バリアフリー推進事業

平成24年度 成果報告

研究助成名

道路交通環境下における知的障がい者の交通コミュニケーション能力の把握とその応用(3-一3)

研究者名

公益財団法人豊田都市交通研究所 三村泰広

キーワード

知的障がい者、道路交通環境、交通コミュニケーション

研究内容

(研究目的)
知的障がい者の特徴である適応力・判断力の弱さからくるコミュニケーション能力の低さは、特に歩道、横断歩道、交差点といった道路交通環境下で安全面における深刻な課題を生じさせている可能性がある。本研究は、特に知的障がい者にとって課題となる道路交通環境下における交通コミュニケーションについてその実態を明らかにし、それを応用した知的障がい者のための社会基盤整備の方向性を示すことを目的としている。

(研究手順)

(1)知的障がい者の交通コミュニケーション能力を起因とする道路交通環境下での課題事象の把握

   愛知県豊田市に在住する知的障がい者の介助者を対象とした意識調査を通じて把握

(2)知的障がい者の道路交通環境下の交通コミュニケーション能力の測定

   歩道、横断歩道通行時における交通コミュニケーション能力を上記の意識調査と実証実験を通じて把握

(3)知的障がい者の交通コミュニケーション能力を応用した道路交通環境整備の方向性

   (1)(2)の結果を踏まえた知的障がい者のための道路交通環境整備の方向性を明示

(研究成果)

(1)知的障がい者の交通コミュニケーション能力を起因とする道路交通環境下での課題事象の把握

知的障がい者の「歩道、車道環境」と「公共交通環境」の2つの交通環境における「対人」「対空間」「対システム(交通・社会など)」の視点からの課題について、愛知県豊田市に在住の423名の知的障がい者の介助者に対する意識調査結果から整理したところ以下のような成果を得た。

1)歩道、車道環境の課題

対人:5割の方が能動的に相手に意思疎通を試みることが難しい
対空間:視界不良、路面の凸凹、歩道の狭さなどが安全面で比較的課題となっており、3割の方が交通量の変化や騒音などで通行できなくなる
対システム:3割程度の方が信号制御や工事などの空間の変化に対応できない 。

2)公共交通環境の課題

対人: 5割程度の方が緊急時などにその問題を車掌等に伝えられず、さらに相手が早口だったりする(対応が適切でない)と混乱してしまう
対空間:3割の方が車両内で立ち続けることが困難で、2割の方が乗降時の段差で転びそうになっている
対システム:5割の方が一人での療育手帳の提示、整理券の受け渡し、時刻表の理解が困難で、3割の方が突然の変更による乗り間違え経験がある

(2)知的障がい者の道路交通環境下の交通コミュニケーション能力の測定

1)交通コミュニケーション能力と介助者の教育方針の整理

上記の課題事象から集約される重要な交通コミュニケーション能力について主成分分析を通じて整理し、以下のような成果を得た。
@道路交通環境下での課題から交通コミュニケーション能力を表現する主成分として、「総合能力の高さ」、「能動的意思疎通能力の高さ-課題経験の少なさ」、「突発的変化への対応能力の高さ-課題経験の少なさ」を得ることができた。
A交通コミュニケーション能力に影響を与えることが予測される介助者の教育方針について主成分分析を実施した結果、「総合教育量の多さ」、「外出促進型教育重視-外出抑制型教育重視」といった主成分を得ることができた。

2)知的障がい者の特徴からみた交通コミュニケーション能力と介助者の教育方針の測定

1)の結果を踏まえ知的障がい者の特徴からみた交通コミュニケーション能力と介助者の教育方針の傾向を整理した結果以下のような成果を得た。

@交通コミュニケーション能力と知的障がい者の特徴の関係性

・個人属性からみた場合、特に総合能力、能動的意思疎通能力は年齢、障がいの程度、知的障がい以外の症状(特に脳性マヒ、ダウン症、自閉症)、多動・攻撃・自傷・破壊・収集などの特性によって大きく異なることがわかった。
・日常生活能力からみた場合、排泄、着衣、お金、外出、会話、文字、数、社会性、作業のいずれの能力も総合能力、能動的意思疎通能力の高さに比例するが、突発的変化対応力の高さには比例しないことがわかった。
・交通行動からみた場合、総合能力、能動的意思疎通能力、突発的変化対応力の高さはいずれも同行の必要性が明確な場合には比例関係にあり、能力の高さによって使用する交通手段の頻度も異なることがわかった。

A介助者の教育方針と知的障がい者の特徴の関係性

・個人属性からみた場合、総合教育量は年齢、知的障がい以外の症状、多動・攻撃・自傷・破壊・収集などの特性によって異なり、特に高齢、脳性マヒ、ダウン症などや多動などの特性があると外出抑制型教育が重視されることがわかった。
・日常生活能力からみた場合、排泄、着衣、お金、外出、会話、文字、数、社会性、作業のいずれの能力も深刻化すると総合教育量が多くなり、外出抑制型教育が重視されることがわかった。

・交通行動からみた場合、総合教育量は同行の必要性が明確な場合には多くなる。また使用する交通手段の頻度は教育のスタイルによって大きく差が生じていることがわかった。

3)実証実験を通じた交通コミュニケーション能力の測定

9名の被験者とその保護者を対象とした道路交通環境下での交通コミュニケーション能力として、@対人(回避が困難と予想される視覚障がい者の対向者)、A対車(対車両)、B対物(障害物)への対応状況をビデオ観察調査を通じて実施し、以下の成果を得た。
@対人(対向者):被験者の約半数が介助者が普段から自ら避けるように教育しているにも関わらず対向者が来ても自ら避けようとはしなかった。その被験者は自閉症もしくはダウン症であった。
A対車(対車両):横断前の左右確認回数が健常者(介助者)は車両の有無によってほとんど変化しなかった一方で、知的障がい者は減少もしくは増加するなど車両の有無によって大きく変化した。
B対物(障害物):歩道上に障害物がある場合、1/3の知的障がい者は足をとめ、数秒間に渡って迷う行動をとった。

(3)知的障がい者の交通コミュニケーション能力を応用した道路交通環境整備の方向性

(1)(2)の結果を通じて以下のような道路交通環境整備の方向性を示すことができた。

1)個人属性を加味したサポート体制の構築

脳性マヒ、ダウン症、高齢などの個人属性により交通コミュニケーション能力が低いと考えられる方々に対しては、STSなどによる支援体制の強化、構築が重要となる。

2)外出抑制型教育から外出促進型教育への転換支援

個人属性からみた場合に外出抑制型教育である必要がない方々に対する外出促進型教育への転換を促すセミナー開催、パンフレット作成など様々な形で支援する。その際、特に実証実験で課題が見えた「人」、特に視覚障がい者や妊婦、高齢者といった歩行に制限がある対向者とのコミュニケーション教育を充実させる。

3)合理的配慮がなされた道路交通環境整備の実施

知的障がい者の交通コミュニケーション能力のうち、特に「突発的変化への対応能力」は教育的対応でもってしても解決が難しいことが予想されるため、当該能力が必要とされる課題については、空間整備などのハード的対策を進めていく必要がある。具体的には以下のような具体的事象に対して提案を行う。
・「駅員や運転手に早口で立て続けに話しかけられると混乱してしまう 」ことに対しては、駅員に対するきめ細やかな教育の実施を行う。
・「駅で突然、電車の入るプラットフォームなどが変更されても気づかず目的地の違う電車に乗ってしまうことがある」、「駅やバス停に設置されている時刻表や案内板を理解したり、確認したりすることは難しい」、「通り慣れた道路が工事などで通行止めになると、目的地に辿りつけなくなることがある」ことに対しては、モバイルデバイスによる情報提供システムの構築目指す。その際、その有効性検証も併せて実施する。
・「歩行者と車の信号が分離された交差点など、ふだんと異なる仕組みで動く信号交差点では、混乱をしてしまう」ことに対しては、統一的な整備、もしくは統一化された空間を示すバリアフリールート案内の整備する。

 

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