バリアフリー推進事業

平成23年度ECOMO交通バリアフリー研究助成対象事業 中間報告

研究助成名

高次脳機能障害者が電車を利用する際の困難さに関する調査研究(237-社4)

研究者名

国立障害者リハビリテーションセンター 中山剛

 

研究内容

認知機能の障害,その中でも高次脳機能障害とは頭部外傷,脳血管障害,脳炎,低酸素脳症,脳腫瘍等による脳の損傷の後遺症として,記憶障害,注意障害,遂行機能障害,社会的行動障害など認知障害が生じ,これに起因して,日常生活・社会生活への適応が困難となる障害のことを指す.高次脳機能障害の中の一つに地誌的障害と呼ばれる道順や地理に関する障害があり,日常生活や就労において大きな障壁となっている.高次脳機能障害者数は,狭義の行政的な定義では全国で約27万人,広義の学術的な定義では東京都内だけでも約4万9千人であると推計されている(全国では約50万人と推計されている).
 本研究では高次脳機能障害者に対する交通バリアフリーを促進させることを目的として,高次脳機能障害者が電車を利用する際の困難さを調査する.その際,具体的に「どのような場面や地点で,どのような理由で困難を抱えるのか」を調査する.また,携帯電話のGPS機能等によるプロンプトが有効であるかも合わせて検証する.
1.高次脳機能障害者へのヒアリング
 高次脳機能障害者7名,家族3名に対する面談を延べ11回実施した。また、11月には当事者10名、家族12名を含めた関係者33名が参加して、高次脳機能障害者が電車を利用する際の困難さに関する会議を実施した。それ以外にメールや電話などでの情報収集を行った。調査結果の一部、特に高次脳機能障害者の抱える困難を中心に記載する。
【駅の改札を入るまでの問題】の一部を下記に列記する。

 
       
  1. 工事で改札が移動しており、改札の場所がわからず結局徒歩で帰った。
  2.  
  3. チャージ不足で出られず、混乱した
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  5. 身体障害者手帳の割引率等が交通機関によって異なるため、高次脳機能障害者にとってSuicaはかえって不便なことがある。
  6.  
  7. 新幹線に乗車する際、やっとの思いで自分の座る車両番号を見つけたが,その瞬間にドアが閉まってしまい結局乗れなかった。次に新幹線に乗る際には見送りの家族が席まで案内してくれたが、今度はその時に新幹線が出発してしまった。
  8.  
 

【電車に乗るまで/乗っている間/乗り換えの問題】の一部を下記に列記する。

  1. 本来障害者も乗れる女性専用車だが、その表示があまりにも小さいため男性の当事者は乗りづらい。杖使用や内部障害を抱える当事者では非難の目にさらされやすい。
  2. 見た目は障害者にみえないため、優先席を利用すると怒られる。一度は殴られた。
  3. バスによっては障害者手帳の提示も求められるが、手帳を鞄から出すのも高次脳機能障害者では混乱する。
  4. 駅名の表示がぽつんと上にあるだけではわかりづらく、気付かずに乗り過ごしてしまうことがある。
  5. (上の意見に対して)逆に情報がありすぎても混乱する。”次は○○駅です。その次は△△駅です”とのアナウンスを聞き、△△駅に反応して慌てて○○駅で降りてしまうことがある。
  6. 大きな駅では改札が多くてわかりにくい
  7. 記憶障害者では、(例えば改札の場所が変更になった場合)記憶を修正することがとても難しく感じる。

また、高次脳機能障害者の要望(の一部を)を下記に列記する。

  1. 子供用Suicaを高次脳機能障害者にも使用できるような制度がほしい。身体障害者だけでなく、高次脳機能障害に特化したサービスがほしい
  2. 改札ひとつとっても迷ってしまう高次脳機能障害者の声を聞いてほしい
  3. 純粋な身体障害者と異なり、高次脳機能障害者にとっては自身で判断することが難しいことを理解してほしい
  4. ホームドアを急速に全国展開してほしい
  5. わかりやすい表示をもっと増やしてほしい
  6. 駅構内の標識や固定された地図等でもしっかり現在地を教えてほしい
  7. 高次脳機能障害の人のことを考えた、シンプルな機能だけがほしい

2.高次脳機能障害者3名の協力による駅・電車利用時の観察研究
高次脳機能障害者3名の協力を得て,西武新宿線の新所沢から高田馬場駅あるいは東村山駅の往復経路における観察研究を実施した。観察研究の結果の一部、高次脳機能障害に起因したと考えられる困難を中心に一部を記載する。

  1. 降車駅で自分から進んでは腰を上げることはせず、降車の認識がなく、同行者からの声掛けが必要であった
  2. 出口ではなく乗り換え口の改札を出ようとしてスタッフに止められた
  3. 上り線のホームにむかうべきところを、行き先を確認せず、下り線のホームにむかってしまった
  4. 降りる必要のない駅で下車してしまった
平成24年2月28日現在、更に得られたデータを集計、分析しているところである。なお、ヒアリングに際しては東京高次脳機能障害協議会をはじめとする当事者・家族の会に協力を頂き、観察研究の実施の際には西武鉄道株式会社から協力を頂いた。謝意を示す。

 

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