バリアフリー推進事業

平成23年度ECOMO交通バリアフリー研究助成対象事業 成果報告

研究助成名

感触の異なる床仕上げ材による視覚障害者の誘導性能に関する研究 ―誘導性能に関わる要因の定量化 (237−学8)

研究者名

早稲田大学人間科学研究科 淺井俊介

キーワード

視覚障碍者,白杖,歩行誘導,床材

研究内容

(研究目的)
視覚障害者誘導用ブロックは,その有用性が世界的に評価されている反面,それを必要としない人にとっては突起が余計なバリアとなりうることも指摘されている.これに対し近年,感触の異なる2種類の床仕上げ材を用いて視覚障碍者を誘導するという試みが複数の施設において行われている(図1.2).本研究では,@このような施設で敷設される床仕上げ材に,視覚障碍者が沿って正確に歩ける性能があるかを評価し(本研究ではこのような性能を“誘導性能”と記す),Aその誘導性能に床仕上げ材のどのような性質が関係するのかを明らかにすることを目的とする.なお2種類の床仕上げ材に沿って歩行するためには,2種類の床仕上げ材の境界部を正確に把握する事が重要である.また正確に境界部を把握するためには,白杖を使用して探索することが重要であることから白杖の感覚に着目して研究を行った.

国際障害者交流センタービッグアイ  神奈川工科大学

図1国際障害者交流センタービッグアイ 図2神奈川工科大学

(研究手順)

本研究では,1)視覚障碍者を対象に床仕上げ材の誘導性能を評価する実験と,2)床仕上げ材の性質を評価する実験の2つを実施し,2つの実験結果を照らし合わせて,誘導性能に関与する床仕上げ材の性質を明らかにする方法を取った.なお2つの実験では,床仕上げ材として表面加工の異なる御影石4種類を用いた.
1) 床仕上げ材の誘導性能評価実験
本研究では,床仕上げ材の誘導性能を評価するために,白杖にて境界部を把握しながら歩行する状況を静止立位にて再現する実験を行った.被験者は視覚障碍者10名(平均年齢47.2±SD 5.2歳)とした.実験中は被験者に白杖の感覚にのみ着目してもらうために,ヘッドフォンにて聴覚情報を遮断した.被験者には,提示される2種類の床仕上げ材の境界部の場所を5秒間で探して指し示してもらう課題を課した.境界部の場所は試行毎にランダムに移動させた.実験では境界部の場所をどれだけ正確に把握できたかを評価し,評価項目は被験者が指し示した場所と実際の境界部との差の角度(以下,誤差角度)を計測した.なお誤差角度が大きくなれば,被験者は境界部を正確に把握できていなかったことになるため,誘導性能が低い床仕上げ材となる.
2)床仕上げ材の性質計測実験

本研究では,床仕上げ材のどのような性質が誘導性能に結び付くのかを明らかにするために,各床仕上げ材の性質の計測を行った.具体的には1)白杖に発生する振動の計測2)摩擦係数の計測を行った. 1)白杖に発生する振動の計測については,白杖のグリップに加速度計(共和電業社製AS-20HB)を固定し各床仕上げ材の上をスライドさせた際に発生する振動を計測した.また得られた加速度のデータは二回積分し変位のデータに変換して使用した.今回はその変位のデータの中から,白杖の長軸に対して垂直上方方向の変位(以下,白杖の上下動)のデータを用いて結果を表示した.2)摩擦係数の計測では,滑り抵抗係数CSRを計測した.CSRは建築現場で広く用いられる摩擦係数の1種であり,歩行中の踵接地時の滑りやすさを再現した値である.計測にはCSR計測専用の滑り試験器(ONO・PPSM)を使用した.

(研究成果)

  1. 人別のデータを表示し,◆は被験者10名の平均値のデータを表示した.
    図3より誘導性能と白杖の上下動との間に関係性が見られた.2種類の床仕上げ材の白杖の上下動の差が大きくなれば,誘導性能は高く,反対に差が小さければ,誘導性能が低くなり,また被験者の個人差も大きくなるという結果となった.施設に敷設する際には,誘導できない視覚障碍者が存在する状況は避ける必要があるため,本研究としては2mm以上の差がある2種類の床仕上げ材を選択することを推奨する.

    また図4より誘導性能とCSRの間には傾向が確認されなかった.摩擦力の公式F=μNでは,μはCSR,Nは白杖の重さにあたり,白杖の重さは0.3kgと非常に軽いため,それぞれの床仕上げ材のFの値も非常に小さくなる.このため床仕上げ材の間のFの違いも非常に小さくなるため,Fの違いによって床仕上げ材の違いを認識することは出来なかったと考えた.

誘導性能と白杖の上下動との関係 誘導性能とCSRとの関係

図3誘導性能と白杖の上下動との関係  図4誘導性能とCSRとの関係

 

バリアフリー設備のご紹介

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実績報告

成果報告会