バリアフリー推進事業

平成25年度 中間報告

研究助成名

搭乗拒否にみる航空アクセス権の合理的制限の範囲と手続き(42-1)

研究者名

日本大学 工藤聡一

 

研究内容

(研究目的)
物理的制約が大きく同時に犯罪の標的ともされやすい航空運送においては、安全・保安の要請に基づく事業者による搭乗拒否が、内外問わず一般に認められている。もっともこうした制限は基本権たる「移動の自由」と相反するものであり、その範囲と手続きをめぐり大いに議論があり得るところである。また我が国では、それが法令の授権に拠らずに事業者の約款を根拠とし同マニュアルに基づいて運用されている点で、状況は特殊的といわなければならない。本研究は、搭乗拒否権の根拠、公使基準と運用についての比較法的考察を通じて、航空運送契約の給付初段階における当事者の権利義務関係を解明し、ひるがえって、「移動の自由」の具体的請求権たる「交通アクセス権」を措定する作業としようとするものである。

(研究手順)

法解釈学の一般研究手法である、文献研究を主たる研究手法に位置づける。また、旅客の権利の明確化を図ろうとする国際的な立法動向に鑑み、我が国における立法論の構築をも視野に入れて、インタビュー形式による内外における立法例、事例の収集も併せて実施することとする。

(研究成果)

  1. 本年度は、本格的な研究に先立ち、搭乗拒否に関する既入手文献のサーベイ及び追加論文の収集と整理、判例の検索と体系化を行うとともに、「移動の自由」に関する米国の議論を確認した。
    1867年のCrandall対Nevada事件が、州を離れまたは通過することについて課税する州法は合衆国憲法違反であると宣言して以来、州境を越えて自由に移動しまたは旅行をすることができるのは、合衆国市民が享受できる基本的権利である、と考えられてきた。連邦国家が州の互いの協力によって成り立つ以上、互いの州民が行き来するのは、国家を支えるうえでの必須の作用であるというのであった。合衆国憲法修正5条は、連邦政府に対し適正手続きなしに個人の財産等を奪ってはならない旨定め、同修正14条は州政府に対し同様の適正手続きの保障を要求する(適正手続きDue Process)。従って、移動の自由を制限しようとする法令は、厳格な立法審査に服することとなる。以上「移動の自由」の議論を、航空旅客の搭乗拒否を根拠付ける各種法令について直接にあてはめた判例はまだない。そこで、運送関係法令をめぐる適正手続きを争点とする裁判例を参照し、搭乗拒否の基本権制限該当性の基準を抽出した。
    A)代替航空路線選択可能性
    まず、他の空港就航路線を代替的に選択できる状況にあるかどうかが、検討される。第5巡回区控訴裁判所は、旅客はもっとも便利な輸送手段を選択するという意味での、基本権としての旅行権を完全には保障されていない、と判断している。1982年のHouston対Federal Aviation Administration事件において、首都圏における空港機能の適正化と混雑回避のために、ワシントン・ナショナル(レーガン)空港から1,000マイルを超える空港への就航を制限し、そうした路線をワシントン・ダレス空港に割り当てる、いわゆるペリメータ(Perimeter)規制が公布されたことにつき、裁判所は「ペリメータ規制はナショナル空港への州際旅行の権利を侵害するものではない。なぜなら、同ルールはダレス空港への直行便と、僅かな時間差のみを生じる陸上接続交通を何ら制限していないからである。」とし、そのうえで「旅行者は最も便利な手段による移動を無条件で保障されるわけではない」と指摘した。
    B)代替交通手段選択可能性
    ついで、他の運送モードを選択的に利用できるかどうかが、検討される。第9巡回区連邦控訴裁判所は、選択可能な他の交通手段が存在する場合、一つの運送モードに対する何らかの制約は旅行の自由の制限には当たらない、とした。すなわちMiller v. Reed事件において、カリフォルニア州自動車局が、社会保険番号の不申告を理由として、運転免許更新請求を受理しなかった事例について、裁判所は、「このような措置は申立人の旅行の自由を制限するものではない。なぜなら彼は、他の公共交通機関を代替的に利用可能であるからである」、とした。

    これら代替航空路線選択可能性および代替交通手段選択可能性は、いずれも「選択可能性」という時間軸と無関係には成立し得ない概念を内包しているため、 本来的には、目的運輸機関の利用不能に伴う結果の重大性と絶大性についての予見可能性に、一定の配慮がなされるべきであるが、上記裁判例ではこれは直接議論されていない。Houston事件は行政計画の司法審査に関する事例であり、当事者の切迫した状況での選択を問題にしていない。一方、Miller事件でトリガーとなっているのは社会保険番号の不申告という原告の不作為であり、交通手段の利用不能を予見できたといえば予見できたケースであろうが、それに言及するまでもなく、代替交通機関が広範に存在する段階で、勝負が決まっていた。すると、予見可能性を基準として加えるか、または利益衡量上の要素として加味すべきかは、形式上、将来に向かって開かれていることになる。

    (次年度研究計画(予定))

    本年度、研究者へのインタビューを通じて、我が国における議論の動向の捕捉につとめたが、来年度は米欧の主要な行政・研究機関を訪問して行政官、研究者に対するヒアリングを実施し、国際的な文脈での立法・議論の最新動向の捕捉につとめる。現地調査とのシナジーをねらって、この時期の文献研究は比較法を中心に据える。以上によって得られた知見をもとに、論文化の作業を行うこととする。具体的には@搭乗拒否(過剰予約に基づくBumping、保安、安全上の理由に基づくDenied Boarding)に対する米欧の立法上の対応と判例理論、A搭乗拒否における当事者の契約関係の解釈と救済、B上記議論の我が国の事例への当てはめ、C我が国における立法試論、の各論点について、研究成果の取り纏めを行うことにする。

 

 

 

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