題点を考慮した上で、再度、試験舗装面の設計と施工を見直し、さらに試験時間を取った歩行検証を行うなど試験方法についても十分検討することで、性能評価は可能であると考え、来年度、再試験を行う予定です。

 

図1 試験用歩道の設計図

写真1 施工した試験歩道の舗装面

写真2 試験歩道の施工の様子

写真3 溝切り型インターロッキングブロック

図2 単純歩行試験のルート 

写真4 単純歩行試験の状況

図3 復帰歩行試験のルート 

写真5 復帰歩行試験の状況

 

図4 車椅子走行試験の走行ルート

写真6 車椅子走行試験の状況

写真7 車椅子走行試験の状況

バリアフリー設備のご紹介

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