バリアフリー推進事業

平成25年度 中間報告

研究助成名

災害公営住宅における高齢者の住生活支援の仕組みに関する研究 (42-3)

研究者名

大妻女子大学 松本暢子

 

研究内容

1.研究の進捗状況
1)災害公営住宅入居申請方法および入居基準の策定経緯の把握
いわき市による災害公営住宅の入居者募集・申請方法および入居基準等の策定経緯について、策定委員会の議事録および策定委員へのヒアリングを踏まえて、把握した。策定委員会の答申を経て決定された入居申請及び入居基準についての評価を検討した。今後、さらにヒアリング等を行うことで精査していきたい。
2)入居希望者へのアンケート調査実施
9月20日から29日までに入居希望者を対象とした復興協議会による説明会を実施した。その際入居希望者へのアンケート調査を実施し、分析中である。
3)入居希望者のグループ入居の支援およびその評価
入居募集がはじめられた後、復興協議会で推奨するグループ入居を行うために、10月20日説明会を開催した。前述の調査結果を踏まえ、グループ入居の支援を行った。
その後、12月24日の申請締め切りまでの間、復興協議会ではグループ入居のための調整を実施し多くのグループ入居の申請が行われた。関係者へのヒアリングを行い、これらの経緯を整理し、グループ入居の意義および実現のための条件等を検討した。グループ入居方式の有用性(居住者における評価)を検証するため、入居後の居住者調査を実施する予定である。

2.入居申請方法および入居基準の策定経緯
いわき市の募集方法の特徴は、災害公営住宅として提供される住宅(すべて)への入居を希望する世帯は、1度だけ申請をする方式をとる点にある。団地ごとに募集し、申請をするのではなく、一斉受付を行い、申請書に入居希望の団地を第1希望から第6期防まで記入することとなっている。入居基準および優先順位をつけるために、各世帯の事情に応じて得点をつける形式となっている。この配点をみると、配点が高くなっているのは以下の点である。これらから、いわき市が災害公営住宅への入居に際して、優先するべき入居条件がなんであったのかが読み取れる。
@地元住民であること。
Aグループ入居を推奨しており、コミュニティ維持を優先していること。
B高齢者、子どものいる世帯、障がい者等への配慮的配点があること。
本研究では、こうした入居方法および入居基準、とりわけ配点方式の意図について、策定委員会の議事録を通して、その経過を把握することとした。さらに、今後、こうした策定経緯および方法の影響について評価する必要があるものと考えている。

3.災害公営住宅入居希望者の調査結果(概算)
入居希望者の状況を把握するために、復興協議会が開催した入居に関する説明会において、出席者を対象としたアンケート調査を実施した。
調査期間 平成25年9月20日〜29日
豊間公民館において、入居に関する説明を4回開催した際に、調査を実施した。配布後、説明会終了後に回収した。説明会に出席できなかった入居者希望者を対象として、相談会を29日まで開催し調査表の記入を要請した。
豊間入居希望アンケートの回収枚数172件であり説明会の出席者に対し、世帯ごとに1件の提出をお願いした結果である。集計結果の概要(2013年10月16日集計)は、以下のとおりである。
(1)住宅のタイプ別希望状況(表1)
豊間に建築予定の団地は192戸(戸建住宅24戸、共同住宅6棟、うち1棟はペット共生棟)となっている。そこで、調査では希望する住宅のタイプを質問した結果(表1)、戸建住宅の希望が45戸と多く、建設数(24戸)を大きく上回っている。戸建住宅の希望が多いのは、震災前までの住宅タイプが戸建住宅であったことや高齢者が多いことと無関係ではないものと考えられる。
(2)入居予定の人数(表2)
入居予定の世帯人員別世帯数を集計した表2をみると、1人世帯および2人世帯が非常に多く、106世帯(61.6%)を占めている。こうした1人世帯および2人世帯は通常、2LDKを提供されることとなっている。そのため、建設される住戸規模(2LDKと3LDKを50%ずつ)と世帯人員別世帯数の釣り合いがとれていないものとなっている。
(3)共同住宅希望状況(表3)
共同住宅の入居希望世帯のうち、住戸規模(2LDK、3LDK)と居住階の希望を集計した結果、表3のとおりである。建設される192戸は、2LDKと3LDKが各96戸となっており、入居希望との齟齬が大きい。また、1階を希望する世帯が27.2%いることも、「戸建住宅を希望したいが希望が叶えられないので、せめて共同住宅の1階に住みたい」との現れと読み取れる。
(4)ペット飼育の希望
ペット飼育の希望世帯は、21世帯である。そのうち、戸建住宅を希望する世帯を除くと、17世帯であった。しかし、戸建住宅ではペット飼育が認められていないことから、戸建住宅を希望するのがペットを飼育するために共同住宅に入居するのか決めないと、入居申請ができないことが分かった。
(5)住宅タイプ別住戸規模別世帯数(表4)
戸建住宅を希望する世帯は、41世帯であった。2LDKと3LDK各12戸の計24戸建設予定であり、建設戸数に対して希望する世帯が多く、戸建住宅の希望が大きいことがわかる。共同住宅では、1階を希望する世帯が多くみられた。高齢者が多いことからも1階希望が多いと考えられる。
(6)世帯主の年齢別世帯数(表5)
世帯主の年齢を集計した結果を表5に示す。世帯主年齢の記入のあった154世帯の世帯主年齢の平均は58.97歳で、最年少24歳、最年長92歳となっている。最も多いのは60〜69歳の29.9%、次いで70〜79歳の24.0%でほぼ半数を占めている。40歳未満は11世帯(2.2%)にすぎず、60歳以上が64.3%を占めており、高齢者の希望が多いことが明らかである。

4.入居者調整の経緯
入居者調整の経緯について、復興協議会の事務局長に対するヒアリングを行った、以下に、概略を示す。
入居希望に関する調査の結果を踏まえて、元の住民が豊間の団地に入居するために入居者調整が必要なことが明らかとなった。そこで復興協議会は、入居希望の申請に際して、建設される住戸数や住戸希望等を踏まえた入居希望の調整を行うこととした。入居基準を満たす者に対して、10月20日に説明会を行い、調査結果を公表しグループでの申請を支援することとなった。10月20日は、いわき市から災害公営住宅団地への入居募集についての説明があった。その後、調査結果の説明を行い、入居基準の配点表から各自の得点を計算し、グループでの申請を行うためのグループづくりを行った。当日、20以上のグループが結成され、グループでの申請が進められることとなった。11月9日にグループの代表者会議を行い、15名程度が参加し、申請手続きの説明を行った。11月22日時点で28グループが結成されていることが記録されているものの、申請手続きの過程で入居基準を満たさないとされる世帯がでるなど、混乱した。入居基準や提出書類の不備など、申請手続きも容易ではなかった。12月10日頃に、12月24日の申請締め切り前の相談を受ける旨、団地の入居者にハガキで案内をした。12月12日〜22日までの間、復興協議会事務所において相談を受け、グループでの申請の支援を行った。協議会で書類を預かって、提出を代行するものもあった。

5.災害公営住宅へのグループ入居等の評価
事務局長へのヒアリングおよび入居予定者の感想(2月22日〜23日災害公営住宅での自治会づくりWS)から、災害公営住宅へのグループ入居についての評価を行った。
(1)入居方法への評価
いわき市の入居申請は、整備予定の災害公営住宅全戸を対象とした一斉申込みであった。対象者の公平性への配慮からとられたものであろう。団地ごとの申請にすると、希望倍率がむやみに水増しされるだけでなく、申請者間の公平性が保たれないものといえ、一斉申込は評価できるものの、手続き等の煩雑さを考えると、行政の大きな負担となったものと考えられる。申請書類の煩雑さは否めず、また、添付する必要書類も少なくない。入居希望者には高齢者が多く含まれていることから、こうした書類作成および提出が困難なケースもあったと思われる。復興協議会による書類作成の支援が行われたので、申請できなかった入居希望者がでなかったといえる。
(2)入居基準・配点方式の評価
入居方法等の策定委員会での議事録をもとに今後検討することとしている。実際に入居が内定した豊間の場合、いわき市が策定して示した入居基準・配点方式をもとに、入居支援を行ったといえる。地元優先であることや子どものいる世帯・高齢者等世帯を優先した配点に加え、グループ入居を高配点としているから、グループでの申請を実現した。配点表を検討すると、入居に対する考えが読み取れる。
(3)グループ入居方式の評価
コミュニティの維持を重視して、グループ入居(グループでの申請)が推奨されたと考えられる。阪神淡路大震災および中越大震災などでも採用されたものの、実績はそう多くない。今回、東日本大震災の復興でもグループ入居が推奨されているものの、実績が上がっているとは言い難い。豊間でのグループ入居の実現には@入居申請前の説明、A入居基準におけるグループ入居の配点、Bグループ結成の支援、Cグループによる申請手続きの支援等がなされたために、30以上のグループでの申請がなされたといえる。グループによる申請では、高齢者などの書類作成の困難な世帯に対する支援がなされること、行政にとっては申請手続きが世帯単位よりはグループ単位であることが事務手続きなどの簡素化につながれば、有用な点と考えられる。しかし、非常に手厚く支援をしない限りは、グループでの申請は難しいことも明らかである。たとえば、入居資格について、募集書類上では不明確な点があり、申請手続きの過程で問題が生じたこともあった。その結果、グループとしての申請ができなくなることもあり、他のグループとの再編成などが行われた。こうした再編成や、書類の確認などを復興協議会が支援したことで多くのグループでの申請を可能としたといえる。
(4)整備戸数と配分
いわき市は災害公営住宅入居希望に関する調査を2度行っている。こうした調査結果をもとに、整備戸数を決定している。豊間の場合は、その調査結果とほぼ同じ申請戸数であった。ただし、住戸規模については、調査結果でも小規模世帯が多かったものの、2LDKと3LDKを50%ずつ整備しており、小規模世帯でも3LDKに入居することを容認した整備計画であったものと考えられる。
(5)グループ入居の住戸割り振りの問題

入居内定者を集めた団地自治会づくりWSでは、「グループ入居なのに、違う住棟になった」などの声があがった。グループ入居を標榜して募集している団地において、グループの住戸割り振りの考え方を示す必要があろう。豊間の団地は6棟168戸(192戸のうち、戸建住宅24戸を除く)の共同住宅への割り振りが行われている。全体の規模が大きいことや家族構成・年齢を配慮して割り振りを行った結果、グループを考慮しない配置になってしまったのではないか。いずれにしても、割り振りの方針等、住民への説明が必要であり、安易な「グループ入居方式」は誤解を招くといえよう。
  1. 6.今後の予定
    グループ入居で期待されている効果(コミュニティの維持)が認められるかどうかを、入居後の調査で検討することとしたい。そのためには、グループ入居の行われなかった団地との比較検討も必要と考えている。また、グループ入居の評価について、いわき市住宅課に対するヒアリングを予定している。また、6月に入居が予定されていることから、入居後の調査を行い、震災前の住まいと仮住まいを経ての実態を把握し、被災地における高齢者の住生活の現状と課題を明らかにしていきたい。

 

表1住宅のタイプ別希望状況(単位;世帯)

表2世帯人員別世帯数(単位;世帯)

表3共同住宅の規模・階数別世帯(単位;世帯)

表4住宅タイプ別住戸規模別世帯数(単位;世帯)

表5世帯主年齢別希望別世帯数(単位;世帯 不明8世帯を除く)

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